"体"を媒体に表現活動を行う作家チョーヒカルが語る「誰もがエイリアンである」という言葉の真意
ひとりひとりがエイリアン。人と違うことをポジティブに捉えたい
——アメリカではウェブサイトで「エイリアン・プロジェクト」というプログラムを制作しているそうですね。
「デザイン畑出身であり、私自身が日本で育った中国人という、狭間にいる経験から制作しています。大きな団体(属性、ラベル)では居場所を見つけられない人に対して、国籍、人種、性別、性志向など大きな団体じゃないミクロなレンズで人を見ることで差別をなくしたいね、と。誰もが大きい団体に属してはいるけれど、一人一人が違う「エイリアン」なんだということで、エイリアンメーカーでデザインを選んでもらいます。さらに、自分が孤立している=エイリアンだなと思うところを2つ書いてもらって、それが自分のエイリアンの特徴になります。自分のコンプレックスや孤立の要因となっているものを、エイリアンのかわいい性格として客観視して捉え直そうというものです。資金が調達できれば、知らないエイリアンとも会話ができるプラットフォームにしたいですね」
——色や形や動きもかわいい。コロナ禍での不安から世の中が排他的になっているなか、デジタル技術がボジティブに活用されていていいですね。
「人と違うことをポジティブに捉えられるといいですよね。”エイリアン”という言葉は、アメリカなどで移民に対して揶揄する言葉としても使われてもいたのですが、今は“個性的”という意味でもあってカッコイイじゃないですか。SNSで他人を中傷する人って自分が攻撃している意識がない場合もあるみたいで、正当防衛だと思っているようなんですね。『○○人』とか大きな団体に自分を付属させちゃっていると、それに関する批判や体験談を目にした時に、個人的に責められたように感じてしまうのかなと思います」
——自己肯定感が低いから自分か他者を攻撃するのかもしれませんね。自己を肯定するためにいい方法はありますか?
「やはり、自分の中で自分の価値観を見つける、ということがよいことだと思います。私は作品発表をSNSでスタートしたので、最初は『いいね』の数で判断していたのですが、そうすると最終的に何がいいのか、自分は何がいいと思っているのかわからなくなって。それからは、たとえ見てくださる方に評価されなくても自分がいいと思ったものは出すように決めています」
——自分が何を表現したいのか、どんな人間なのか、どのように掘り起こしていったのでしょうか?
「トライ&エラーしながら見つけるものだと思います。早めに失敗しておいた方がいいですよね。アメリカに渡ったのも、周りには恵まれているけれど、新しい価値観に出会えないと作品がレベルアップしないなと思ったからなんです。近年では政治的・社会的な題材の作品が多く見られるようになったなかで、私ももう少し社会性を持った作品をつくりたいと思うようになりました。これまで個人的な感情を題材とした作品が多かったので、マルチカルチャーに目を向けた作品をつくれるようになりたいなと。それで、そうした作品がもっとも多いと思うアメリカ、ニューヨークを選びました」
他者や自然をコントロールしようとせず、共存する
——アメリカでの大学院生活はどうですか?
「もっと自分の研究をできるのかと思っていたのですが、課題が多いので、ご飯と睡眠以外に時間がないような状態です。友人たちはいい人ばかりですし、自由な雰囲気を楽しんでいます」
——日本の美術教育とはどんなところが違いますか?
「美術教育自体はあまり変わらないのかもしれないです。ただ、日本では美術界の評価が狭くて、あるいは美術界で評価されていても世にはなかなか知られないのが現状ですが、アメリカでは作品を購入する文化がありますし、わかりにくいものをわかりにくいまま咀嚼することを良しとする土壌があると思います」
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