非現実的なゾンビ物語『不死と罰』が描く、 エグいほど現実的な性暴力の闇 | 連載 vol.14


社会起業家・前川裕奈さんのオタクな一面が詰まった連載。漫画から、社会を生きぬくための大事なヒントを見つけられることもある。大好きな漫画やアニメを通して「社会課題」を考えると、世の中はどう見える? (※連載当初は主にルッキズム問題を紐解いていたが、vol.11以降は他の社会課題にもアプローチ。)
先日、本屋である漫画の帯に釘付けになった。「人気声優・蒼井翔太さん刮目!」そこには、大好きな推しによる帯文が!!!推しの推しなら、もちろん買う。『不死と罰』、題名からも表紙からも不穏な感じがダダ漏れでワクワク。過去のコラムでは取り上げてこなかったものの、私はサイコ・グロ・ホラー漫画が大好物である。帰宅し、早速貪るように読み入る。ラブホテルを舞台に、ゾンビと同じ特徴を持つ感染者がみるみる増殖していく地獄絵図を、登場人物たちが生き抜くためにそれぞれ必死になる。作画が良い意味で気持ち悪いくらいに細かいパニックホラー物語に、私はのめり込んでいた。
推しが紹介していた漫画だし、私も読み終わったらSNSに載せようかな〜と最初は思っていた。しかし、後半に立て続けに起きる“ある描写”に憤りを感じ、すぐには紹介することができなかった(すぐには、ね)。それは、生きるか死ぬか(ゾンビになるか)の窮地に追いやられるにつれて、女性が性的に搾取されてしまう(されそうになる)描写である。何度も何度も、そういうシーンがあるのだ。
友人だったはずの男性から「どうせ死ぬならその前に」とセックスを強要されたり、好きだった同僚女性のSOSと引き換えに、己の性的欲求をここぞとばかりにぶちまける男性がいたり。全体的なパニック・ホラー感に気持ちは高揚しながらも、時折起きるそういったシーンにはただならぬ怒りが込み上げてきた。その女性たちは果敢にゾンビと戦い続ける、いわゆるつよつよ女子なのに、男性に抵抗しきれない展開に胸が本当に痛んだ。どんなに“強い”女性でも抵抗することがいかに難しく、つらいことか。そして、抵抗したとしても、その「NO」を聞いてもらえない現実もそこにはある。「こんな性暴力が描かれているなら紹介とかできないなあ」、直後は単純にそう思った。性暴力なんて絶対に肯定したくないし、そういう描写を世に出すのってどうなんだろう、と。けれど、考えれば考えるほど、これがいかに現実的な描写かも痛感しだしたのだ。現実世界においても、どんなに「強い」女性でもNOを聞いてもらえず、性的に搾取される場面が後を絶たない。災害時をはじめとした窮地の場では顕著にそれが露呈されるが、日常生活でも痛いほど蔓延っているのが現実であり、今年も報道などで目にしなかった人はまずいないだろう。性暴力の場で、女性がどれだけの恐怖と戦わなければならないのか、その中で必死に絞り出したNOをちゃんと聞いてもらえないやるせなさ、NOを言えない状況下もあること、その経験が消えることのない残虐な記憶となること、私たちはちゃんと目を向ける必要がある。
作者の佐藤先生がそこまで思って描いているかは分からないが、漫画の良いところは私たち読み手次第で汲み取り方がある程度自由であることだと、マンガ研究家のトミヤマユキコさんと話したことがある(参:「しゃべるっきずむ!vol.10」”読み手次第で生まれるマンガの愛と罪”)。だから、私を怒りで震わせたこの描写こそ、「現実にある」ことをちゃんと知ってもらえたらいいのではないか……と次第に思いはじめた。現世を生きる限りゾンビになることはなくても、この非現実パニックホラーの中で垣間見る「現実」を。作中での性暴力が嫌になるくらい自然に描かれている時点で、実際にそれが現実でも起きている確固たる証でもある。本来は、読者が「なにこれ?こんなことありえない」と不自然に思えるような世の中が理想なのだから。
ここまでしんどい気持ちになりながらなんとか文字を紡いできたが、この作品には「救い」となる人物がいるからこそ紹介したかったのもある。まず先に強調しておきたいのが、性暴力に関して、「男vs女」の対立構造を作ることが正しいとは私は思っていない。実際には「加害者vs被害者」であり、男女という大きな主語で分ける必要はないと思うからだ。とはいえ、やはり男性が加害者、女性が被害者のケースが圧倒的に多いのも事実で(二次被害含む)、ゾンビまみれのラブホテルでも、その構造はある。しかし、寄り添ってくれる男性がこの世にいることも確かだ(と信じたい)。
実際に『不死と罰』の中でも、性暴力を振るうクズ野郎もいる反面、自分の好きな女性を、自身の知恵や人脈や体、全てを駆使しながら守り抜こうとする登場人物、ヤクザの風張さんがいる(好き)。同じ窮地の場面でも、「死ぬ前にヤらせろ」というカス加害者とは正反対、「死んでも守る」派の男である。風張さんは、このゾンビだらけの戦場において、憧れの女性に対して性的なことなど求めず、ただただ彼女に笑顔で幸せであってほしいと願って行動し続ける。このダークな物語に陽をあててくれる存在だと感じたし、現実世界においてもそういう男性もいるはずだ(と信じたい)。
風張さんほどでなくても、「女性の味方」な男性だっている。だからこそ「男 vs 女」ではなく「加害者 vs 被害者」に焦点をあてたい。性暴力に限らず、インターネット上では女性が社会課題に対して力強く発信すると必ず「またうるさいフェミニストが……」といった内容のクソリプが決まって飛んでくる。声をあげることすら疲弊してしまう世の中で、どうやって社会をよくしていくことができるだろうか。男女がお互いの話を聞かずにいたら、境界線が溶けることなんてない。糾弾すべきはどちらかの性別ではなく、「加害者」なのだ。
一度は薦めることを躊躇してしまった『不死と罰』。どんなマンガでも悪い文脈で紹介することは絶対にしたくないので尚更悩んだ。けれど、憤りを感じた描写について考えれば考えるほど苦しいくらいにリアルであり、あえてやっぱり紹介したいマンガとなった。性暴力について深く考える機会がなかった人は、このマンガを通して、メインストーリーは楽しみながらも、性暴力が起こる場面ではいかに残虐なことなのか辛くなりながらも一度考えるためのきっかけにするのも良いのでは。そして、シンプルにゾンビ地獄から生き抜こうとする過程にハラハラが止まらないし、作画も超絶好みだ。年明けに新巻も発売されるので買おうと思う。さすが私の推し、蒼井翔太さんが帯文書いただけある!
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