「共働き家庭。料理を作るのは誰?そもそも料理を作る必要がある?」そろそろちゃんと考えてみよう

 「共働き家庭。料理を作るのは誰?そもそも料理を作る必要がある?」そろそろちゃんと考えてみよう
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エコーチェンバー現象や排外主義の台頭により、視野狭窄になりがちな今、広い視野で世界を見るにはーー。フェミニズムやジェンダーについて取材してきた原宿なつきさんが、今気になる本と共に注目するキーワードをピックアップし紐解いていく。

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ある日、芸人コンビ(ふたりとも女性)のラジオを聞いていると、ひとりが、「夫と険悪な雰囲気になり、仲直りするために久々に御飯をつくってみた」といった旨の発言をしており、それに対し相方が「いやいや、なんであんた、『たまには料理します』側なんよ! 普段からせえよ」とツッコミを入れていた。

彼女たちは「女芸人らしくない」と評されることもある芸人だ。恋愛ネタや容姿ネタをすることも少なく、女芸人としての性別役割を意識的に排除しているように見える。しかし、そんな彼女たちのなかにも、共働きであったとしても日々の料理をするのは女、という刷り込みがあるようだった。

彼女たちは30代であり、料理は女の役割という上の世代の価値観から影響を受けやすい年代なのかもしれない。また、事実として共働きであっても女性が家事をしている家庭が周囲に多いために、料理は女性がするものというイメージがあるのかもしれない。

実際、日本は国際的に見て、結婚後、女性が料理を含む家事を担う割合が突出して高い国だ。

無償労働時間が男性の5.5倍。家事・育児の負担が女性に偏っている

2014年に行われた『夫と妻の料理に関する意識調査』(象印)によると、自宅で料理をする頻度は、妻の7割以上が「毎日する」と回答しているのに対し、夫の38パーセントが「ほとんどしない」「まったくしたことがない」と回答しており、その偏りは明らかだ。(※1)

また、14カ国の労働時間を比較した内閣府の調査では、有償労働時間の男女比はほかの国とほぼ差がない一方で、無償労働(家事・育児など)は、女性が男性の5.5倍と突出して高いことが見て取れる。(※2)

注意しなければならないのは、これらは、専業主婦家庭のみを扱ったデータではなく、全家庭のデータだということだ。7割の夫婦が共働きであることを考慮すると、外で働きながらも無償労働を一手に担っている女性がいかに多いかがわかるだろう。

お母さんは何万年も前から家族のために、愛情をもって料理をしてきた?

法政大学人間環境学部教授・湯澤規子は、著書『「おふくろの味」幻想 誰が郷愁の味をつくったか』のなかで、「日本の場合、高度経済成長期以降に強化されて定着した、家事担当者としての妻の位置づけが、現在に至るまでほとんど変化していない」と指摘している。

高度経済成長期には、専業主婦家庭が増えたことで、女性は家庭で無償労働、男性は外で有償労働、という役割が機能していたわけだが、経済成長が滞り、共働き家庭が増えたあとでも、家事労働は女性の役割とみなされてきた。

しばしば家事労働は、「女性がずっと担ってきたものである。それゆえ女性がするのが自然である」と思われがちだ。しかし、湯澤はそうではない、と指摘する。

「各地の農村漁村を回って聞き取り調査をすると、状況に応じて臨機応変に家族の誰かが北地の準備をすると言う話をよく聞いた。水道やガスがまだない高度経済成長期以前には、水汲みや炊事に多大な労力を要することもあり、田畑で一日中働く父親や母親の帰りを待ちながら子どもたちがかまどでご飯を炊き食事の準備をすることも珍しいことではなかった。(略)つまり、お母さんだけがお飯をつくるという姿やイメージが日本社会に広く定着するのは、高度経済成長期以降であり、比較的新しい出来事だと考えられるのである」(P.41)

ここで、2011年に放送された調味料のCMソング「日本のお母さん」の歌詞を見てみよう。

「日本のお母さん」

毎日毎日 ごはんをつくる

何十万年も お母さんが 続けてきたこと

誰にきめられるわけでもなく ごはんをつくる

何十億人もの お母さんが 続けてきたこと

ひとつひとつの ごはんを 受け継いで

わたしたちは 生きている

そんな今もどこかで

お母さんが ごはんをつくっている

ただ あなたの幸せを 願いながら

このCMでは、一所懸命にご飯をつくる忙しそうな現代の母親の姿や、白黒映像でご飯をたく昔の女性の姿、イラストで描かれた原始時代の女性などが次々に描写されていた。本CMがエモーショナルに伝えようとするメッセージは明らかだ。「はるか昔から、女性はご飯をつくってきた。しかも、自発的に。これは労働ではなく、愛だ」。CMは炎上し、放送停止となった。

このCMが「女性なら当然家族のために料理をするべきであり、男性はしなくてもいい」という性別役割を強化するものであることは明らかだが、湯澤は、「そもそも何十万年も前からご飯をつくってきたのはお母さん、という前提からウソだ」と指摘している。

誰が料理をつくるべき?

料理が女性の役割だとみなされたのはごく最近の出来事である。しかし現代社会において、「結婚したからには、女性が料理をメインで担うのが普通」とナチュラルに思い込んでいる人は少なくないだろう。冒頭の芸人のように。

しかし、「普通」は簡単に変わる。数十年前は専業主婦が普通だった。いまは、共働きが普通である。数百年前は、「家族愛」なんて概念はなかった。明治ごろに出てきた「家族愛」という概念は、男性を滅私奉公させ、女性を家族に奉仕させるための明治政府に都合のいいイデオロギーだ、という説もある。

10年前に炎上した「日本のお母さん」のようなCMを、2023年のいま、放送しようと考える広告プランナーはいないだろう。たった10年でも意識は変わる。

誰が料理をつくるのが当たり前か。そもそも料理をつくる必要はあるのか。料理をつくりたいときに、つくりたい人だけがつくる時代も、いつかくるかもしれない。そのときがくるまで、考え続けよう。誰が料理をつくるべき? 

※1 夫と妻の料理に関する意識調査(象印)

※2 男女別にみた生活時間(内閣府)

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AUTHOR

原宿なつき

原宿なつき

関西出身の文化系ライター。「wezzy」にてブックレビュー連載中。



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