生きづらさの原因は「子供の頃の家庭環境」?満たされない感情との向き合い方を専門家が解説
生まれ育った家庭での生きづらさに大人になってから気づいた、心理カウンセラーの池田由芽さん。池田さんの著書『メンタル“ヤバめ”をやめられる本 「今日も自分を大切にできた」と思える心理学』(大和出版)では、池田さんがセルフカウンセリングを通じて発見した、子どもの頃の願いである「第0感情」を満たすことで、生きづらさや悩みを解消していくノウハウが書かれています。本書に関連して、第0感情について詳しく、また「自己承認」の考え方について伺いました。
子どもの頃の「願い」に向きあう
——なぜ人間は悩んだり生きづらさを抱えたりするのでしょうか?
生きづらさや悩みを抱えている方の多くは、家庭環境から影響を受けています。生まれたばかりの頃は価値観がまっさらな状態ですが、親や家庭内で色々なことを教えられる中で、否定的な言葉や、個性をないがしろにする言葉を浴びていると、セルフイメージが低下します。
それらが自分の中のルールブックに刻まれ、そのまま社会に出て人と関わっていくと、「自信が持てない」「人に上手く甘えられない」といった悩みを抱えるようになるのです。
早く実家を出るとしても、一般的には10代半ばから後半までは家庭環境から逃れられません。そのため、無意識のうちに影響を受け続け、大人になってから自分の状態に気づき、変えていかなければ、生きづらさをずっと引きずってしまうのです。
——本書では、悩みの解消には思考ではなく「価値観のアップデート」が有効であること、価値観のアップデートに必要なこととして、池田さんが発見された「第0感情」について書かれています。どういったものでしょうか?
通常、心理学では感情を二層で考えています。第一感情とは、寂しさ、不安、恐怖など一番目に湧きだす感情で、第二感情とは、怒りや憎しみ、嫉妬などトゲトゲした感情のことです。
第二感情は第一感情を理由に生まれます。たとえば、怒りの下には不安や恐怖など別の感情が潜んでいます。ただ、もう少し掘り下げられるのではないかと思い、私自身が内観していた際に偶然発見したのが、第一感情よりも奥にある「願い」という階層。「本当はこうしてほしかった」というものです。第0感情を含めて説明すると「本当は認めてほしかったのに、認めてくれないから、悲しくて怒っている」ということです。
第0感情とは、あなたの子ども時代の願いです。第0感情は大きく分けて3種類あります。一つは「認めてほしい」「受け入れてほしい」といった承認の欲求。純粋に親に甘えたいという感情です。
二つ目は「意見を言いたかった」「自分でやりたかった」など、自己実現の欲求。過干渉や過保護の環境で起きやすく、ここが満たされていないと、自分の意見が言えなくなったり、他者の正解ばかり基準にしてしまいます。
三つ目は他者貢献の欲求。「親に笑顔でいてほしかった」「家族に仲良くいてほしかった」といった親の幸せを願うことです。親が幸せでないと、子どもは自己犠牲をしてでも、親の幸せを叶えようとします。
第0感情は家庭環境の中で最初に願うものです。なので、3つの第0感情が満たされないことで、第一感情と第二感情が溜まって悩みとなってしまいますし、大人になってから生きづらさを感じるのです。
——第0感情とはどう向き合っていくのでしょうか?
第0感情として持っている欲求不満を色々な方法で満たすと、怒りや悩みが消えていきます。なので、「認めてほしかった」という思いを満たしていくことで、価値観をアップデートしていくことができるのです。
たとえば、上司に注意を受けたことの第一感情が「不安」、第二感情が「怒り」だとします。なぜそう思うかと自分に問いかけると、失敗したときに親から「役立たず」という言葉を投げかけられていたから。
「親が強い否定をしたから、みんなそうする」と思い込んでしまうのですが、「失敗したときに気持ちに寄り添ってほしかった」という第0感情に向き合い、自分で満たしていくと、親の言動と上司を重ねなくなります。子どもの頃の願いを大人の自分が満たしてあげることで、仕事で何か注意を受けたときも、自分の存在を否定されているのではなく、ただ一部分を指摘されただけだと冷静に受け止められるのです。
——第0感情が満たされていない=親や家庭環境がひどかったということなのでしょうか?
いえ、そうとは言い切れないと思います。子どもは敏感です。親に甘えたいと思ったとき、忙しそうという空気を感じることが多いと甘えちゃいけない、迷惑かけちゃいけないという感情を抱きやすくなります。日常的なことでも傷つきは蓄積されるので、虐待やネグレクトをされていたわけでなくとも、家庭環境から何かしら影響を受け、生きづらさを感じている人はいます。
また、一見「良いこと」をしている場合、たとえば教育虐待のように、親は愛情を注いでいる気持ちでいますが、子どもからしたら、自身のキャパシティを超えたプレッシャーを与えられている。合格点のハードルが高すぎることは、完璧主義の原因になります。
本当に愛のある親切とは、「相手が喜ぶことをすること」……相手基準なのですよね。相手がつらいと言っているのに、受け取るよう押しつけることは自分本位になってしまいます。それを「やってあげたのに」という言葉で、子どもに罪悪感を背負わせることは、子どもからしたら非常に苦しいことです。親は無自覚でも、子どもが何かしらの生きづらさを抱えてしまっているなら、何かしらの要因はあったと考えられるでしょう。
どうしたら「自分の存在自体に価値がある」と思える?
——本書では自己承認について、池田さんがカウンセラーの先生から言われた「そこに『在ること』を許す」と書かれています。自己肯定感の向上の文脈で、「存在するだけで素晴らしい」という言葉はよく聞きますが、自己否定が強すぎてそう思えない場合は、どこから取り組めばいいでしょうか?
「いるだけでいい」という言葉が入ってこなくて、「そんなわけない」という反発する感情が出てくるということですよね。でしたら、反発心の第0感情を探しに行ってみてください。
どうして「いるだけでいい」という言葉を否定したくなるのか。親がそんなふうに私を認めてくれたことなんてないからじゃないでしょうか。「今更そんなこと言われたって、信じられない」そんな気持ちが湧いてくるのでは。
そうしたら「本当はどうしてほしかった?」と問いかけてみてください。「親なんか大嫌いだって言いたい」……もしそれが今の気持ちならば、そう言わせてあげてください。その反発心も「在って」いいんです。
そうやって大人である自分が、自分の反発心を迎えに行って耳を傾けることで、その気持ちの存在を肯定することになります。自身のネガティブ感情の存在も肯定してあげると、「在る」ことを受け入れやすくなりますよ。
——多くの大人は、一日の中で仕事が占める時間が長く、仕事の評価=自分の価値という思考になりやすい仕組みがあると感じます。実際はイコールにならないのはわかるのですが、無意識に考えてしまいます。どう考え方を変えていけばいいでしょうか。
仕事ですと、数字として可視化されることも多いですよね。私も数字を見て疲れちゃうときはあります。私は日頃インスタグラムで発信をしているのですが、ある投稿があまり見られなかったとき、それはあくまでその投稿が好まれなかっただけですよね。だから「次はこういうところを改善していこう」と冷静に受け止めればいい。
でも、第0感情が満たされていない人は「数字が悪い=自分の価値」という捉え方になってしまいがちです。「私は必要とされていない」という解釈になってしまうのです。
承認欲求自体が悪いわけではないのですが、それが本人の存在価値と直結してしまうと、「成果を出し続けないと、自分はここにいてはいけない」と思い、重いものになってしまう。
今その悩みに直面しているのでしたら、毎日小さなことでも自分を認めてあげてください。そして、数字と存在価値は関係ない、仕事で上手くいかなかったことは改善すればいいだけと確認してくださいね。
※後編に続きます。
【プロフィール】
池田由芽(いけだ・ゆめ)
心理カウンセラー。
専門学校卒業後、出版社・広告代理店・講師と、さまざまな職を転々とする中で、あるとき、自らが生きづらさを抱えたアダルトチルドレン(AC)であると認識する。
その後、ACを克服する中で、第0感情の存在に気づき、「悩みを解消するにはコレしかない!」と心理学を本格的に学び、カウンセラーに転身。
Instagram『アダルトチルドレン克服の教科書』のフォロワー数は9万人、AC系アカウントで日本一となる。
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