「100人100通りの生理がある」ということ|『生理CAMP』プロデューサー工藤里紗さんの思い
個性豊かなゲストを招き、生理や生理用品について語る番組『生理CAMP2020』を手掛けた、テレビ東京プロデューサーの工藤里紗さん。放送は深夜2時台だったにも関わらず、想像以上の反響を得たそう。そしてこのたび発売された書籍版『生理CAMP : みんなで聞く・知る・語る!』を監修。あらためて工藤さんに「私たちにとっての生理とは」を伺いました。
キャンプファイヤーのように輪になって生理のことを話せるような番組を作りました
――性教育後進国と言われ続けている日本ですが、昨今ようやく性教育への意識が高まりつつあると思います。特に本やYouTubeなどでは、性に関するトピックが多角的に取り上げられるようになりました。工藤さんは、主戦場とするテレビで、なぜ生理の番組を作ろうと思ったのですか?
工藤さん:私自身、初潮が人より早かったこともあり、生理にずっと関心を持って生きてきました。知識がないまま初潮を迎え、周りはまだ誰も生理になっていなかったので最初はすごく孤独でしたね。それから仲間が少しずつ増え、友達や先生と話すことで「生理の悩みは共有できる相手がいると楽になる」ということを体験したんです。
そして近年、#me too運動のムーブメントから始まり、生活の中でも「フェムテック」といった言葉も容易に聞かれるようになってきました。以前から考えていた企画ではあったのですが、時期的にも今ならいけるんじゃないか、ということになり番組が実現しました。
私としては生理の番組を放送することは「そろそろ大丈夫でしょ」と思っていましたが、決定権を男性が握ることが多い中で、やはり番組としてどうなのかと心配する声もあり。一方で社内からは、営業の女性が応援してくれたり、広告会社やサニタリー業界からも支持してくれる人もいて、それはうれしかったですね。
――出演者はどのような基準で決められたんですか?
工藤さん:生理って分断を生みやすいテーマだと思うんです。「どんどん語っていこうよ」と考える人もいれば「恥ずかしい」と考える人もいる。「神聖なもの」と捉えている人もいれば、「めんどくさくて辛いもの」と思っている人もいる。ただ私としては、そんなさまざまな意見をぶつけ合うバトル構造の番組にはしたくなかったんです。「生理CAMP」というタイトルにもなっている通り、キャンプファイヤーのようにみんなで輪になって、生理に関するいろんなモヤモヤを吐き出せるような場にしたかったんです。
なので、出演者のキャスティングは、「どんな意見も受け入れられる人」「人の話を聞くことができる人」という基準で選びましたね。バービーさん、森三中の黒沢さん、ゆきぽよさん、りゅうちぇるさん、みなさん自分のことが語れるし、人の気持ちを受け止めることもできる方たちでした。
通りすがりの視聴者にも興味を持ってもらえたことがうれしかった
――そうやってスタートした「生理CAMP」。深夜2時からの1回きりの放送にも関わらず、放送前も放送後も想像以上の反応があったそうですね。
工藤さん:事前の告知段階から、楽しみにしてくれている人も多く、期待の高さを感じました。「自分の住んでいる地方では放送されない!」という書き込みも多く、「それはすみません…」という感じでしたけどね(苦笑)
放送後の反響も大きかったのですが、意外だったのは、生理への関心が高い人ではなく、どちらかというと関心の低い人が多く見てくださったということ。多分通りすがりにこの番組を見てくれた人なのでしょう。
そういった人の中には、中学生の時に初めて使ったナプキンのブランドをずっと変わらず使っているという人や、「生理CAMP」でタンポンを初めて見たという人など。私たちが「これぐらいはもう知っている情報かな」と思っていることも、まだまだ知らない人が多いんだな、と認識させられました。そして、そんな人に直接リーチできるのがテレビの強みなんだ、とあらためて意義を感じましたね。
生理は「100人100通り」便利なアイテムも時には「押し売り」に
――生理に関しては、誰かと情報交換をすることも少ないので、関心がない人はずっと知識がとまったままだったりしますよね。最新のフェムテックや生理に関する知識を常にアップデートする、いわゆる「情報を取りに行く」人というのは、意外と一部だけなのかもしれません。
工藤さん:そうなんです。番組に出演してくださった森三中の黒沢さんが言っていた言葉ですごく衝撃だったことがあって。「タンポンハラスメント」という言葉なんですが、黒沢さんの周りの女性芸人さんなんかが、タンポンを強くすすめてくると。「タンポンを使えばプールにも入れるし便利だよ」というふうに。おすすめする側はもちろん好意で言っているのですが、それは黒沢さんにとって「タンポンハラスメント」なんですよね。タンポンを使いたくても怖くて使えないとか、そもそも使いたいと思わないとか、使わない人にはその人なりの理由があって。「これいいよ」とすすめられると圧に感じてしまう。「おすすめされる圧が辛い」という人がいることを忘れてはいけませんよね。
私は「100人100通り」の生理がある、という言い方をするのですが、生理の重い・軽いもそうだし、生理痛の症状もそうだし、生理用品に何を使うかもそう。本当に一人一人違うので、相手を尊重することの大切さをあらためて考えさせられました。
――そんな「100人100通りの生理」が、最新刊「生理CAMP」にはたくさん描かれています。この本はどういう思いで作られましたか?
工藤さん:テレビは深夜番組だったので、大人の女性にフォーカスしたものでした。なので、書籍は男性にも見てもらえるようなものにしたいなと思って作りました。タイトルには「生理」という言葉がありますが、装丁はキャンプをイメージしたナチュラルカラーにして、家庭の本棚に自然にフィットして、家族の誰もが気軽に読めるように仕上げました。
内容は、文字は少なめにしてコミックエッセイを中心に描かれています。他には、男性を含めいろいろな立場の人による生理の体験談もたくさん。これを読んで「こんなこと人前で話してもいいんだ」「嫌われたり引かれたりしないんだ」という風に共感してもらえればうれしいですね。
不安を感じている人に具体的な道筋まで提示する番組作りが目標
――最後に、工藤さんがテレビで今後やっていきたいことはありますか?
工藤さん:声を出しにくい人の声を拾い、それをでっかい声にして発信するのがテレビの役目だと思っています。声の大きい人はすでに自分で発信しているので(笑)。生きづらさを感じている人に寄り添い、「どう生きる?」というようなテーマの番組を今後は作りたいですね。
反対にテレビは流れていってしまうもの。本のように手元にずっと置いておいたり、繰り返し見るというものではありません。例えば、性教育の話題を取り上げた時に、本なら巻末にその本に携わってくれたお医者さんのクリニック情報やその他の有益な情報をまとめて紹介することができます。しかし、テレビではどうしても「興味がある人は、自分で婦人科を探して行ってみてください」という形で終わってしまいます。そもそも多くの人にとって、婦人科はハードルが高いところ。そんな人たちに「気軽に行ってくださいね」と言っても届きません。今後は、困った人たちがきちんとアクセスできる導線までをテレビの中で作っていけたら、と考えています。不安を感じている人に手を差し伸べ、誘導したり、公的な機関を紹介できるなら、そこまでつなげるとか。そんなことを考えています。
プロフィール:工藤里紗さん
慶應義塾大学環境情報学部卒。2003年にテレビ東京に入社後、『生理CAMP』『シナぷしゅ』『昼めし旅』『極嬢ヂカラ』『アラサーちゃん 無修正』などヒット番組を多数手がける。子供向け経済ボードゲーム『マネーモンスター』(11月11日発売予定)も開発。監修した書籍『生理CAMP : みんなで聞く・知る・語る!』(集英社)が絶賛発売中!
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ヨガジャーナルオンライン編集部
ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。
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