出産したら一人前という目線。授からなくてもほしくなくても共通する「子どものいない女性」の悩み

 『まんが 子どものいない私たちの生き方 ~おひとりさまでも、結婚してても。~』(小学館、まんが/森下えみこ)より
『まんが 子どものいない私たちの生き方 ~おひとりさまでも、結婚してても。~』(小学館、まんが/森下えみこ)より

「子どものいない女性は注目されず、可視化されていない」——42歳で子宮の病気を患い、子どもを産めないことが確定した、くどうみやこさん。子どものいない女性のロールモデルがおらず、今後の人生のイメージがつきにくかったとのことです。子どものいない女性たちの話を聞きたいという思いから集まりを始め、「マダネ プロジェクト」を立ち上げ、現在は横のつながりを広げたり、当事者の声を社会に発信したりしています。くどうさんの本『まんが 子どものいない私たちの生き方 ~おひとりさまでも、結婚してても。~』(小学館、まんが/森下えみこ)では、子どものいない女性の多様性が見えてきます。詳しくお話を伺いました。

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子どものいない女性の話を聞きたかった

——どのような経緯で「マダネ プロジェクト」を立ち上げたのでしょうか?

私自身が42歳のときに子宮の病気を患い、出産の可能性が絶たれました。小さい頃から「子どものいる人生を歩むのだろう」と思っていたので、子どものいない人生を想定していなかったのと、身近に年齢を重ねた子どものいない女性のロールモデルがいなくて、これからどんな人生を歩むのかイメージしづらかったんです。

当時は10年以上前で、今とは違って、子どものいない人の声はほとんど表に出ていなかったですし、本も見あたらなかった。情報の少なさに愕然としました。子どものいない人たちは注目されず、可視化されていない。でも結婚や出産の年齢が遅くなる傾向になっていたり、周りにも結婚しない女性が増えたり、子どものいない人は今後増えていくだろうとは感じていました。子どものいない同世代の人は当時からいたので、その人たちがどのように考えているか知りたくて、呼びかけをして集まったのが始まりです。

——最初の集まりはどんな様子だったのでしょうか?

15人ほど集まり、一人ずつ子どもがいない経緯や今の思いについて話していきました。私自身は、元々引きずって落ち込むタイプでないこともあって、その頃には「子どもがいないことは仕方ないのだから、いかに今後の人生を自分らしく楽しんでいくか考えよう」とスムーズに気持ちがシフトできていたんです。

でも「子どもがいない人生のつらさを誰にも打ち明けたことがなかった」「ずっと胸の奥にしまってきた」と涙する方が続出し、私は立ち直りが早かったものの、子どもがいないことで、何年も悩み続けている人も少なくないという事実に直面しました。私は子どものいない当事者でありながらも、いない人の思いや状況を十分に理解していなかったことに反省しました。

当事者である私が理解できていなかったのだから、彼女たちの苦悩を周囲や社会も気づいていないのではないか。それならば、私はみなさんの声を拾い、子どものいない人生も大人のライフコースの一つであるという位置づけで社会に発信していきたい。子どものいる女性を応援する人はたくさんいるので、子どものいない女性の生き方を応援する人がいてもいいのではという思いから、マダネ プロジェクトを立ち上げました。

——マダネ プロジェクトではどのような活動をしているのでしょうか?

マダネ プロジェクトとして3つのミッションを掲げています。一つ目は、子どもがいない女性のネットワーク作りです。リアルで集まって交流することもあれば、オンラインでお話することもあります。様々な形で子どもがいない女性同士のネットワークを作っています。

二つ目が、新しい市場の創造と、マーケットの提案です。マダネ プロジェクトに参加する方々の話を聞いていて、基本的には子どものいない人は、子どもがいる人よりも可処分所得が多い傾向があると感じます。既に母親を対象とした市場は確立されていますが、生き方が多様化している中で、「子どもがいない」という生き方の人たちもマーケットとして捉えてほしいことを伝えてきました。この点は、企業に注目していただけないと広がらないので、これから働きかけていきたいと思います。

三つ目が、多様な生き方を尊重する社会的意義の活動です。主に出版や講演、取材を通じて、子どものいない人たちの思いや多様な生き方が広がっていることを発信する活動をしてきました。2013年から地道に続けて、少しずつ社会の変容を感じています。

『まんが 子どものいない私たちの生き方 ~おひとりさまでも、結婚してても。~』(小学館、まんが/森下えみこ)より
『まんが 子どものいない私たちの生き方 ~おひとりさまでも、結婚してても。~』(小学館、まんが/森下えみこ)より

「子どもがいない理由」に違いがあっても、共通すること

——これまでのご活動で500人以上の声を聞き、子どものいない女性の心情や傾向などを分析・データ化してきたとのことですが、「子どもがいないこと」の理由によって異なる部分と、背景が違っても共通している部分はどんなことがありますか?

マダネ プロジェクトの共通点は「子どもがいない女性」であること。それ以外は多様性を大切にしていますので、不妊治療をして授からなかった・選択的に子どもをもたなかった・パートナーとのご縁がなかった……など様々な事情の方が参加しています。「色々な事情の人がいて、話が合わなさそう」と言われることがありますが、「子どもがいない」という一つの共通点だけで、意外と根底は同じで、共感があるんです。

その理由は大きく分けると、内的要因と外的要因があります。内的要因は自分の中にある考えや価値観のこと。「世間では子どもがいるのが普通とされているのに、自分は子どもがもてなかった」ということから、罪悪感や劣等感を抱いたり、親に孫を見せられないことで申し訳なさを感じていたりと、子どもがいない背景は異なっていても、感じていることは何かしら共通していることが多いです。

ただ、子どもがいない人たちを苦しめているのは外的要因が大きいです。少子化が進む中で、子どものいない方々は、「産んだ方が立派」「子どもを産み育てるべき」というプレッシャーを感じてきています。「子どもがいないと、時間に余裕があって気楽」「子どもがいないと人として一人前ではない」といった偏見も未だにあります。

違いといいますと、わかりやすいのは、子どもがほしくなかった人と、ほしかったけど叶わなかった人です。ほしかった人の中には、何年も不妊治療を続けてきた人や、流産の経験がある人もいて、「子どもがほしかった思いを0にすることは難しい」という話が出ます。最初はつらい気持ちが100くらいあったものの、みなさんとお話ししたり、年齢を重ねていったりするとだんだんと減っていくのですが、あるとき外的な刺激を受けると、またつらい気持ちが湧き上がってしまうことがあります。そういった揺らぎがあるのも自然なことだと思います。

ほしくない方は、全く気にしていない人もいれば、「ほしくない」という思いに悩んでいる人もいます。「世間の多くの人は子どもがほしい・かわいいと当たり前のように思っているのに、なぜ自分は子どもをほしいと思えないのか」と。ほしくないと言っている人が自分の周りにいなかったり、いても公言していなかったりするので、「どうして自分だけが違うのか」と考え込んでしまう方もいます。

——背景が違う人同士が集まる中で、話すときのルールなどは設けていますか?

色々な方がいらっしゃるので、相手の価値観や考え方を否定せずに聞くことをルールにしています。活動を始めたばかりの頃は、結婚している人で、ほしかったものの、もてなかった人が大多数でしたが、だんだんと、子どもを望まない方や独身、事実婚など参加者の背景が多様化してきました。

異なる立場の人同士で話すことは多くのメリットがあります。日常生活の中で子どもがいない人の本音を聞く機会はほとんどありませんが、マダネ プロジェクトに参加することで、子どもがいない人同士での分かち合いができますし、自分とは違う理由でも、個々の思いを聞くことで新しい気づきを得られる。お互いの気持ちや状況を知ることができるので視野が広がり、理解も深まるんです。

今は「子どものいない人生が自分に合っていた」

——くどうさんの「子どもをもつこと」の考えの変容について、お聞かせいただけますか?

幼い頃からあまり深く考えずに、「結婚して子どもをもつ人生を歩むだろう」と思っていました。でも、31歳で結婚したものの、自然に妊娠することはなくて。その後も、「子どもがほしい」という気持ちはあったので、妊娠すれば喜んでいたと思うのですが、30代半ばくらいで仕事が忙しくなって、どんどん年齢を重ねていきました。真剣に向き合わなければと思いつつも、目の前の忙しさを優先し、先送りにし、結果的には、42歳のときに、病気によって子どもを産む可能性がなくなりました。

今振り返ると、小さい頃から親や社会からの刷り込みもあったと思うんです。40歳になった頃に「いたらいいな」と思っていたものの「いてもいなくてもどっちでもいいかも」と感じるようになり、そこまで固執していない自分に気づいた部分もあります。どうしてもほしかったなら、最優先にして不妊治療をしていたと思います。

でも病気が発覚して、自分で産むことが叶わないと言われたとき、初めて「産まない」と「産めない」の違いを痛感しました。年齢的にも、産める可能性は低かっただろうとは思うのですが、わずかでも可能性があるのと、0になるのとでは違いました。マダネ プロジェクトでも、「産めないことが決まるとショックを受けた」という話を伺います。

今は自分の中で完全に気持ちが落ち着いて、「子どものいない人生が自分には合っていた(子どもがいなくてよかった、ではなく)」と感じています。マダネ プロジェクトを始めてから、様々な背景を持つ人たちと出会い、それぞれに事情や価値観が異なることを知ることができ、視野が広がって自分の理解も深まりました。ひとりで考えるだけでは気づけなかったであろうと思います。

色々な考えや生き方を知ることで、自分が大切にしていきたいものが明確になっていき、自分を認められるようになる感覚もありました。「多数派だから」とか、周りとの比較ではなく、自分にとって心地よい生き方がわかることで、生きやすくなりました。

※後編に続きます

『まんが 子どものいない私たちの生き方 ~おひとりさまでも、結婚してても。~』(小学館、まんが/森下えみこ)
『まんが 子どものいない私たちの生き方 ~おひとりさまでも、結婚してても。~』(小学館、まんが/森下えみこ)


【プロフィール】
くどうみやこ

大人世代のライフスタイルからトレンドまで、時流をとらえた独自の視点で情報を発信。
自身の経験をきっかけに、子どものいない女性を応援する「マダネ プロジェクト」を主宰。これまで子どもがいない500人以上の話に耳を傾け、「子どものいない生き方」に関する書籍を出版。多くのメディアに取り上げられ、自治体、大学、企業などでも講演。厚生労働省からもヒアリングの依頼を受けるなど、すべての女性が生きやすい社会を目指して活動を続けている。

■オフィシャルサイト
https://www.kudo-miyako.com/

■マダネ プロジェクトHP
https://www.madane.jp/

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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『まんが 子どものいない私たちの生き方 ~おひとりさまでも、結婚してても。~』(小学館、まんが/森下えみこ)より
『まんが 子どものいない私たちの生き方 ~おひとりさまでも、結婚してても。~』(小学館、まんが/森下えみこ)