ポジティビティがメンタルを蝕む?心理カウンセラーが懸念する「偽りの自己肯定感」とは

 ポジティビティがメンタルを蝕む?心理カウンセラーが懸念する「偽りの自己肯定感」とは
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近年「自己肯定感ブーム」といわれるほど、世間ではメンタルヘルスやパーソナリティへの関心が高まっています。

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今回は『「自己肯定感低めの人」のための本』の著者であり心理カウンセラーの山根洋士さんに、偽りの自己肯定感を持つことの危険性や「ありのまま」の本質についてお話を伺いました。

世の中にある「偽りの自己肯定感」に気をつけて

――前回は、幼少期の環境が自己肯定感に与える影響についてお伺いしましたが、大人になってから自己肯定感の低下に拍車がかかってしまうこともあるのでしょうか。

大人になってから起こる問題として、学校でのイジメ、ママ友との問題、会社での激務などがあげられるでしょう。そういったことを抱えて「死にたい」という思考に陥ってしまう人も少なくありません。そうなると、それはもう自己肯定感が高いとか低いとかの話ではなく、精神疾患の領域に入ってしまいます。

心理カウンセラーは病気の診断をすることはできません。私のところに、そのような悩みを抱えた方がいらっしゃったときは、心療内科や精神科の受診をおすすめしています。

死にたいという心理状態に陥りやすいのは、「〇〇をできる自分には価値があって、〇〇ができない自分には価値がない」という、偽りの自己肯定感を持っているパターンです。本当なら、できないことがあっても、その人の価値自体はなにも変わりません。

ですが、間違って定義を認識してしまうことで、結局は心のバランスを保つことが難しくなり、精神を患ってしまう可能性も考えられます。

――世間の精神疾患への理解も、徐々に深まってきていますよね。自己肯定感という言葉が広がりをみせる一方で、山根先生が懸念している「偽りの自己肯定感」について、もう少し詳しくお聞かせください。

山根先生:一般的にみなさんが使っている自己肯定感の意味合いは、自信や自尊心といった表現に近いように思います。これは、本来の自己肯定感の定義とは少し違っています。

前回もお話した「自分はありのままでいい」「生きているだけで価値がある」という定義を理解せずに、ポジティビティなど自己肯定感に関する良いところだけが世間に広がっている。これは、危険とまではいかなくとも、あまりいい状態とはいえません。

偽りの自己肯定感を持つことで、反対に自分のメンタルが崩れやすくなってしまうケースもあります。

よくあるのが、「ポジティブはいい、ネガティブはダメ」という考え方。これは自己肯定感とはかけ離れた考え方です。本来、ありのままの自分でいいわけですから、「ポジティブな自分もネガティブな自分も、それでいい!」と感じるはず。

定義を理解せず、ポジティビティや自信を持つことの強要みたいな風潮が広がってしまっていることで、自己肯定感という言葉に苦しめられてしまっている人が増えているように思います。

――山根先生が考える「ありのままの姿」についても、詳しくお聞かせください。

山根先生:先ほどのポジティビティの強要のほかにも、承認欲求について論争をみかけることがあります。「あの人って承認欲求が強いよね」といった感じで、SNSで承認欲求を満たしている人を悪とするような風潮にも、少し疑問を感じます。

そもそも、承認欲求がない人間なんていません。もちろん過度な欲求はよくないかもしれませんが、本来はあって当たり前のものなのです。

「依存性」に関しても同じで、人間は必ずなにかに依存して生きています。毎日新聞をチェックしている、毎日電車に乗っている、毎日〇〇を食べている……これらも依存の一つですから。これら欲求や依存は、ポジティブ・ネガティブと同じで“誰にでもあるもの”であり、“人間が生きるうえで必要なもの”ということを、もっと知ってほしいと思います。

2015年にディズニー作品『アナと雪の女王』の「ありのままで」というフレーズがブームになりましたね。ですがこれも、「ありのままでいい」という表面上の意味だけがブームになり、やはり「ダメな自分もそれでいい」という本質は、まだ浸透しきっていないように個人的には感じています。

変えられない過去やトラウマは、上手く付き合う方法を知ればいい

――本来の自己肯定感の意味や定義を知っていても、幼少期の環境や過去のトラウマなど、自分では変えられないものによって自己肯定感が低くなっている方もいるかと思います。そういった場合、どのような考え方や対処法がありますか?

山根先生:当たり前のことですが、過去に起こったことを消すことはできません。少し突き放したように聞こえてしまうかもしれませんが、良くも悪くも諦めるしかない。

ただし、過去との付き合い方で気をつけてほしいのは、「なかったことにはしない」という点です。無理に過去の感情やトラウマを押さえ込もうとすると、いつか何かしらの形で爆発し、ときには精神疾患といった形で弊害として現れかねません。

もちろん、一時的に昔を思い出して嘆き悲しむことは人間にとって必要ですので、やめる必要はありません。そんなときは、感情に浸るだけ浸ってしまったって良いのです。

対処法としては、過去に無理矢理アプローチするのではなく、「今日をどうやって楽しく生きるか」ということに目を向けることがポイントとなります。

過去の出来事やネガティブな感情に囚われてしまっている方は、大抵が今日をどう楽しく生きるか考えることを完全に忘れてしまっています。この傾向は、トラウマなどを抱えていない、いわゆる成功者のような人にもよくあることです。お金も名誉もあって、なに不自由ない生活を送っている。しかし、今日を楽しく生きることに意識が向けられていないことにより、成功者であってもうつ状態になってしまう方も少なくありません。

――今日を楽しく生きるために、読者の方がすぐにでも始められる簡単な方法があれば教えてください。

山根先生:新型コロナウイルスの影響で経済的に苦しい状況にある、やりたいことができない、行きたいところにいけない……そんな方も多いでしょう。積極的に外出したり、大勢で集まったりする機会が得られない現在だからこそ、試してほしいことがあります。

それは、沈む夕陽を眺めたり、道端に咲いている花に目を向けたり、風の匂いを感じること。あまりにも当たり前すぎるので、特別騒がれることもない地味な方法ではありますが、心理療法の面でも効果があるとされています。お金や特別な道具がなくても誰でも実践することができ、なおかつ手軽で効果的な方法です。ぜひ試してみてください。

最近ブームになっているソロキャンプなんかは、その代表的な例ではないでしょうか。

豪勢な食事や大型イベントでなくとも、ひとり自然に身を置き、鳥や川の音に耳をすませる。森や山の匂いを感じ、ひっそり咲く野花に心を奪われることを味わう。

今日を楽しんで生きることの大切さに気づいている人は、すでにこういった形で実践しているケースが増えてきています。自己肯定感を考えるうえでも、とても良い傾向といえるでしょう。

●お話を伺ったのは…山根洋士さん

山根
山根洋士さん

これまで、8,000人以上の悩みを解決してきた心理カウンセラー。自身も両親の離婚、就職の失敗など人生の挫折を経験し、激務で身体を壊して入院生活を送るなか「なんのために生きるのか」を模索した結果、心の風邪薬のようなカウンセリングを提供したいという想いから、カウンセラーとなる。著書に『「自己肯定感低めの人」のための本』(アスコム)があるほか、YouTubetwitterでも発信。

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ヨガジャーナルオンライン編集部

ヨガジャーナルオンライン編集部

ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



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