それ、ホントに筋力不足?【格闘技ドクターが解説】パフォーマンスが変わる「呼吸の使い方」とは

 それ、ホントに筋力不足?【格闘技ドクターが解説】パフォーマンスが変わる「呼吸の使い方」とは
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筋力発揮と呼吸

せっかく丁寧にフィジカルをつくり上げても、「筋力のわりには技の威力が弱い」「球威が上がっていない」「できる運動の種類が非常に限られている」といった症例を拝見することがあります。見た目はしっかりしているし、上肢や下肢の筋力もそれなりにしっかりしている。統計を取ったわけではありませんが私の臨床経験上、筋力の割に「なぜ威力がないのだろう?」「なぜスムーズに動けないのだろう?」という疑問を抱えたスポーツ実践者は少なからずいるような印象を受けます。

ではその原因はいったいどこにあるのでしょうか?もちろん10人いれば10人の、100人いれば100人の「本当の原因」が存在します。患者さんの個々の発熱の原因が違えば、治療法もおのずから異なってくるように、ある動きにおいて「筋力が上手く発揮できていない」個々の原因が違えば、当然解決法も違ってきます。ですから、今から述べることは「これを試してみてはいかがでしょう?」というひとつの提案に過ぎないことを前置きしつつ、お話を進めてみたいと思います。(少なくとも「それは練習量が足りないからだ」「君のセンスが無いからだ」といった大雑把な思考停止は避けたいところです)

筋力を十分に発揮できない、その原因のひとつとして挙げられるのが、呼吸です。これをいちばん手っ取り早く体感していただくために、ちょっとした実験にお付き合いください。

以下のような形でパンチを出したフォームをとり、パートナーの方に前から後ろ方向に、前腕・上腕の連なる直線方向に押してもらいます。(ひとりで行う場合は、拳を壁に押し当てて反作用を感じてみてください)この時、次の2つのパターンを比較で試していただきたいのです。

A) 息を吸いながら押す
B) 息をはきながら押す

写真で見てみましょう。

パンチ
A)息を吸いながらのパンチ 写真:『格闘技医学 第2版』(秀和シムテム)より
パンチ
B) 息をはきながらのパンチ 写真:『格闘技医学 第2版』(秀和シムテム)より

いかがでしょうか?おそらくはAパターンよりもBパターンの方が、相手に(壁に)強く力が伝わったのではないでしょうか?私たちは重たい荷物を持ち上げる時に、自然と(意識せずに)声を出すと上手くいくことを経験上知っていますが、「声を出す」という行為は、「息をはく」を音声化した運動とも言えます。

パンチやキックにしても、卓球のスマッシュにしても、シュートにしても、砲丸投げにしても、息を吸いながらやると上手く生きません。しっかり息をはいて、時には大きな声を発しながら、大きな筋力を発揮する。それが私たち人間の身体のもった特性なのです。

(ここでは、パンチという形で実験を行いましたが、投球動作の途中で一時停止をしてパートナーにブレーキになってもらう、腕立て伏せで限界が来た時、「息を吸う/息をはく」の違いを試してみる、ボールを遠投するときに息を変えてみる、などなど様々な応用が可能ですので、ぜひ試してみていただければと思います。)この簡単な実験を通して、全身の筋力発揮と呼吸はどうやら関係がありそうだ、と感じていただければと思います。

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取材/北林あい

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二重作拓也

二重作拓也

挌闘技ドクター/スポーツドクター リハビリテーション科医師  格闘技医学会代表 スポーツ安全指導推進機構代表 「ほぼ日の學校」講師。 1973年生まれ、福岡県北九州市出身。福岡県立東筑高校、高知医科大学医学部卒業。 8歳より空手を始め、高校で実戦空手養秀会2段位を取得、USAオープントーナメント高校生代表となる。研修医時代に極真空手城南支部大会優勝、県大会優勝、全日本ウェイト制大会出場。リングドクター、チームドクターの経験とスポーツ医学の臨床経験から「格闘技医学」を提唱。 専門誌『Fight&Life』では12年以上連載を継続、「強さの根拠」を共有する「ファイトロジーツアー」は世界各国で開催されている。 またスポーツの現場の安全性向上のため、ドクター、各医療従事者、弁護士、指導者、教育者らと連携し、スポーツ指導に必要な医学知識を発信。競技や職種のジャンルを超えた情報共有が進んでいる。『Dr.Fの挌闘技医学 第2版』『Words Of Prince Deluxe Edition(英語版)』など著作多数。



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