日本では600万人もの患者がいる「ぜんそく」40~50代で突然発症することも…症状と発作の対処法
日本では600万人もの患者がいるとされるぜんそく。ぜんそくは子どもが罹る病気というイメージがあるかもしれませんが、大人になって初めて罹患するケースも。とくに冬場は、冷たい空気の刺激でぜんそく発作が誘発されやすくなるので注意が必要です。この記事では、ぜんそくについて解説します。
ぜんそくが起こるメカニズム
ぜんそくの正式な病名は、「気管支ぜんそく」で、気道(空気の通り道)の粘膜に繰り返し起こる炎症のことをいいます。なぜ気道に炎症が起こるのか、その原因については完全には解明されていませんが、原因の多くはアレルギー反応やウイルス感染と考えられています。
私たちの体には、ウイルスや細菌などの異物の侵入を防ぐために免疫システムが備わっています。体に有害な物質が入ってくると、免疫細胞はそれを異物(抗原)として攻撃し、排除するために抗体をつくります。
ある抗原に対する抗体を一度つくると、いつまでも敵を記憶していて、再び同じ抗原が侵入してきたら、すばやくその抗体を生産して撃退します。このような免疫システムのおかげで私たちの健康は守られています。
ところが、本来は無害のはずの花粉やダニ、ハウスダストのようなものまで有害物質と認識し、過剰に反応して抗体をつくってしまうことがあります。すると、これらの物質が体内に入るたびに、免疫システムが働くため、さまざまな不快な症状が出てくるのです。これが「アレルギー反応」です。
ぜんそくの場合も、ダニやカビなどのアレルゲンに過剰に反応し、なんとか追い出そうとして気道を収縮させたり、洗い流そうとしたりして、粘膜から粘液を多量に分泌します。これが咳や痰、場合によっては、呼吸困難などぜんそく発作の原因となるのです。なお、ぜんそくを引き起こすアレルゲンには、次のようなものがあげられます。
・ダニやダニの死骸
・ペットの毛やフケ
・ほこり
・カビ
・花粉
・タバコの煙
また、かぜやインフルエンザなどのウイルス感染によって、アレルギー反応がさらに悪化することがあるため、注意が必要です。
ぜんそくの症状の特徴
ぜんそくの症状の大きな特徴は、呼吸をするときに、「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった苦しそうな音がすることです。これは、慢性的な炎症のために細くなった気道を空気が通るときに出る音で、「ぜんめい(喘鳴)」と呼ばれます。そのほかにも、つぎのような症状が起こります。
・突然、息苦しくなる。
・激しく咳こむ。
・粘り気のある濃い痰がたくさん出る。
・急に動けなくなる。
・胸の痛み。
・動悸、息切れ。
・背中の張り。
・空咳が出る。 など
炎症を起こした気管支は、常に粘膜が腫れたようになっているので、気道が狭くなり、ちょっとした刺激にも敏感に反応して症状が起こります。また、こうした症状の出方には、次のような特徴があります。
・夜間睡眠中、とくに明け方に出やすい……午前2~3時から明け方に多発する。そのため睡眠不足になるケースも多い。
・安静にしていて、体を休めていても起こる……体を動かしたときだけでなく、じっとしていても突然、発作が起こる。
・発作は一時的だが、繰り返し起こる……発作がないときは健康な人と同じように生活できるが、発作は必ず反復する。
大人のぜんそくとは?
ぜんそくには特定のアレルゲン(抗原)が引き金となっておこる「アトピー型ぜんそく」と、アレルゲンが特定できない「非アトピー型ぜんそく」の2種類に分けられます。子どものぜんそくの場合、90%はアトピー型ですが、大人のぜんそく(成人ぜんそく)の場合、非アトピー型の割合が50%と高くなっています。
大人のぜんそくは、40~50代で初めて発症するケースが多く、その要因の一つが肥満です。肥満度が高くなるほど、ぜんそくの発症リスクが高まり、重症度とも関係があります。とくに女性は、肥満とぜんそくの関係が顕著に出るといわれています。
また、肥満以外にも、大気汚染(排気ガスやPM2.5など)、喫煙、過労、ストレス、薬の影響などが非アトピー型の原因としてあげられます。
市販薬の使用は要注意!
咳が出るからといって、安易に咳止め薬をのむのは考えものです。とくに「リン酸コデイン」「リン酸ジヒドロコデイン」という成分が含まれている咳止め薬は、気道を収縮させる作用があり、かえって症状が悪化することがあります。
また、「アスピリンぜんそく」といって、特定の薬によってぜんそくの発作を引き起こすことがあります。そのほかにも、インドメタシン、イブプロフェンなどの非ステロイド系の消炎鎮痛剤の使用にも注意が必要です。ぜんそくの人は医師や薬剤師などに相談してから使用してください。
ぜんそくは一生完治しない?
ぜんそくが自然に治るケースは子どもでは、6~7割、成人では1割以下と報告されています。一度、ぜんそくになったら一生つきあわなければならない場合も多いといえます。しかし、適切な治療を行えば、症状がでないようにすることや、薬の服用などをやめて家庭で経過をみる状況まで回復することもできます。
ぜんそくの治療は、気道の炎症を抑えて発作をできるだけ起こさないようにする予防的治療(コントローラー)が主体です。重ねて、発作が起きたときに速やかに症状を改善させる対症的治療(レリーバー)を重症度に合わせて行います。
予防的治療に用いられるのは、おもに気道の炎症を鎮める「吸入ステロイド薬」や気管支を拡張する「テオフィリン」などです。吸入ステロイド薬は、成分が直接気管支に届くので効果が高く、使用量が少なくてすみ、毎日の使用に向いています。
また、ぜんそくの自己管理のためには、気道の詰まり具合を測る「ピークフローメーター」という器具を使い、毎日の数値や症状を記録する“ぜんそく日記”をつけることも大切です。
急に発作が起こったときの対処法
軽度から中程度(わずかな咳や喘鳴、息苦しさ、痰の増加など)の発作であれば、まずは医師に指示されている通り、気管支拡張薬の吸入などを行います。薬を使用してピークフロー値(気道の詰まり具合)が改善し、その状態が3~4時間以上続き、かつ24時間後も無症状であれば、自宅で経過を観察します。改善されない場合は、ただちに救急外来を受診してください。
高度の発作になると、酸素不足が全身に及び、死に至る危険もあるため、速やかに医師に連絡し、救急外来の受診を。意識がはっきりしない、尿を失禁している場合などは、ただちに救急車を要請してください。
日常生活生活で気をつけること
ぜんそくは、早めに診断して適切な治療を行えば、重くならずにすみ、健康な人と同じように生活できる病気です。ぜんそくをあなどらず、かつ怖がらずにつきあっていきましょう。生活上では次の点を心がけてください。
・ダニを駆除する……まめに掃除をしてほこりを溜めない。寝具は化繊の素材を選ぶ。室内でペットを飼わない。換気を心がける。できれば床をフローリングに。
・かぜやインフルエンザに感染しない……外出時はマスクをつける。できるだけ人混みは避ける。うがいや手洗いを習慣にする。部屋が乾燥しないように適度な湿度を保つ。睡眠を十分に。
・満の解消……肥満はぜんそくの原因となるため、食べ過ぎに注意する。肥満気味の人は食べる量を8割に。バランスのとれた食事を心がけること。
・ストレスをためない……ストレスは気道を収縮させ、発作の引き金になる。適度な運動や趣味の時間をつくるなど、自分に合ったストレス解消を。
・アルコールを控える……アルコールによってぜんそくが誘発されることもある。ビールやワインに含まれる成分がアレルゲンになることも。ぜんそくの人は、アルコールはできるだけ控える。
まとめ
ぜんそくは、気道に慢性的な炎症が起こる病気です。「ゼイゼイ」「ヒューヒュー」といった喘鳴(ぜいめい)が生じたり、呼吸困難に陥ったりするケースもあります。ぜんそくの発作は一時的ですが、繰り返し起こるため、予防のためのコントローラーや発作時のレリーバーの使用など適切な処置が必要です。また、アレルゲンを寄せつけないよう、生活環境の改善を行えば、健康な人と同じ生活を送ることもできるでしょう。
AUTHOR
小笠原まさひろ
東京薬科大学大学院 博士課程修了(薬剤師・薬学博士) 理化学研究所、城西大学薬学部、大手製薬会社、朝日カルチャーセンターなどで勤務した後、医療分野専門の「医療ライター」として活動。ライター歴9年。病気や疾患の解説、予防・治療法、健康の維持増進、医薬品(医療用・OTC、栄養、漢方(中医学)、薬機法関連、先端医療など幅広く記事を執筆。専門的な内容でも一般の人に分かりやすく、役に立つ医療情報を生活者目線で提供することをモットーにしており、“いつもあなたの健康のそばにいる” そんな薬剤師でありたいと考えている。
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