"太ったヒロイン"代役俳優が演じる仕事から離れた理由|容姿や体型をネタにした映画がもたらした影響

 "太ったヒロイン"代役俳優が演じる仕事から離れた理由|容姿や体型をネタにした映画がもたらした影響
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長坂陽子
長坂陽子
2023-09-04

2001年に公開されたラブコメ映画『愛しのローズマリー』でグウィネス・パルトロウのボディダブルを演じたアイヴィー・スニッツァーが、表舞台から姿を消した理由を語った。

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2001年に公開されたラブコメ映画『愛しのローズマリー』。主人公はルックス重視で恋人を選んできた男性ハル。あるとき催眠術をかけられたことがきっかけで、内面の素敵な女性が美人に見えるように。そうとは知らずハルは街で見かけた美人、ローズマリーに一目惚れ。しかし実は彼女は体重100キロを超える女性だった……というストーリー。ローズマリーを演じたのはグウィネス・パルトロウ。彼女がファットスーツという特殊メイクをつけて実際の-つまり太っている-ローズマリーを演じるシーンもあれば、実際に太っている女性がボディダブル(代役)を務める場面もあった。

その代役の女性アイヴィ・スニッツァーが最近、新聞「ガーディアン」のインタビューで久しぶりに表舞台に登場。この映画を撮影した後に体験したショッキングな出来事を語った。映画が作られた当時、彼女は20歳。俳優かコメディアンを目指して演技の勉強をしていた。この映画のストーリーはグウィネスのようにスリムな体型を「美しい」、100キロ超える体型を「美しくない」とする考え方の上に成り立っている。つまり映画そのものが体型差別。今だったら完全にアウトである。しかしアイヴィはストーリーを聞いても出演するのに躊躇いを感じなかったそう。「当時映画に出てくる太った人は悪役ばかりだった。ローズマリーはクールで人気者で友達がいた」。太った人をポジティブに描いている作品だと評価した上で出演した。撮影は楽しく、毎日ワクワクして過ごしたそう。彼女は無名の俳優だったが「キャストもスタッフも私が重要な存在であるように扱ってくれた。私抜きでは映画が作れないというように接してくれた」。自分の体に居心地を感じることもなかったという。当時彼女は「不安を感じていたけれど、自分に自信も持っていた。ボディポジティブではなかった。その頃そういう考え方はなかったから。私は『自分ポジティブ』だった。『私は面白い人だからそれで十分!』って思っていた」。

愛しのローズマリー
主演はグウィネス・パルトロウとジャック・ブラック。映画の公開は2001年。photo by Getty Images

映画が公開されると事態は変わった

アイヴィ曰く「映画は太っていることの最悪な部分だけを強調し切ったような作品だった。誰も私を面白いとは言ってくれなかった」。映画のプロモーションのためにテレビや雑誌のインタビューを受ける中で「太っていることは世界で一番悪いことではない」と発言すると激しい批判を受け、今でいう大炎上状態に。肥満を推奨していると非難され体型を激しくバッシングされた。自宅にダイエットピルが送られてきたこともあるという。

さらにエンタメ界での「太った女性」の扱われ方も彼女を傷つけた。「キャスティングディレクターたちは意地悪だった。醜くて孤独で、若い男の子に痴漢をするような女性を私は演じたくなかった。私はただ人を笑わせたいだけで、人々を悲しませたくはなかった」。

恐怖と失望の中で彼女は摂食障害に陥る。食べる量を減らすために胃にバンドを取り付けるバンディング手術も受けた。過剰なエクササイズや嘔吐、極度のカロリー制限で「顔に肉がなくて歯が浮いて見えるほど痩せ、顔は灰色だった。いつも不機嫌で怒りっぽくて友人たちを疎ましく思っていた。暗澹たる時期だった。人間が経験するべきような状態ではない」。その後、胃のバンドが外れてしまい、手術が必要になったが栄養失調状態であるためにそれができないという恐ろしい事態に陥ってしまったアイヴィ。さらに合併症もおこし結局胃の一部を切除するバイパス手術を受けた。今も彼女は「おかしいくらい少量しか食べられない」「飲むことと食べることが同時にできない」という。

なぜ最初にバンディング手術を受けたのか聞かれるとアイヴィは「わからない」と答えてから「そういうふうにするべきだと思われていたから。もし太っていたなら、太らないように努力しないといけないものでしょう」。近年になってからのことだが、作家のロクサーヌ・ゲイは「世間では人前ではサラダを食べ、ハンバーガーに手を出さないのが”いいデブ”だと思われている」と論じたことがある。アイヴィはそれに自分を準え、いいデブになろうとしていたと振り返る。

この作品が彼女に残した傷跡は身体的なものだけにとどまらない。彼女はこの作品に出た後、俳優になる夢を捨てる。「自分ポジティブ」だった女性を「自分の体を小さくし、みんなから見られないようにしたかった」と思うまでに変え、俳優になる道を諦めさせてしまったのはやはり世間からのボディシェイミング。そしてそれを引き起こしたという意味では『愛しのローズマリー』という作品の影響も大きいはず。

減りつつあるといえ、今もこの作品と同じように人の体型や容姿をネタにする作品は無くならない。太っている、痩せているに関わらず、人の容姿をテレビや映画でどう描くのかは多くの人が見るからこそ重要になってくる。『愛しのローズマリー』はアイヴィだけでなくそれを見ていた同じような体型の人の心にも影を落としたはずだから。笑わせるはずで作ったコメディやお笑いが人々のネガティブな反応を引き出し、それが多くの人の心に傷を残す。アイヴィの人生は1つの作品が持つ影響力、それを見る観客の力の大きさも物語っているのかもしれない。

出典:‘Shallow Hal’ led to dark times for woman who played Gwyneth Paltrow’s body double

Gwyneth Paltrow’s Shallow Hal Body Double Says She Almost Starved to Death After the Film’s Release

‘I wanted to be small and not seen’: how Shallow Hal almost broke Gwyneth Paltrow’s body double

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長坂陽子

長坂陽子

ライター&翻訳者。ハリウッド女優、シンガーからロイヤルファミリー、アメリカ政治界注目の女性政治家まで世界のセレブの動向を追う。女性をエンパワメントしてくれるセレブが特に好き。著書に「Be yourself あなたのままでいられる80の言葉」(メディアソフト)など。



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