アジャストは必要か?ヨガ講師が議論すべきアジャストのメリット・デメリット

 アジャストは必要か?ヨガ講師が議論すべきアジャストのメリット・デメリット
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マインドフルネスなども指導するヨガティーチャーの鈴木まゆみ先生。彼女が経験したヨガクラス中の大怪我は、「ヨガを指導すること」について、改めて見つめなおすきっかけになったと話してくれました。ヨガを指導する者も指導される者も、今一度、ヨガを伝える/ヨガを学ぶということについて考えてみませんか?鈴木まゆみ先生による手記、3回にわけてお送りします。

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アジャストってなんでしょう?

アジャストメントに関してはさまざまな意見が交わされるといいなと思います。何が正しいか、正義か!という答えを出すことで反対意見の人を攻撃することが目的ではなく、一人一人がちゃんと自分に当てはめて、自分で考えること。カッコ悪い答えでもいいから正直に考えたい。
強いアジャストをして生徒にあるメリットってなんでしょう?そもそも現代、普通に社会の中で生活を営んでいる私たち。いつもの日常生活にそんなビックリ人間みたいな股関節の可動域って必要なのでしょうか?
先生も人間だもの。そりゃ間違いをおこしたり、失敗することもありますよね。自分がまじめに学んできて信じて疑わなかったことが、もしかしたら間違っているかもしれない。これは誰にでも言えることだと思います。その場合もうしょうがない。ごめん、でしかない。
でも自分の承認欲求を満たすために生徒を利用しているとしたら?気づかずやっているのであれ、確信犯であれ。今自分がやっていることは本当に生徒のためなのか?ということを改めて考えたいものです。
そして現代のヨガシーンでは、生徒側にそれを見抜く力が必要です。

大丈夫なことなんてない

人は、骨格はもちろん、目には見えない骨の状態、その周りの結合組織の状態がそれぞれ違います。長くヨガを練習している人だからといって強くアジャスト(と言う名のストレッチ)をしても大丈夫と言うことは全くありません。その人は、目には見えない症状を抱えているかもしれない。飲んでいる薬の副作用がある時期かもしれない。熟練者だから強いアジャストをしても大丈夫、というその感覚、とても怖いです。この人はヨガの先生だから大丈夫、ダンサーだから大丈夫、熟練者だから大丈夫、男性だから大丈夫、若いから大丈夫…
いや、どれも大丈夫じゃありません。
これを読んでいるみなさんから「はいはい、わかってますよ、みんな身体が違うなんて100年前からわかってます!!」という声が聞こえてきそうです。わかります、これ、みんな耳にタコができるほど聞いていますよね。でも、先生たちは実際の現場に立ってヨガのポーズを目の前にすると、なぜかそれが全く意識できなくなってしまうことがある。耳にできたタコのことなんてきれいさっぱり忘れて、急にスイッチが入ったかのように人を型にはめ込むようなアジャストをグイグイしちゃう。こうなったらもう誰も止められない。ゾーンに入っちゃうんでしょうか。あれなんでしょうね。ヨガスタジオには魔物がいるんでしょうか。

アジャストはサービスではない

私にアジャストをしたそのクラスの先生も、アジャストをまるでサービスの一環と捉えているようでした。アシスタントに入っていた他の講師にも「この人(まゆみ)は先生だからどんどんアジャストしちゃって大丈夫だからね」と遠くから声をかけて私を紹介していました。わかります。本当によかれと思っての行動なのでしょうし、私を喜ばせたかったのでしょう。でもその日から1年間、私はまともに歩くことすらできなくなりました。大好きなヨガの練習ができなくなったのはもちろん、靴も靴下もパンツもスカートも立って履くことができない。歩くのも、走るのも、車に乗り込むことも、お風呂をまたぐことも、何かの助けがないとできなくなりました。
ヨガ人口はまだまだ増加しています。それに伴い今後もヨガで怪我をする人は出てきてしまうでしょう。そしてそれを防ぐことこそヨガの先生の大切な役割の一つだと思っています。

大怪我がもたらした大きな損害

私には家族がいてくれ、さまざまな人の助けがあり1年間と数ヶ月、飢えることなく生活ができ、実に幸運にもティーチングの現場に復帰できました。しかしながらこの状況はフリーランスには非常に厳しいものでした。
仕事がない(収入がない)にも関わらず、生活費のほか、医療費、保険適応外の代替医療費、リハビリの費用、補助具の購入、タクシー移動代、車ならば駐車場代、想像以上にお金はかかり、最初の一年ですぐに200万以上貯金がなくなりました。行き場のない怒りと、取り残される恐怖と、なくならない痛みの上にこれは本当に心が荒みます。
しかし、この怪我が夢いっぱいで駆け出した若い先生に起こっていたとしたらどうでしょう。ヨガを一生懸命勉強して、ポーズを練習して、TTにお金と時間と努力をつぎ込んで、やっとあちこちでクラスも頼まれるようになり、安定したOLだった会社も思い切って辞め、さあ!という矢先に起こった事故だったら。考えただけでゾッとします。ちなみに今の時代、一年以上も休んで待っていてくれる職場、ポジションなどほぼないに等しいのではないでしょうか。

自分のために「NO!」を言うことを恐れないで

そしてヨガの愛好家のみなさん。アジャストを受ける側は、ちょっとでもおかしいなと思ったら勇気を出して大きな声で言いましょう。痛い!やめてください!って。クラスを途中で退出してもいいです。自分を守れるのは自分しかいません。直接担当の先生に言いにくければ他の先生や、スタジオの事務局に相談しましょう。ここは日本だけどアメリカではこれ、普通です。必要なら診断書を持って傷害罪で訴えることもできます。勇気を持ちましょう。
先日、アンダーザライトヨガスクールの主催で定期的に開催されるSafe Yoga Studyと言う安全を呼びかけるヨガのイベントに登壇し、多くの人の前で初めてこの怪我の経緯について話をしました。パネルディスカッションが終わり、ステージから降りた私の前には行列ができました。ほとんどの方が「私も同じ経験をしました。誰にも相談できなかった。ついに今言えた。」と話してくれました。中には涙を流しながら話してくれる人もいて、聞いていて心の底から悲しくなりました。

私たちは何のために私たちはヨガをするのか

これについてヨガを教えるすべての先生、ヨガの実践者がいつまでも自問自答を繰り返すことができますように。そして独り善がりにならないよう、正直な意見や論議を交わせる仲間、師を見つけ、いつでもここに立ち返ることができるように願っています。生徒が見たことがない景色を自分が見せてあげたい、生徒が経験したことがないことを自分が経験させてあげたい、という思い。このエゴは誰でも持っているし、色々な場面ですぐに顔を出してくる。わかっていてもビックリするぐらいとても簡単に顔を出してくる。
私たちはヨガの指導者である前に、まず自分がヨガの練習者として、その強い欲求や、自分が陥りがちな心の状態に気づいていないといけない。自分の心の状態に気づくことのできる能力は日々の深い練習の中で培われるもので、インスタントに手に入りません。だから日々意識して、日々練習をしていない人はフェイクになる。アメリカやインドからお免状はもらえても、ここはもらえない。
先生と呼ばれる立場にいる私たちはここをもう一度、そしてこの先何度でも確認し直したいものです。

 

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