教育と虐待は紙一重!?あなたの“教育熱心”が子どもを壊す?【小児科医が警鐘】“教育虐待”の境界線

 教育と虐待は紙一重!?あなたの“教育熱心”が子どもを壊す?【小児科医が警鐘】“教育虐待”の境界線
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首都圏では中学受験ブームが続いています。小学生の5人に1人が中学受験をする時代となり、直近 2024年入試の受験率は過去最高を更新しています。今年も受験シーズンが本格化する中、多くの親子が進学への重圧に直面しています。塾や習い事、受験対策と、わが子の将来を思って熱心に教育を施す親が増える中、「子どものため」と思って行う教育が、実は深い心の傷となって子どもを追い詰めているケースが増加しています。

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子どもの神経発達の診療や研究の第一人者で、「小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て」の著者でもある、小児科医・高橋孝雄先生と、自身も幼少期から教育虐待を経験してきた映画監督・古新舜さんが、増加する“教育虐待”の実態に迫ります。

4歳から東大を目指させられた映画監督の告白

両親に4歳の頃から毎日「東大に行け」「勉強しろ」と言われ続け、「自分の夢とかを聞かずに、とにかく偏差値75」という世界で生きてきました。その結果、心を病んでしまったんです。学級委員長をやっていたから、みんなから東大、東大と言われ続けていました。東大に落ちたらみんなに迷惑をかける。その洗脳が強くて、受験のときもぶるぶる震えてしまって、結果的にそのプレッシャーで東大に落ちました。母親は「もう好きにしなさい」の一言だけ。その時に愕然としてしまいました。(古新さん)

映画監督・古新舜さんは「映画制作」と「教育」の2つを軸に活動をし、社会課題をテーマに作品を作り続けています。親の方針で幼少期から進学塾に通い、東京大学を目指して英才教育を受けてきたという古新さんですが、小学校から高校までずっといじめを受けてきたそうです。大学受験では東大に不合格。それを機に引きこもり、自殺を考えたこともあったといいます。4歳の頃から東大進学を目指させられたその体験を「教育という名の虐待」と表現しています。

「教育熱心」と「教育虐待」 線引きはどこに?

小児科医・高橋孝雄先生は「『教育はいいこと、虐待は悪いこと』という共通認識があるからこそ、『教育虐待』という言葉は強い違和感を与えるのでしょう。そして、その違和感こそが、実は問題の本質かもしれません」と指摘します。「子どもがどう感じたかで決まります。10年後、20年後、30年後に『あれは辛かった、ひどすぎる』と思い返したとしたら、“あれ”は教育虐待だったと言えます。ただ問題は、虐待を受けている時点では、子ども自身もそのことに気付いていないということです。お父さんやお母さんは自分のことを思ってくれているのだと、虐待という概念すらないのが本当に切ない」(高橋先生)

教育虐待とは?

一般に親の子に対する行き過ぎた教育やしつけのこと

【例】
・子どもが望まない習い事などを強制する
・成績が下がったなどの理由で過剰に叱責する

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大人になった今、古新舜監督は「長い時間をかけて、やっと恨みの人生から抜け出すことができました。今では誕生日に必ず両親に花を送るようにしています。これは和解のプロセスの一つです」と、自身の経験を振り返ります。

“子どものため”という発想は危険!?善意の強要が引き起こす静かな悲劇

「親には虐待をしているという認識がまったくありません。『子どものために』という強烈な善意に基づいているので、それが虐待行為だということに気付かないのです」と高橋先生は説明します。

「愛し、信頼する子どもに何かを託すことはいいことだと思います。ただ、自分の失ったものを子どもに取り返させよう、社会に対して子どもを代理としてリベンジしようとしているのなら、その思いを託す相手は子どもではありません」(高橋先生)

「両親も、私を思ってのことだったと今では分かります。でも、当時の私には『なぜ自分の気持ちを全く聞いてくれないのか』という深い孤独感しかありませんでした」(古新さん)

「子を名門校に通わせている保護者」という親自身の自己実現のために、子どもを利用しようとしていたのであれば、それは一番まずいことでしたね」(高橋先生)

回復への第一歩は子どもの声を聞くこと!

わかってはいるけれど、子どもに過剰に期待をしてしまうお母さんやお父さんはどうしたらいいのでしょうか。

「大事にしたいのは、子どもの話を聞くことです。僕自身、両親から心を大事にしてもらえなかったという感情があるからこそ、親御さんには『こうしなさい』ではなく『どうしたいの?』と子どもの心に寄り添ってほしいですね。その一言で、子どもは救われる思いがするはずです」と古新舜監督。高橋先生も子どもの声を聞くことが大切だと同調します。

不安を抱えたとき、専門家への相談も重要な選択肢

教育に関する不安や悩みを抱えた場合、専門家への相談も選択肢です。「『もしかして自分は教育虐待をしているのでは?』と悩む親御さんこそ、気軽に小児科医に相談してほしいと思います。悩む、迷うということは子どものことを考えているということ。その気づきを大切にしてほしいですね」(高橋先生)

高橋先生は続けます。

「不登校も、教育虐待かもといった漠然とした不安も、『悩んでいるなら、だれかに相談』が原則です。予防接種などのついでに一度医師に相談することです。医師には守秘義務があります。例えばお主人には内緒に、という希望は多いです。また、どんなに小さな子どもでも『ママには言わないで』と言われれば、約束を守ります。裏を返せば、まずは気軽にご相談ください。悩むより相談です。適切なサポートを受けられる可能性もあります」(高橋先生) 

専門家が伝える新しい親子関係の築き方

「『後悔』ほど深い愛情はありません。病院に子どもを連れて来て、まずは『私のせいです』と後悔しているお母さんは多いものです。『ああしておけばよかった』と後悔するその気持ちが大切です。教育虐待に気づいた時の後悔や反省は、新しい親子関係を築くための大切な一歩となり得るのです」(高橋先生)

「子どもには、複数の正しいと思われる選択肢を提示して、必ず自分で選ばせる。何を選んでも結果としてうまく行かない場合も多いのですが、その失敗が良いんです。失敗すると当然後悔するわけです。自分で決めたことで後悔するのはいい勉強です。親の意見にいやいや従って失敗したら、後悔ではなく恨みになります。そして、『失敗もいい経験だ』と言ってくれる両親の存在も大切です。そういう安心感が子どものリテラシーを育みます」(高橋先生) 

「子どもの可能性は無限大です。その可能性を親の価値観で狭めてしまうのではなく、子ども自身が見つけ出せるよう、温かく見守ってあげてほしいです」(古新監督)

「幸せである親の姿を子どもに見せることが最高の教育です」(高橋先生)

教えてくれたのは…

・高橋孝雄先生

高橋先生

新百合ヶ丘総合病院・発達神経学センター長・名誉院長/慶應義塾大学名誉教授/医学博士/日本小児科学会元会長
1982年慶應義塾大学医学部卒業。1988年から米国マサチューセッツ総合病院小児神経科に勤務、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。1994 年に帰国し、慶應義塾大学小児科で、医師、教授として活躍、2023年より現職。趣味はランニング。マラソンのベスト記録は2016年の東京マラソンで3時間7分。 別名“日本一足の速い小児科教授”。

・古新舜さん

古新さん

映画監督/ストーリーエバンジェリスト
「Give Life to Your Story!―物語を動かそう!―」をテーマに、映画と教育の融合を通じて、大人と子どもの自己受容感を共に育んでいく共育活動を行なっている。最新作は“パーキンソン病×ダンス”をテーマにした「いまダンスをするのは誰だ?」(主演:樋口了一、2023年10月公開)。本作は厚生労働省の推薦映画に選定され、ロサンゼルスJFFLA2024で「Chanoma Award(最高賞)」を受賞する。現在、コスモボックス株式会社代表取締役CEO、北陸先端科学技術大学院大学博士後期課程在籍。

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ヨガジャーナルオンライン編集部

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ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



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