「更年期は女性にとって避けられないこと?」博多大吉さんと産婦人科医高尾美穂先生が【更年期】を語る

 「更年期は女性にとって避けられないこと?」博多大吉さんと産婦人科医高尾美穂先生が【更年期】を語る

誰もが迎える更年期、女性ホルモン減少にともなう辛い諸症状…その先に待っている閉経。40年近くつき合った生理の、幕が降ろされるライフイベントは、女性にとってどんな意味を持つものなのでしょうか。“更年期と閉経”について博多大吉さんと、産婦人科医・高尾美穂さんが語り合った内容を、 書籍『ぼくたちが 知っておきたい生理のこと』から抜粋してお届けします。

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「怒りっぽいオバサン」では済まされない

大吉 更年期というと、「イライラする」「怒りっぽい」「情緒が不安定になる」という漠然としたイメージでしたね。

高尾 それは的外れではなくて、そうした症状が出る方も少なくありません。「怒りっぽいオバサン」というイメージで語られることが多いですよね。

大吉 一方でぼく自身の年齢からか、社会に知られるようになったからか、男性更年期について耳にする機会が増えたんです。自分の周りでも年配の人が急に怒り出す場面に出くわすようになりました。ぼくの周りは芸人はじめ変わった人が多いからかもしれないけど、それにしても前はこんな人じゃなかったのに……と。それが男性更年期なのかどうかはわからないけど、いまや「イライラする」のイメージは男性にも当てはまるんじゃないでしょうか。でも、男性は女性ほど更年期について正面から向き合っていないように見えます。社会の理解度の違いは影響しているでしょうね。男性更年期はまだ当事者にもそれほど知られていない。他方で、女性の更年期は長らく女性個人の問題とされてきたところがあると思います。

高尾 家で「最近お母さん怒りっぽいね」「妻との仲が険悪になる」と言われる程度。それがいまは、40代、50代で仕事をしている女性がめずらしくないどころか管理職になる人もいますが、そのタイミングと更年期が重なるんです。なかにはお仕事がつづけられないくらい心身の症状が重くなる人もいて、離職するケースまであります。「更年期離職」といわれます。これは、本人にとっても社会にとっても大きな損失ですよね。

大吉 男性が更年期の不調を理由に離職するという話はあまりないんじゃないかなぁ。どうしてでしょう?

高尾 男性も決して少なくはないんですよ。調査によると、更年期の症状がつらくて離職した人は男女ともに1割前後でした。具体的には、女性が約46万人、男性が約11万※1。いわゆるホットフラッシュやイライラ、うつといった症状は男女に共通していて、本当にしんどい人もいます。あとで詳しくお話しますが、更年期の不調は女性なら女性ホルモン、男性なら男性ホルモンの分泌が減ることで起こるんですね。男性はその減り具合が、女性と比べるとゆるやか。それが、つらい症状に悩む人の絶対数の差に表れているのでしょう。いま女性の管理職を増やすことは、国の目標のひとつですよね。何事もなく更年期を終える女性もいますし、多少大変でもすごくガッツのある女性もいて、いまはそういう人たちが組織内で残っていることが多い。でも全体的に見ると、この年代をサポートできていないという社会の課題があるんですね。最近メディアで更年期がよく取り上げられるようになったのは、女性の更年期を個人の問題にするのではなく、社会で考えることに変わってきたからだと思います。

大吉 「あさイチ」で更年期を取り上げるときは、いつも反響が大きいですね。当事者の女性だけでなく、社会からの関心が高いと感じます。来たるべき更年期に、備えておくことはできる? 更年期って女性にとって「避けられないこと」なんですか?

高尾 そこにまず誤解があって、更年期そのものは誰にでも訪れます。ただ、そこで何が起きるかは人によって違う。たとえば思春期は誰もがとおる時期で、性ホルモンの分泌がはじまります。そこまでは同じでも、人によって表れ方が違いますよね。よく女性は「まるみを帯びた身体つきになる」といわれますがその程度はそれぞれだし、男性も濃いヒゲが生えてくる人もいれば、そうでない人もいます。

大吉 つまり、更年期はみんなに訪れるけど、どうなるかは人によって違う?

高尾 そのとおりです。

大吉 せめて前もってどうなるかがわかって、対策しておけるといいんだけどなぁ。

高尾 どの程度のことが起きるかまではわかりませんが、できる対策はありますよ。それにはまず、更年期がどのようにして起きるか知ることですね。女性だけでなく、まわりも知っておくことが大切だと思います。

大吉 ではあらためて、「更年期」とは何なのか、教えてください。

高尾 40代も半ばになると、生物としての生殖の役割は終わりが見えてくるので、卵巣の機能が低下します。女性ホルモンは卵巣で作られているので、それにともなって分泌量が乱れ、次第に減っていきます。閉経の5年前~5年後までを更年期といい、平均の閉経年齢は約51歳なので、だいたい45~55歳にあたります。男性も50歳前後から男性ホルモンの一種、テストステロンの分泌が減りはじめるので、同じくらいと考えていいでしょう。女性の場合、第4章で見たPMSからもわかるように、ホルモンの分泌が減るとさまざまな不調が出ることがあります。産後も同様ですね。お腹で赤ちゃんを育てるために女性ホルモンがたくさん出ていたのが、出産後は急激に減る産後うつって聞いたことありませんか? あれはホルモンの分泌量が急激に減ることがおもな原因と考えられていて、お母さんがいくらがんばろうと思っていてもどうしようもない場合があるのです。女性の身体は、エストロゲンによって機能し、守られてきたことが実に多いんですよ。骨を作る、コレステロールを抑制する、血管を強くする、肌や髪の弾力、ツヤを保つ……それから、自律神経の働きを調整する。エストロゲンの分泌が減ると、こうしたことから守られなくなってしまう。それによる不調を「更年期症状」といいます。代表的な身体症状としては、ホットフラッシュや異常な発汗、血圧の上下、動悸や息切れ、頭痛やめまい、倦怠感など。精神症状にはイライラやうつ、不眠などがあげられます。

女性ホルモングラフ
『ぼくたちが 知っておきたい生理のこと』(辰巳出版)より

大吉 ホットフラッシュは、「ほてり」や「のぼせ」のことですよね。顔など、おもに上半身に出やすいと聞きます。

高尾 さすが、よくご存知ですね。

大吉 ホルモンの減り具合が速い人ほど、更年期症状が出やすくなるということですか?

高尾 それは一概にはいえませんね。ホルモンの減り方が急激な人もいれば、わりとゆるやかな人もいますが、ゆるやかだから不調を感じないというものでもない。本人の体調だけでなく、置かれている環境、それによって受けているストレスなどさまざまな要因が不調につながります。「更年期=つらい」というイメージが強いですが、更年期症状がほとんどないままこの時期を終える人もいて、症状を自覚するのは5~6割とわかっています。ただ、なかには症状がとても強く出る人もいるから、気をつけないといけない。それによって日常生活が送れない、仕事がつづけられないという人が出てくる。こうなると「更年期障害」といわれます。

大吉 生理痛もそうでしたけど、仕事ができなくなるというのは相当のつらさですよね。いきなりそうなってしまうのはショックも大きいだろうなぁ。

高尾 症状の出方を前もって知ることはできませんが、更年期ってある日突然はじまるわけではないので心構えはしておけます。40代前半で生理の周期がちょっと短くなる時期があって、これが最初のサインです。28日周期だった人が25日ぐらいの周期になったり、25、6日周期だった人が21日周期になる。けれどこれがずっとつづくわけでなくて、今度は周期があくんですよ。ここのところ21日周期で安定してきたかと思いきや、突然40日間あく。これまで定期的に来ていた人ほど不安になるかもしれませんが、ホルモンの分泌量が乱れはじめ、もうすぐ更年期に入るんだというサインととらえてほしいです。

更年期は、男女とも働き方を見直すチャンス

大吉 生理でつらい思いをしている女性からは「早く閉経したい」という声も聞きますが、一方で閉経に対して〝さみしさ〟を感じている人もいますよね。

高尾 生理が1年間なかったら、それをもって「閉経」とみなすので、そうなってみないと「あれが最後の生理だった」とはわからないんですよね。いまだに「生理が終わったらオンナじゃなくなる」と言われる人もいるようで、これはとても理不尽ですし、セクハラと言ってもいいと思います。昔は、閉経から寿命まではそれほど時間がなかったのですが、「人生100 年時代」といわれる現代においては、まだ半分でしかない。これまで生理を経験しつづけてきた自分の身体におつかれさまを言いつつ、生理のない生活をどう過ごしていくかということを考えたほうが、よりよい人生のように思います。

大吉 女性は、人生の節目を実感しやすいのかもしれませんね。

高尾 これからは男性も、年齢による身体の変化に自覚的になる人が増えていくんじゃないですか。男性の更年期は、「朝勃ちがなくなった」「ED気味だ」という性機能の低下をもって診断がつくことが多いんですが、自律神経の乱れからくる疲れやすい、朝起きても元気じゃない、だるい、イライラする、うつっぽいといった症状は、男女共通です。女性は40代に体調の変化を気にする人が多いのに比べて、男性はまだまだで、「一度病院で診てもらおう」と思う人は女性以上に少ないと思います。働きざかりの年齢ゆえ、不調を無理に抑え込んで働きつづける人もいるでしょう。それである日突然、無理がきかなくなる日がくるかもしれない。男性の更年期にもホルモン補充療法が有効とされていて、テストステロンを補充しますが、日本ではこのこともまだ周知されていないと感じます。女性も男性もこの時期に一度、働き方や生き方を見直すといいかもしれませんね。体力的にもこれまでと同じ働き方はできないかもしれない。大吉さんは、50代になる前後で見直したりしましたか?

大吉 いやいや、そんなこと考え出したらウチの事務所ではやっていけませんから……っていうのは冗談にしても、48歳のときに「あさイチ」がはじまったのは大きいですね。生活の時間帯ががらりと変わって、夜遅くまでかかる仕事を入れなくなりました。でも日々の仕事を考えると、無理をしないほうがパフォーマンスを発揮できるとわかってきた。結果的には、よかったと思っていますね。

高尾 転機が功を奏したんですね。仕事はまだまだしていく、だからこそ一度立ち止まって見直す……女性にも男性にもそんな習慣が定着してほしいですね。

※ 1 NHK 実施「更年期と仕事に関する調査2021」(周 燕飛)

僕たちが知っておきたい生理のこと
『ぼくたちが 知っておきたい生理のこと』(辰巳出版)より
僕たちが知っておきたい生理のこと
『ぼくたちが 知っておきたい生理のこと』(辰巳出版)より

博多大吉 
お笑いコンビ「博多華丸・大吉」。吉本興業所属。1971 年生まれ、福岡県出身。NHK「あさイチ」司会。コンビではTHE MANZAI2014 優勝、単独では2015 年IPPON グランプリ優勝。NHK「あさイチ」や日本テレビ系列「人生が変わる1分間の深イイ話」の生理特集では、的を射た発言に世の女性たちから賞賛の声が寄せられた。

高尾美穂
医学博士・産婦人科専門医。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。イーク表参道副院長。ヨガ指導者。著書に『いちばん親切な更年期の教科書【閉経完全マニュアル】』( 世界文化社)、『大丈夫だよ 女性ホルモンと人生のお話111』( 講談社) など。NHK「あさイチ」などメディア出演多数。トレードマークのヘアスタイルは絵本の「タンタン」がモチーフ。

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ヨガジャーナルオンライン編集部

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ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



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