介護や子育て…自分ケアが二の次になる人が陥りがちなことと、その対処法とは?|臨床心理士が解説

 介護や子育て…自分ケアが二の次になる人が陥りがちなことと、その対処法とは?|臨床心理士が解説
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南 舞
南 舞
2024-05-28

介護や子育てなど、ケアが必要な人へのケアに一生懸命になるあまり、自分へのケアが後回しになってしまったり、それによって心身に不調を抱えるという話をよく聞きます。他人へのケアをすることは避けられない、でも自分自身が疲弊してしまうことも避けたい。そんな時に自分に対してケアしていくためにはどのようにしたら良いのか。心の専門家である臨床心理士が解説します。

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自分へのケアが不足することで起きがちなこと

介護や子育てなど、相手をケアする人のことをケアギバーと呼びますが、ケアギバーになる人は、相手へのケアが優先されるあまり、自分へのケアが不足しがちです。自分へのケアが不足すると、燃え尽き症候群になる可能性が出てきます。燃え尽き症候群の症状としては、心身ともに疲れ果て、心にゆとりがなくなってしまう【情緒的消耗感】、相手に対して思いやりのない行動をとってしまう【脱人格化】、モチベーションや自己評価、これまでにできていたケアができなくなる【個人的達成感の低下】が挙げられます。こうした状況になると、ケアを続けるのはなかなか難しくなりますし、症状が悪化することで人間関係やメンタルヘルスに影響を及ぼすおそれがあります。

自分をケアするのに役立つ【セルフ・コンパッション】の視点

自分をケアするという視点を、心理学的に考えた時にご紹介したいのが【セルフ・コンパッション】という視点を持つことです。セルフ・コンパッションとは、自分に対して優しさや労り、慈しみの気持ちを向けていくこと。セルフ・コンパッションの能力が高くなると、ストレスが軽減する、気持ちの切り替えが上手になるといったメリットがあると言われています。医師や看護師、保育士などの対人援助職と呼ばれる他人のケアを仕事にしている人たちに対して行われた研究(※1)の中でも、セルフ・コンパッションが高まることによって、ストレスが減る、バーンアウトを抑制する、離職率が減るといった効果が期待されています。まさに、他者へのケアをする人にとって身につけておきたい力と言えるでしょう。

日常生活で行える、セルフ・コンパッションのワーク

セルフ・コンパッションは、日々の生活の中で高めることができます。そこで、日常的に取り組めるワークをいくつかご紹介しますね。

スージングタッチ

スージングタッチとは、お腹や胸など自分の身体に手を当て、優しくさすったりするなどの行動をとることです。優しく自分自身に触れることにより、心を落ち着かせていきます。どの場所に触れると気持ちが落ち着くのか、どのように触れると心地よいのかなど、自分に合う方法を見つけてみましょう。

コンフォートカード

コンフォートカードとは、自分自身を批判したり、責めてしまいそうになった時に、それをカバーするような優しいフレーズや対処法を記入したカードのことです。いつでも取り出せる場所に保存しておき、苦しい状況に出会ったときにはコンフォートカードを見て、自分を思いやる言葉をかけたり、行動を取るようにしてみましょう。

慈悲の瞑想

慈悲の瞑想とは、自分自身や他人に向けて優しさや慈しみのある言葉を唱えていく瞑想法です。他人だけでなく、自分に思いやりを向けていくことでセルフ・コンパッションが育っていきます。また、介護や子育てを行う中では、困難に感じることも多いと思います。そういった困難な状況において役に立つレジリエンス(精神的回復力)を育てるのにも、慈悲の瞑想が役立つと言われています。

【慈悲の瞑想のやり方】

1.椅子に腰掛けても、床に座った状態でも良いので、自分にとって快適な姿勢を選んで行います。

2.まずは自然に湧いてくる呼吸を感じてみましょう。一度鼻から息を吸って、口からゆっくり吐きます。抵抗がなければ目を閉じて、自分の呼吸を感じていきましょう。

3.『自分に対する慈悲』を唱えます。下記のように唱えましょう。(3回繰り返します)

  私が安全で守られていますように

  私が健康でありますように

  私が幸せでありますように

  私が安らかに暮らせますように

4.『自分の大切な人に対する慈悲』を唱えます。下記のように唱えましょう。(3回繰り返します)

  私の大切な人が安全で守られていますように

  私の大切な人が健康でありますように

  私の大切な人が幸せでありますように

  私の大切な人が安らかに暮らせますように

5.『世界中の生きとし生けるものに対する慈悲』を唱えます。下記のように唱えましょう。(3回繰り返します)

  すべての人が安全で守られていますように。

  すべての人が健康でありますように

  すべての人が幸せでありますように

  すべての人が安らかに暮らせますように

6.『自分の少し苦手な人に対する慈悲』を唱えます。難しければ省略してもOKです。下記のように唱えましょう。(3回繰り返します)

  この人が安全で守られていますように。

  この人が健康でありますように

  この人が幸せでありますように

  この人が安らかに暮らせますように

7.慈悲から意識を離して、自分の呼吸に意識を向けます。ゆっくりと目を開けていきます。今ここにいる自分を見つめながら、慈悲の瞑想の体験を振り返ってみましょう。

※あまりに不快な感覚やイメージが強くなる場合には、無理をせず中断しましょう。

自分への労りやケアも忘れずに

頑張り屋がきく人ほど、他人へのケアに一生懸命になれるもの。すると、どうしても自分へのケアが二の次になってしまいがちです。他人へのケアを長く続けていくためにも、ぜひ自分をケアするということも忘れずに行ってみてくださいね。

【参考文献】

※1 Raab, K. Mindfulness, Self-Compassion, and Empathy Among Health Care Professionals: A Review of the Literature. Journal of Health Care Chaplaincy, 20(3), 95-108.(2014)

※2 クリスティン・ネフ、クリスティン・ガーマー(著)富田拓郎(訳)「マインドフル・セルフ・コンパッション ワークブック」星和書店 (2019)

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南 舞

南 舞

公認心理師 / 臨床心理士 / ヨガ講師 中学生の時に心理カウンセラーを志す。大学、大学院でカウンセリングを学び、2018年には国家資格「公認心理師」を取得。現在は学校や企業にてカウンセラーとして活動中。ヨガとの出会いは学生時代。カラダが自由になっていく感覚への心地よさ、周りと比べず自分と向き合っていくヨガの姿勢に、カウンセリングの考え方と近いものを感じヨガの道へ。専門である臨床心理学(心理カウンセリング )・ヨガ・ウェルネスの3つの軸から、ウェルビーイング(幸福感)高めたり、もともと心の中に備わっているリソース(強み・できていること)を引き出していくお手伝いをしていきたいと日々活動中。



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