放置すると昏睡状態など命に関わる危険も…【慢性腎不全】なりやすい人の特徴は?予防策は?医師が解説
「慢性腎不全」とはどんな病気?医師が解説します。
慢性腎不全とはどのような病気か
慢性腎不全は腎臓に脱水や糖尿病、高血圧などの基礎疾患を始めとして何らかの障害が慢性的に発生して、長期間腎臓機能が低下する状態です。
腎機能が低下する原因としては、生活習慣病以外にも、薬剤の副作用、急性糸球体腎炎、尿管結石、前立腺肥大症などの疾患が挙げられます。
特に、高齢になればなるほど糖尿病や高血圧などを含めて生活習慣病の発症リスクは高まり、慢性腎不全などを引き起こして尿毒症に繋がる可能性が高いと考えられるために十分注意する必要があります。
尿毒症になると、体外へ老廃物や身体にとって不要な毒素成分を正常範囲に排出できないことによって倦怠感、全身浮腫、息苦しさ、食欲不振、嘔気、けいれん、貧血、不整脈など全身に多彩な症状を引き起こします。
慢性腎不全の病状が悪化すると、脳にも異常が出始めて、思考力が低下する、あるいは情緒が不安定になるだけでなく、不眠や頭痛などを合併する可能性もありますし、中枢神経領域への悪影響が大きくなるとけいれん発作などを引き起こす恐れもあります。
また、腎障害に伴って貧血所見も起こることで、貧血と関連性の高い動悸症状や労作時の疲労感なども発生する懸念がありますし、病気が進行するとカリウムなどを中心とした電解質異常の併発が認められます。
さらに、腎機能が悪化することで胸腔内に水がたまって呼吸困難を呈する病気を発症する可能性もありますし、骨代謝が悪化して骨組織が脆弱になる、あるいは皮膚が黒ずむことも見受けられます。
このように慢性腎不全は、症状を放置すれば様々な悪循環を発生させるリスクがあって、ひどい場合には、心不全や昏睡状態など命に直結する病気を引き起こす可能性があります。
慢性腎不全になりやすい人とは
腎不全の原因はいろいろありますが、慢性腎不全の原因で最も多いのが、糖尿病性腎症であると言われていて、次いで慢性糸球体腎炎、腎硬化症などが挙げられます。
糖尿病の方は、血液中の血糖が通常より増えており、血管の中の血糖が高くなると、腎臓に血液を運ぶ血管と腎臓から血液を運び出す血管が拡張し、腎臓に運ばれる血液量と運び出される血液量が増えて腎臓にはたくさんの血液が流れ込みます。
そうなると腎臓内の血圧が上がって過度の圧力がかかり、腎臓の細胞がダメージを受けて腎機能が悪化してしまい、糖尿病性腎症を発症することに繋がります。
また、慢性糸球体腎炎を抱えている人の場合には、免疫学的なメカニズムが発症に関連していて、外部の病原体を排除するために自然と体内で作成された抗体が糸球体を傷つけてしまい、糸球体腎炎を引き起こすと考えられています。
腎硬化症の方は、高血圧が原因で腎臓の血管に動脈硬化を起こした状態であり、腎臓の血管は硬くなるのと同時に狭くなって腎臓への血流が減ることから、尿が作られなくなって慢性腎不全を引き起こします。
慢性腎不全の治療予防策は?
慢性腎不全を改善するためには、日々の生活習慣の改善が肝要なポイントとなります。
慢性腎不全の治療策の一つとして、食事療法が挙げられ、普段の生活の中でタンパク質、カリウム、リンなどの成分の摂取を制限してカロリーを摂取することを意識し、塩分の摂取を減らして適切な水分量を取り入れることで、水分が過剰に蓄積することを予防します。
慢性腎不全を患った場合には、特に塩分やタンパク質などの栄養制限を余儀なくされるケースが多いですが、身体の機能維持のためにはある程度必要な栄養成分であるため、確実に推奨量を管理して、摂取することが大切です。
個々の患者例における腎臓の状態によって食事療法に関する治療策は若干異なり、許容される塩分摂取量などを含めてケースバイケースですので、定期的な検査を受けて自分のその都度健康状態を把握して対策を講じることが必要です。
また、慢性腎不全を発症する背景には、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病が存在することも多く見受けられますので、血圧や血糖、コレステロールを含めた数値を降圧剤などの薬剤で良好にコントロールしながら目標値に近づくように設定することが重要です。
特に、高血圧は、腎臓に大きな負担をかけると言われており、降圧剤を適切に服用して、正常の至適範囲の血圧値を保つようにすることが腎機能悪化を予防するポイントとなります。
また、腎機能の悪化によって引き起こされる貧血は、鉄剤や赤血球造血刺激因子製剤を投与することもあります。
腎機能低下に伴って、骨折を予防するためにビタミンDの投与を行う、あるいは血液が酸性のアシドーシスに傾いたら重炭酸ナトリウムを投与することもあります。
慢性腎不全が末期状態になると、透析治療を行うこともあります。
一般的に、透析治療には血液透析と腹膜透析の二種類が代表的に存在していて、患者さんの状態や尿毒症の症状程度に合わせてどちらを行うかを決定します。
血液透析は、老廃物を含む血液を排出するために、特殊な専門医療装置を利用して老廃物や水分を取り除いて血液を浄化する治療方法であり、きれいに浄化した血液を再度濾過装置にて身体に戻す作業を実施します。
一方で、腹膜透析は腹部に専用カテーテルを挿入して、透析液を入れた腹膜を通して血液を浄化する治療手段であり、この方法は1日1回就寝中に実施します。
透析治療には、出血や感染など様々な合併症を引き起こす可能性があるため、どのような治療方法を実際に選択するかは、事前に医学情報をしっかりと把握したうえで専門医と相談して選択することが大切です。
まとめ
これまで、慢性腎不全とはどのような病気か、慢性腎不全になりやすい人の特徴や治療予防策などを中心に解説してきました。
腎臓病が進行して腎臓の機能が低下すると、慢性腎不全と呼ばれる状態になります。
初期の段階では自覚症状がないことがあり、健康診断や他の病気の検査を受けて、初めて病気に気が付くことがありますし、病状が進行すると様々な自覚症状が出現します。
慢性腎不全は、個々の発症原因や病気の進行度によって治療方法もケースバイケースで異なり、日常生活での食事療法や様々な薬物治療、透析療法などを検討する必要があります。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。
AUTHOR
甲斐沼 孟
大阪市立大学(現:大阪公立大学)医学部を卒業後、大阪急性期総合医療センターや大阪労災病院、国立病院機構大阪医療センターなどで消化器外科医・心臓血管外科医として修練を積み、その後国家公務員共済組合連合会大手前病院救急科医長として地域医療に尽力。2023年4月より上場企業 産業医として勤務。これまでに数々の医学論文執筆や医療記事監修など多角的な視点で医療活動を積極的に実践している。
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