「子どものいない女性」に残された社会的課題と根強い偏見。「子アリVS子ナシ」の対立構造に思うこと
「子どものいない女性たちの考えを知りたい」という思いから「マダネ プロジェクト」を立ち上げた、くどうみやこさん。「子どもを産むことは個人の選択」という考えが広がりつつあるものの、偏見の目を向けられがちな、子どものいない女性たち。くどうさんの本『まんが 子どものいない私たちの生き方 ~おひとりさまでも、結婚してても。~』(小学館、まんが/森下えみこ)では、子どものいない女性の多様な事情が描かれています。最近、子どもの有無での対立構造が話題になることがありますが、くどうさんは「属性ではなく、その人個人の問題」とおっしゃいます。ほか、不妊治療を諦めた女性の支援が不足していることも伺いました。
「子どもの有無」ではなく個人の問題
——本書では、大前提として「子アリVS子ナシ」の対立構造を作らないことについて言及しています。互いに理解をし合えることが重要だと思うものの、本書の漫画で描かれているように、育休や時短勤務の分、子どものいない人たちの負担が過度に大きくなったり、「子どもがいない人にはわからないと思いますが」と言われたりと、個人間で溝が生まれるような出来事が起きてしまうこともあると思います。マダネ プロジェクトでは、心の整理や乗り越え方などシェアされている考え方はありますか?
前提として、子どもの有無での対立構造はわかりやすいので、煽られている部分もあると思います。マダネ プロジェクトでは、何かモヤモヤすることを言われても、「子どもの有無」という属性ではなく、その個人の人間性の問題という話をしています。子どもがいてもいなくても、配慮できる人がいる一方で、お礼を言わないような人もいる。それは、属性によって違うのではなく、その人の人間性に起因しています。また、業務の負担の偏りは、個人の問題ではなく、会社の仕組みに原因があると思います。引きの視線で見ると、受け止め方が変わってくるのではないでしょうか。
マダネ プロジェクトは子どものいない人の集まりではあるものの、子どもの有無で対立構造を作りたいわけではありません。誰もが生きやすい社会を目指すことを理想としていて、「私たちは属性で偏見を持たないようにしよう」という話をしています。
——育休・時短勤務のサポート体制は、会社によって差が大きいように感じます。
大企業の中には、サポートする人にも手当を出すなど、動きが出てきていますが、中小企業では、そこまでの余裕がなく、子どものいない人や子育てが終わった人にしわ寄せがいっていることも多いようです。
最近は男性の育休取得が進んできて、それは喜ばしいことです。一方でフォローの体制はなかなか進まず、マダネ プロジェクトの参加者さんからは、「女性だけでなく、男性も育休を取る人が増えている中、フォロー体制は変わらないので、サポートする側がキャパオーバーしそう」という声が聞こえてきます。
以前、マダネ プロジェクトで働き方のアンケートを取った際、子どもがいない人たちも、子育てしながら働くことが大変なのは理解しているので、ほとんどの人は「サポートすることに対しては協力したい」と思っていることがわかりました。ですが「子どもがいないんだから時間があるよね」と言われたり、サポートが当たり前で感謝もされなかったりすることにモヤモヤするという声が寄せられていて、金銭的なことよりも、気持ちの問題が大きいのではないかと感じます。子どもがいないからといって、暇なわけではなく、容易に融通がきくわけでもありません。わかりやすい例をあげると、親の介護があるなど、それぞれ事情があるのですよね。
子どものいない人たちに対して、気持ちの面でのケアが欠けると、仕事へのモチベーションも低下し、生産性が下がると思います。一方、子どもがいる人の中には、過度に申し訳なさを感じている人もいるので、そう思わなくていいような社会に変えていくことも必要です。
子どものいる人もいない人も、お互い気持ちよく働けるよう、声をあげて状況を改善していくことが大切です。また、子どもの有無は女性だけの問題ではないので、男性も含めた全体の問題として、大きな枠で考える必要があることも伝えていきたいです。
大切なのは自分らしい選択ができるか
——子どものいない女性には偏見が向けられてきました。社会の多数派的な価値観から解放されるために、マダネ プロジェクトではどのように捉え方を変えていますか?
参加者からはよく、「子どもがいない人は少数派だから、生きづらい」という声が聞こえてきます。確かに一昔前は、結婚して子どもを持つ人が大多数で、年齢が上がるほどその傾向は強いです。今でも地域によっては、「地元の仲良しグループで、自分だけ子どもがいない」ケースもあるので、その場合は孤独感が増すこともあるでしょう。ですが、色々なデータを見ると変化していて、最近は子どもがいない人は、昔ほど少数派ではなくなってきています。
もう一つ、強調しておきたいのは、多数派が必ずしも正解というわけではないということ。少数派であっても、自分らしく生きられることが大切です。「子どもがいない」と社会からの圧力を受けたり、偏見を向けられたりすることもありますが、自分軸をしっかりと持っていれば、聞き流したり、気にならなくなっていくという話を共有しています。
——ここ数年で、結婚も出産も個人の選択なので、外から口出しするものではない、という考えも共有されてきたように感じます。
日本でも「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)」という概念が広がり、産むか産まないかは他人や社会が強制することではなく、選ぶ権利があることが知られるようになっていますね。マダネ プロジェクトも「リプロダクティブヘルスアワード2024」のリプロダクティブ・ライツ部門の特別賞を受賞しました。
実は、活動当初は批判を受けることがよくありました。「少子化を助長している」「いない女性を支援する意味があるのか」「子どもが欲しかったのにもてなかった人は仕方がないけれど、子どもがほしくない人は自分勝手なだけ」……こういった意見が何度も届きました。
ですが、最近は「素晴らしい活動だと思う」という声をいただくことが増え、私たちのような活動を賞に選んでいただいたことも、喜ばしいことです。若い世代が「自分は子どもがいない人生を選択したい」と堂々と言えるようになってきたことも、時代の変化を感じます。
生き方は多様化しているのに、社会の制度は「家族単位」のまま
——今後、活動として伝えたいことはありますか?
マダネ プロジェクトには、不妊治療を終えてから参加する方も多いのですが、不妊治療を終結させてからの気持ちの消化が難しいという話を伺います。他の終結した人の経験談を聞く機会もあまりなく、見落とされてきた社会課題だと思います。
クリニックにおける不妊治療の終結の支援、「やめどき」のサポートは、少しずつ広がってきているという話を聞きます。でも不妊治療をやめた後の支援は、ほとんどされていないのが現状です。マダネ プロジェクトの参加者には、「不妊治療中もつらいが、やめてからの気持ちの方がさらにつらい」との声が多く寄せられています。
治療中はわずかでも妊娠できる可能性があったものの、不妊治療を終えるということは可能性が完全になくなるということ。仕事を辞めてまで不妊治療に専念してきた人も少なくありません。そんな中で、急に病院に行かなくなり、やることもなくなって、引きこもって誰とも会いたくなくなる人がいます。こういった状態を「未産うつ」と名付けました。
精神的な不調が生じると、外に出なくなってしまう方もいるので、「マダネ プロジェクトへの参加が3カ月ぶりの外出」とおっしゃっていた人もいました。引きこもって人との接触を避けるようになる前にフォローアップすることで元気を取り戻し、再び働くことができるようになる傾向を感じます。マダネ プロジェクトに参加した方の中には、以前はすごく落ち込んでいたのに、今はフルタイムで働き、日々忙しく過ごしている方もいらっしゃいます。最近は活動の一つとして、終結後の支援の必要性も伝えるようにしています。
——「子どものいない女性」に関して、どんな社会的な課題が残されていると感じますか?
人々の意識が変化し、家族の形やライフコースも多様化している一方、色々な制度が「家族単位」のままです。子どものいない人たちは、その点に不安を感じています。もちろん、子どもがいるからといって老後は安心というわけではありませんが、子どもがいない人は早くから老後の心配を抱える傾向にあります。
たとえば、年を重ねて自分の親が入院や手術をする際に、自分が手続きをする中で「私のときは誰がやってくれるんだろう?」と思うなど、老後の不安は大きいです。人々の生き方に合わせて社会の制度が変わっていかないと、制度に当てはまらない人たちは、不安を抱えてしまいます。どんな生き方をしていても、一人であっても、安心して最期を迎えられる社会に変えていってほしいです。
【プロフィール】
くどうみやこ
大人世代のライフスタイルからトレンドまで、時流をとらえた独自の視点で情報を発信。
自身の経験をきっかけに、子どものいない女性を応援する「マダネ プロジェクト」を主宰。これまで子どもがいない500人以上の話に耳を傾け、「子どものいない生き方」に関する書籍を出版。多くのメディアに取り上げられ、自治体、大学、企業などでも講演。厚生労働省からもヒアリングの依頼を受けるなど、すべての女性が生きやすい社会を目指して活動を続けている。
■オフィシャルサイト
https://www.kudo-miyako.com/
■マダネ プロジェクトHP
https://www.madane.jp/
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