結婚という強制リセットが転機に。ヨガスタジオを運営する尾石晴さんのキャリア・人生観|インタビュー


福岡を拠点に、オンラインヨガやヨガスタジオの運営、女性の健康促進のためのアイテムの販売を行っている(株)POSPAM代表の尾石晴さん。Voicyのパーソナリティや執筆活動でもご活躍中で、2024年には『からまる毎日のほぐし方』(扶桑社)を上梓しています。加えて、小学生のお子さんが2人いて、子育て中でありながらも、大学院の博士課程でオンラインコミュニティに関する研究も行っているとのことです。インタビュー前編では、やりたいことをやるための時間の使い方を中心に伺いました。後編では、行動し続けることの重要性や、性別役割分業と女性のキャリアに関して伺っています。
「今困っていないから」と流さない
——本書には「現状維持」にはリスクがあることも書かれていました。尾石さんの今までのご経験で、新しい挑戦を続けてよかったと思うことはありますか?
私は今ヨガを教えることで生計を立てていて、ヨガ自体は20代の頃から始めましたが、最初から会社をやめて起業することを計画していたわけではありません。でも物事を深く学ぶことに興味があって、20代の頃からインストラクターが参加するようなワークショップにもたくさん参加し、養成講座を受けてきて、少しずつ色々なことを習得してきました。その結果、会社をやめてからヨガが仕事になっています。
会社員時代は「何のためにインストラクターの資格を受けるの?」と言われることもあったのですが、「面白いから」と答えていて。「自分は教える側になりたいわけじゃないから」と受動的にレッスンを受けているだけでなく、興味関心のあることに主体的に向き合っていたことが未来に繋がったのだと思います。
——積極的にアクションを起こし続けることが、今は考えもしないチャンスを掴むことの種まきになっている可能性があるということですね。
「現状に満足しないこと」も重要だと思います。本に書いたヨガ講師として働きながら柔道整復師の資格を取られた先生も、資格を取り始める前も講師業だけで生計を立てられていたと思うのですが、自分に何が足りないかを考え、アクションを起こされたと思うんです。
今の自分に100%満足している人はなかなかいなくて、何かしら「この知識が足りない」「あの資格があったら強みになる」など思っていることはあるはず。その気づきを「でも今困ってないからいいや」と流さず動き続けることで、その後の人生が変わってくるのではないかと思います。
——やりたいことには「衝動」と「行動」があると書かれていました。何かをやりたいと思ったら、気持ちを落ち着かせるために企画書を作成しているとのことですが、実行に至ったものはありますか?
私は冷え性で自分好みの靴下が見つけられなかったので、理想の靴下を作ろうと思ったのですが、ロットにもよるものの、初期費用が300万円はかかってしまうので悩みました。それに、こういう商品は規模が勝負なので、大手が同じような商品を作ったら敵わない。数年間迷っている中で、調べたり見積もりをとったり、アンケートをとったりして、小ロットで一度作ってみて、反応が良かったら増産するという方法ならできそうだとわかったんです。
こうして2023年に「ご自愛ソックス」の販売を始めたのですが、即日完売し、2024年も5倍の量を製造したのですが、すぐに完売しました。企画書を書いてから一度断念しかけたものの、調べながら企画書をブラッシュアップして成功した事例です。
女性の人生は「強制リセット」がかかりやすい
——本書の中で「女性に生まれて良かった」というお話の中で、人生における「強制リセット」という言葉が出てきました。尾石さんご自身は、どんな強制リセットを経験してきましたか。
最初の強制リセットは、私の場合は結婚です。それまで本社勤務だったのですが、夫は遠方にいたので、夫がいる地方の部署へ異動し、キャリアが強制リセットされました。
転勤先で出会った人たちは、本社の人とは違った世界観を持っていたことが印象的でした。私は「みんな本社で働きたいはず/出世したいはず」と勝手に思っていたのですが、「家族がいるので、家族の生活が変わってしまったり単身赴任は嫌だから転勤したくない」「転々としてきて、やっと地元に近い場所に異動できたから、ここにずっといたい」など、自分とは違う価値観を持って生きている人の存在に触れ、私のキャリア観にも少し変化がありました。
——その次の強制リセットはどんなタイミングだったのでしょうか?
夫の転勤もあったので、私は会社員時代に計5回転勤して、8回部署異動していて、小さな強制リセットは何度か経験しているのですが、結婚の次に大きかった強制リセットは、2人目の出産のときです。
1人目のときに、性別役割分業によって、女性が子育てしながら働くことの困難に直面して悩んだのですが、結果、働き方を変えない選択をしました。ところが、次男が1歳のときに入院をし、やはり働き方を変えないと持たないんじゃないかと考え、その後、2年半後には会社を退職しています。
結婚や出産を機に強制リセットがかかることは、変化があって大変なことでもあるのですが、私の場合、人生や生活を見直すきっかけにもなったので、女性に生まれてよかったと思います。
「妻の転勤のために異動させてください」と申し出る男性は、少しずつ増えてきているかもしれませんが、まだ男性の方が言いづらいと思うんです。男性は変化が少ないまま定年退職で強制リセットがかかり、そのとき初めて今までの人生を振り返る……なんて人も結構多いのではないでしょうか。そこから生活や人生観を変えていくのは大変だと思うので、私は女性に生まれてよかったと思っています。
家事育児分担のポイントは「ケア労働」を分けること
——夫婦の家事育児の役割分担に苦労しながらも、10年かけて脱出されたとのことですが、どういった経緯があったのでしょうか。
夫は朝7時に出て23時に帰ってくるような多忙な人で、長男が保育園時代も私がずっとワンオペで子育てしている状態でした。夫は家にいないので、家事もできないですし、子育てをする時間もなかったです。
そこから、朝の送迎は夫に絶対に行ってもらうとか、次男の保育園の写真の注文は夫が担当するとか、少しずつ任せるようにしました。ただ、夫は写真の注文を忘れたので、次男は3年分ほど保育園時代の写真がなかったんです。次男から「なんで僕の写真だけないの?」と聞かれることもあったのですが、それで私が助けてしまったら、夫は今後子育てに主体性を持てなくなる。最終的には、卒園の時に夫が園長先生に事情を説明したら、写真屋さんにデータが残っていたので特別に購入させてもらえました。
——後から取り返しにくいことですと、「手助けをしない」という決断をするのも大変そうです。
誰かがバックアップしてくれると思ったら、当事者にはなれないんですよね。だから少しずつ夫に任せて、かつ夫が困っていても手助けしませんでした。そのうち必要な持ち物や、保育園でどんなものを食べているかとか、行事がいつ行われているかとか、夫も把握してきた様子でした。
大きな転換点となったのは、コロナで夫の帰宅が早まったことです。家族で一緒に食事や片付けをするようになりました。この頃に私が朝ヨガを始めたので、夫が起きたときに子どもが泣いていたら、自分が抱っこをして、自分で朝食を作らないといけない状況にもなりました。
今も朝食は夫が作って、夕飯の片付けも夫がしています。学校行事も、長男は私が担当し、次男は夫が担当することが多いです。
——小学生のお子さんがいらっしゃるご家庭で、今から家事育児の分担を考えるにあたって、おすすめのポイントはありますか?
子どもが小学生になったら、食事や排泄のお世話をするといった、物理的なケアはなくなってきますよね。なので、子どもを予防接種に連れていったり、常備薬やシャンプーや洗剤のストックの確認など、管理系の役割を少しずつ分担するといいと思います。
子どもの予防接種は、覚えておく必要がありますし、子どもとの日程調整も必要になるので、必然と「病院に連れて行く」以上のケアが発生します。常備薬や日用品のストックの管理も、日頃からチェックしておく必要がありますし、なくなる時期を気にするようになる。家庭内の「ケア労働」が片方に偏っていると、介護期にまで響いてきます。なので、子どもが小さいうちから、ケア労働を分担していくことが重要だと思います。

【プロフィール】
尾石晴(おいし・はる)
Voicyパーソナリティ(株)POSPAM代表。外資系メーカーに16年勤務し、長時間労働が当たり前の中、子持ち管理職として、分解思考で時間を捻出。会社員時代にブログや音声メディア「Voicy」などの発信を始め、2020年に独立。現在は、ヨガスタジオ「ポスパム」主宰、母と子のシェアコスメ「soin(ソワン)」開発などに従事。Voicyでは6400万回再生超えを記録し、トップパーソナリティとして活躍中。著書に『自分らしく生きている人の学びの引き出し術』『「40歳の壁」をスルッと越える人生戦略』など多数。
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