『名探偵コナン』と考える、言葉は刃物かビタミンか | 連載 Vol.16

 『名探偵コナン』と考える、言葉は刃物かビタミンか | 連載 Vol.16
前川裕奈
前川裕奈
2025-04-16

社会起業家・前川裕奈さんのオタクな一面が詰まった連載。漫画から、社会を生きぬくための大事なヒントを見つけられることもある。大好きな漫画やアニメを通して「社会課題」を考えると、世の中はどう見える? (※連載当初は主にルッキズム問題を紐解いていたが、vol.11以降は他の社会課題にもアプローチ。)

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「自己肯定感高すぎて笑える。ふつーにお前はキモいよ、はよ消えろブス」

少し前に、こんなDMが届いた。ちょうど地上波の番組に出演した直後だったので、きっと私が堂々と意見してたのが気に食わなかったのだろう。何かしらの発信をした後は、心温まる言葉をいただくことがほとんどだが、並行して大体数日間はクソリプやDMが飛んでくるのもあるあるだ。ネット上には女性が意見することを毛嫌いする人が一定数いることは重々承知しているし、正直こんな言葉は私にとっては手のひらで跳ね除けられるハウスダスト程度。けれど、送られてきた言葉そのものより、ネット上なら「相手に何言ってもいい」という認識があることに毎度苛立ちを感じざるを得ない。

このSNS戦国時代、ネット上で心が疲れる書き込みを目にするのは避けられない。誰かへのネガティブなコメント、言い争い、こうして自分自身に向けられたアンチの言葉、最近は殺害予告的なものまで話題になっている……もうそれはそれはウヨウヨしている。それらが野放しにされていることもどうかと思うけれど、言われた本人や第三者が「そんなことわざわざ言わない方が良いですよ」と立ち向かったとしても、聞き入れてもらえるわけでもない(くぅっ...)。誰か、誰か喝を入れてくれえ!!!ここで私の最強の味方、『名探偵コナン』の登場です。

私のオタクな側面を全面的に放出させてもらっている、この連載。中でも異次元レベルで愛しているのが『名探偵コナン』である。海外駐在している間も、コナンの映画が上映される時には、それを理由に一時帰国していた。2023年公開の映画『黒鉄の魚影』は劇場に18回足を運んだ。ここ数年は聖地巡礼も積極的にしているし、もちろん青山先生の故郷である鳥取にも、コナンのコスプレをして訪れた。赤井秀一とは脳内で結婚しているので、もう家族である。そして先日、2011年に公開した『沈黙の15分』を久しぶりに家で鑑賞した。この映画の中で、少年探偵団の元太と光彦が口喧嘩になる描写で、コナンくんは彼らにこう言うのだ。

「それ以上言うのはやめろ。一度口に出しちまった言葉はもう元には戻せねーんだぞ。

言葉は刃物なんだ。使い方を間違えると厄介な凶器になる。」

巻き戻して2回聞いた。ねえコナンくん……ネット上で、言葉を「刃物」にしている勢にこれ言って!?誰が何を言っても聞き入れないヤツらも、国民的に愛されているコナンくんの言うことならば聞いてくれるのではないだろうか(希望的観測)。ちなみに、このセリフは割と有名で、記憶に残っている人も結構いると思う。「コナン 言葉」でググると、次のワードに「刃物」と出てくるほどで、それくらい大多数に響いてるということだ。

まさに私に匿名でアンチDMを送ってきた人も、SNSで他者を叩いてる人も、軽い一撃のつもりかもしれないけど、受け取り方次第ではしっかりと刃物として心に刺さり深い傷を負うことがあるし、積み重なれば心を殺す凶器にもなる。特に、ネット上では顔が見えないからこそ現実世界よりも過激な言葉が飛び交いやすい。元太と光彦のように顔のわかる友達同士でも気をつけなければいけないのに、見知らぬ人の場合はそこに愛なんてなくて、その刃物はより一層するどいのだ。たとえ画面からは「削除」できても、コナンくんの言ってるように「一度口に出してしまった言葉はもう元には戻せねーんだぞ」なのだ。

ただ、コラム、登壇や書籍などで「言葉」とそれなりに向き合ってきた私が思うのは、言葉は「刃物」だけではないし、悪いものでもない。誰かを元気づける言葉、背中を押す言葉、気づきを与える言葉。心が温まる、ものすごいビタミンになることだってある。今までのコラムでも、ルッキズム問題における言葉のトリッキーさと同じくらい栄養剤としての役割があることを主張してきた。それにコナンくんも同じこと言っている。2022年公開の『ハロウィンの花嫁』では、「 “言葉”が…命を救う手がかりになるんだ!」と言っていた。さらに、普段のアニメの中でも「言葉ってのはさ、時として人を救う鍵にもなるんだぜ」なんて教えてくれる時もあったし。

アンチの言葉が刃物ならば、誰かの「イイネ」や共感の声、応援の声がその刃を跳ね除ける盾になることもある。同じ「言葉」というツールを、攻撃するためではなく大切な誰かを抱きしめる仕草として使えたら、ネットの海の荒波も少しは落ち着いてくれるのではないだろうか。ネガティブなコメントやアンチ的な投稿をする人も、きっと現実世界にいる大切な人にはそういう声のかけ方、言葉の使い方ができているはずだから。......と、私がこんな風に言っても、きっとまた「キモ」なんて言ってくる人はいるのかもしれないが、コナンくんが言ってるんだよ?!文部科学大臣賞を受賞した国民的ヒーローの助言だよ?(圧)。(注1)

このコラムで紡いできた「言葉」たちも、誰かを救えるようなものになっていたら……。そんなことを思いながら今回も書いています。間違っても刃物になるような言葉を使う人間にはなれないです、コナンオタクとして。そして、今から一番大事なことを。今年の劇場版コナン『 隻眼の残像』は、今月18日に公開!もうすぐだ!今年は何回行こうかな。(普段配信サイトにはない劇場版『名探偵コナン』も、毎年新作映画の公開前に期間限定で配信開始されるよ!見て!!!(大声))

 

(注1):正確には、受賞したのは産みの親の青山剛昌先生である。

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