#デジタルネイティブたちの食わずらい|後編|「他人軸で動く食」とは【人と違う、私たちのリアル】
お米は1グラムまで計量。ドレッシングなしが主義? 「健康」「正しさ」追求のグレーゾーン
突然ですが、筆者の家には計量器がありません。
実際、親元を離れ、今のような暮らしを初めてから、主食や調味料の計量はカップや匙で目分量。大雑把な性格ですが、日々の食事作りに、不便を感じたことはありません。
健康づくりや「正しいダイエット」を伝授するYoutuberやインフルエンサーからの情報を見れば「g(グラム)」を記載するのは当たり前。
料理のレシピにも分量はありますが、ストイックな発信者の世界では、1gから5g単位まで「この通りにせよ」と助長するように情報を流しています。
前編で食わずらいの経験者から「拒食脳」による完璧主義の傾向について学びましたが、その中にある当事者の中には、わずか10gや15gというご飯の量(寿司1貫の「シャリ」に相当)でさえ綿密に計っている方も見られました。
また他のシーンでは、お店でサラダをオーダーすると、大抵の場合、ドレッシングがサービスでついてきますが、例えば身体づくりをしているという健康な方でも、余分な油脂や塩分を控えている状態ならば「添付は不要」「かけないで出して欲しい」と言うことも出来るでしょう。
「健康のため」といえば美しく聞こえますが、その行動が極端な回避の心理からなのか、境界線は曖昧で、見かけ上の大きな違いはありません。
「自分軸」で生きるヒントだけでなく、健康や環境問題についても発信する未来リナさんと、筆者が通じ合った話題に「オルトレキシア」がありました。
これは、行き過ぎたヘルシー志向が裏目に出た結果、逆に健康危機に陥ってしまうものとして、前編でも少し紹介しています。
パークサイド日比谷クリニックの院長立川秀樹氏は、この症例について「痩せ願望が中心でないことが前提。痩せ願望から生じる「食わず嫌い」とは異なる。オルトレキシアは、あくまでも正常の食欲で、ただ痩せたいのではなく、健康でいたいことから生じる、食に対する強迫性」と解説しました。
未来リナさんは16歳でオルトレキシアを経験し、質から量へとエスカレート。当初は「正しいダイエットをしている」と思っていましたが、体調が悪化しても辞められない状態をお姉さんに指摘され、自分の精神と健康のアンバランスに気がづいたということです。
消化吸収が上手くできない「IBS(過敏性腸症候群)」や「IBD(炎症性腸疾患)」(*)などの腸の症状に悩んだ経験を経て、過去の自分には過去の、今は今の自分に合うものをと選択していった結果、徐々に快方へ。
(*)IBS(過敏性腸症候群)とIBD(炎症性腸疾患)は、慢性胃腸疾患だが全く違う病気。IBSはうつ病や不安の症状が並存している割合が多いという海外論文もある。
「ヴィーガン」の食事はリナさんにとって克服に役立つものだったそうですが、今のリナさんは「玄米やオートミールではなく、今は白米」「ナッツは体に合わなかったと判断し、今はナッツバターの状態で摂る」など、内容だけでなく、食べ方まで自分に合わせて変化させ、本当に心地が良いと思える「食づきあい」の状態へ克服できたといいます。
ネットに確からしい情報はありますが、これが正解と決めつけず、常に変化させながら「自分軸」で選択していくスタイルに、筆者はとても共感できました。
売られている商品が高たんぱく質や低糖質が当たり前になっている時代、ある見方では、菜食主義ですらも「偏食」と捉えられてしまうのではないでしょうか。
コロナ3年の間に増えた密を避ける行動、極端な衛生環境の重視や、安心安全で自然な食を求める消費者心理も、間接的に影響していると考えられます。
デジタルネイティブ時代の食や情報の飽和で「健康な人」とも隣合わせであるということに気づくきっかけを与えてくれる、食わずらい当事者の言葉たち。
そしてリアル、デジタル双方の世界で、どんな健康にまつわる課題も、人知れない部分で抱える「隣人」が想像以上に多くいることに、改めて目を向ける時だと提案します。
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誰もが不安なアンダーコロナ時代だから、みんなで共感できる、デジタルネイティブたちの「わずらい」(患い・煩い)。
次回は特別編として「自分軸」の追求をより深く掘り下げ、そのために身につけたい10代から学問できる「生活学・休養学のヒント」をお届けします。
*この記事を読んでいる10代の方がいらしたら、以下をご紹介します。
AUTHOR
腰塚安菜
慶應義塾大学法学部政治学科卒業。学生時代から一般社団法人 ソーシャルプロダクツ普及推進協会で「ソーシャルプロダクツ・アワード」審査員を6年間務めた。 2016年よりSDGs、ESD、教育、文化多様性などをテーマにメディアに寄稿。2018年に気候変動に関する国際会議COP24を現地取材。 2021年以降はアフターコロナの健康や働き方、生活をテーマとした執筆に転向。次の海外取材復活を夢に、地域文化や韓国語・フランス語を学習中。コロナ後から少しずつ始めたヨガ歴は約3年。
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