それ、ホントに筋力不足?【格闘技ドクターが解説】パフォーマンスが変わる「呼吸の使い方」とは

 それ、ホントに筋力不足?【格闘技ドクターが解説】パフォーマンスが変わる「呼吸の使い方」とは
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スポーツにおいて、思うような動きができないと、つい筋力トレーニングに走りがち。 でも、その前によく見直したいのが実は「呼吸」なのです。呼吸とパフォーマンスの関係について、現役スポーツドクターの二重作拓也先生に聞きました。

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筋力を最大限に発揮するための「呼吸」とは?

今以上を求めるならば…

ボクシングで強いパンチを打ちたい、野球で豪速球を投げたい、サッカーで鋭いシュートを放ちたい、ダンスでビシッと力強いポーズを決めたい、難易度の高いヨガポーズができるようになりたい…そんなとき、皆さんはどのような練習を行いますか?

「威力、速さ、キレなどのパフォーマンスを向上させるにはフィジカルの強さが大切」ということで、筋力トレーニングに励む方も少なくないようです。スポーツにおいて、より高いレベルを求めるならば「筋力は重要な要素」と言えるでしょう。パンチにしても、シュートにしても、ポーズにしても、最低限の筋力が無ければその技術を遂行することができないですし、ましてや「今以上」の威力を求めるならば、(フィジカルの強化に重きを置くか、技術練習の中でフィジカルを強化していくか、などの方法論の違いはあれど)フィジカル強化は避けては通れない道だと言えましょう。

例えばウエイトトレーニングや自重を使ったトレーニングは回数や継続時間、セット数といった「数値」でハッキリと記録されますから、定期的に継続していけば筋力の向上がリアルに実感できますし、「強くなっている自覚が得られやすいトレーニング法」と言えるのではないでしょうか?

かく言う私も大学時代、直接打撃制カラテの試合で勝つためにウエイトトレーニングをやり込んだ時期があります。そのきっかけは、ある無差別のトーナメントでした。私よりも背が高く、体重もはるかに重い相手と対戦した時のことです。試合開始から終始、相手に前進され、ずるずると後退を余儀なくされたのです。自分なりにしっかり練習してきた打撃技も、距離を完全に潰されて出す機会さえ失われ、ほとんど何もできずに負けてしまいました。

どんなに屈強な人間でも、加速して向かってくる4トントラックには全く太刀打ちできないように、どんなに技術があっても「圧倒的な前進力」「打たれ強さ」「重さ」の前にはどうしようもないことを身をもって学んだ敗戦でした。

私のような格闘技系・コンタクトスポーツ系は、相手に吹っ飛ばされたりすると、試合自体が成り立ちませんから、当たり負けしない身体がベースに必要で、技術はその上に成立するのです。相撲などで体格に劣る小兵の力士が活躍する場面がありますが、小兵の力士の動きをよく観察すると、いきなり横に回り込むわけではなく、一度相手にぶつかり、拮抗した状態から回り込んでいます。実際に相撲を取ってみればわかりますが、「横に、横に」動くだけだと、ベクトルの方向が約90度違いますから、相手の前進する力に容易に持っていかれてしまうんですね。そうならないようにまずは正面からぶつかっても当たり負けしないフィジカルをつくる。また技術においても、相手の圧を受けながらでも動ける技術をつくる。そういう方向性が大切なんだと思います。私の場合は、ベンチプレスで最高重力100キロを超えたあたりから、「フィジカル負け自信」のようなものが確かに芽生えました。

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取材/北林あい

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二重作拓也

二重作拓也

挌闘技ドクター/スポーツドクター リハビリテーション科医師  格闘技医学会代表 スポーツ安全指導推進機構代表 「ほぼ日の學校」講師。 1973年生まれ、福岡県北九州市出身。福岡県立東筑高校、高知医科大学医学部卒業。 8歳より空手を始め、高校で実戦空手養秀会2段位を取得、USAオープントーナメント高校生代表となる。研修医時代に極真空手城南支部大会優勝、県大会優勝、全日本ウェイト制大会出場。リングドクター、チームドクターの経験とスポーツ医学の臨床経験から「格闘技医学」を提唱。 専門誌『Fight&Life』では12年以上連載を継続、「強さの根拠」を共有する「ファイトロジーツアー」は世界各国で開催されている。 またスポーツの現場の安全性向上のため、ドクター、各医療従事者、弁護士、指導者、教育者らと連携し、スポーツ指導に必要な医学知識を発信。競技や職種のジャンルを超えた情報共有が進んでいる。『Dr.Fの挌闘技医学 第2版』『Words Of Prince Deluxe Edition(英語版)』など著作多数。



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