【専門医が回答】将来への保険「卵子凍結」Q&A|凍結期間が長いと劣化する?費用は?何歳まで可能?
キャリアは諦めたくないし、人生だって楽しみたい。女性の社会進出や晩婚化が進むいま、「産みどき」に迷う女性からも関心が高い「卵子凍結」について、産婦人科専門医・山中智哉先生にお話を伺いました。
子どもはいつか欲しいとは思っているけれど、今じゃない。じゃあ、私の「産みどき」っていつなんだろう。女性も男性同様にキャリアを求めて社会進出が進む現代で、女性の出産に対する悩みや不安は尽きません。そんなモヤモヤを解消する方法の1つとして、「卵子凍結」という選択肢を選ぶ女性が増えているといいます。よく耳にするけど、なかなか身近に感じられないという方も多い「卵子凍結」について、東京・麻布十番にある「麻布モンテアール レディースクリニック」院長で産婦人科専門医の山中智弥先生にお話を伺いました。
現代女性が迷う、仕事と出産の両立
不妊治療を専門とする山中先生のクリニックには、日々年齢関係なく月経や不妊などさまざまな悩みを持つ女性が訪れています。来院される患者さんの年齢層は、30代後半がもっとも多く全体の約40%、30代前半、40代前半が約20%、残りが20代と40代半ば以上。世代ごとに悩みもさまざまなのだそう。
「なかなか妊娠をしないという悩みは当然ですが、月経が不規則といった月経に関わる悩みや、タイミング法や人工授精で結果がでない、体外受精を何度もやったが不成功といったすでに治療を開始しているがうまくいかないという相談から、妊娠を急ぎたいという希望の方、ご主人やパートナーの勃起不全や射精障害の相談までさまざまです。20代は月経に関わる悩みが多く、30代は2人目がなかなかできないという悩み、40代は妊娠を急ぎたいといった相談が多いように感じます」(山中先生)
不妊の理由のひとつには、晩婚化の影響もあると、山中先生は言います。仕事や家庭のことなどで忙しく、自身の体と向き合うことがなかなかできない女性も多いのではないでしょうか。「20代で1人目を出産したから30代は仕事に邁進したいけど、2人目も欲しい」「仕事が面白くなってきた30代半ば。仕事をがんばりたいけど、出産と仕事どちらも諦めたくない」「いまパートナーはいないけど、将来子どもを持ちたい」。卵子凍結によって、その不安が少しでも解消されるなら。自分が描くライフプランの中での選択肢のひとつとして考えてみても良いのかもしれません。
そもそも「卵子凍結」ってどんなもの?
もともと「卵子凍結」は、卵巣がんや乳がんなど、何らかの癌にかかった女性が、その治療のために手術や抗がん剤治療、化学療法を行なうことによって、正常な卵巣の機能が失われる前に、将来のために健康な卵子をエスケープさせる、ということが目的ではじまりました。いまでは、しばらく結婚や出産の予定はないけど、健康な卵子を凍結しておき、将来の結婚や妊娠・出産に備えようということも目的に行う人が増えています。
「通常、1回の月経周期で排卵される卵子はひとつですが、もともとどの周期にも、育つ可能性のある卵胞が複数個あります。排卵誘発剤を用いることで、それらの卵胞も発育させることができ、育った卵胞から卵子を吸引(採卵)します。採取した卵子は、ガラス化凍結法と呼ばれる超急速冷凍法で凍結。妊娠したいタイミングで、融解した卵子に採取した精子をふりかける、またはひとつの精子を卵子の中に注入する顕微受精で、受精させます。そしてその受精卵を子宮に入れる胚移植を行います」(山中先生)
いろいろ気になる…卵子凍結にまつわるQ & A
費用は?条件はあるの? 知れば知るほど、気になるギモンもたくさん。もっと詳しく卵子凍結事情について伺いました。
Q:卵子凍結は未婚でも可能ですか? 凍結した卵子を受精する際、結婚している必要がありますか?
A:「未婚でも卵子凍結をすることは可能です。受精する際は、結婚または事実婚の関係であるご主人の精子を使用することができます」(山中先生)
Q:凍結した卵子は、使用期限はありますか?凍結期間が長いと劣化することはありませんか?
A:「卵子は、質を変えずに凍結できる“ガラス化凍結法”と呼ばれる超急速冷凍法で凍結します。いったん凍結された卵子は10年以上そのままの質で保存可能です」(山中先生)
Q:費用はどのくらいかかりますか?
A:「排卵誘発の費用に約5~10万円(使用する薬剤の種類や量により変動あり)、採卵に約10~15万円、受精~凍結は卵子の個数によって変わりますが約10~20万円が相場です。卵巣機能のよい若い方は、1回の採卵で10個以上の卵子を容易に凍結できますが、卵巣機能が低い方は1回の採卵数が少なくなりますので、複数回の排卵誘発~採卵が必要となります。
見落としがちなのが、年間の保管料。例えば、卵子1個につき年間5万円なら、10個採卵できたら年間50万円の保管料がかかります。1回で採卵した卵子は個数に関わらず同一料金というケースもあり、クリニックによってかなり差があります。保管料にも配慮し、決定することが重要です」(山中先生)
Q:どんな手順で行うのですか?
A:「まず、ホルモン検査などで卵巣機能を調べ、どのような排卵誘発方法が適しているかを(採卵しやすいかどうか)判断します。
生理が始まって14日後くらいに採卵をしますが、それまでに採卵誘発剤などの薬剤を自身で注射して備えます。そして、排卵前に採卵。採卵自体は、約20〜30分程度で完了し、日帰りが可能です」(山中先生)
Q:卵子凍結は、何歳まで可能ですか?
A:「採卵ができる限り、卵子凍結自体は何歳でも可能です。産科婦人科学会の規定では、高齢妊娠のリスクを考慮し、40歳以上の卵子凍結は推奨されていません。また凍結し保管している卵子は45歳に到達した時点で、それ以上の保管の継続をどうするか検討することも言われています。
ただ実際の医療現場では、40歳以上未婚の方で卵子凍結を希望されるケースも多いです。どうしても年齢で判断されがちですが、例えば不摂生をして暮らしてきた40歳と、食生活もきちんとしていて持病もない40歳では、全然違うので個人差があります。年齢を重ねることで卵子の質は低下していきますが、その個人差も考慮する必要があります。
閉経してしまうと可能性はゼロになってしまうので、可能性としては低いかもしれないけども、それも理解した上で、将来への希望を凍結卵子に託す、その思いを叶えてあげることも医師の使命ではないかと思います」(山中先生)
Q:薬剤を使用して採卵することは、体への影響はありますか?
A:「影響はあまりないと言われています。採卵までに毎日ホルモンの注射を打つなどのストレスはあるかもしれませんが、クリニックの患者さんでは意外と平気な方が多いようです。注射が苦手な方には、内服薬を併用して注射の回数を減らすといった工夫も行っています。」(山中先生)
将来への保険、「卵子凍結」という選択
日本では、まだまだメジャーとは言えない「卵子凍結」。欧米では、日本より卵子凍結に前向きな女性が多いそうです。
「卵子凍結の背景のひとつに、女性の社会進出とともに、婚期を遅らせる女性が以前より増えたことがあります。アメリカなどと比べると女性の社会進出が遅れた日本では、卵子凍結に対する意識はまだこれからのように思います。倫理観や宗教観なども関連しているかもしれません」(山中先生)
卵子凍結をしているからといって、将来必ず妊娠することができるという保証はありませんが、けがや病気に備える保険のようなものだと捉え、選択肢の1つとして検討してみるのも良いかもしれません。
教えてくれたのは……山中智哉医師
医学博士、日本産科婦人科学会専門医、日本抗加齢医学会専門医。現在、「麻布モンテアール レディースクリニック」にて、体外受精を中心とした不妊治療を専門に診療を行なっている。
AUTHOR
高野瞳
編集・ライター。出版社や編集プロダクションを経て、独立。学生時代にオーガニックコスメに出合い、アロマテラピーや漢方、サスティナブルなライフスタイルなどにも関心を持つようになる。現在は、ライフスタイルや美容など幅広い分野の雑誌やwebメディアで執筆中。アロマテラピー検定1級、ルボア認定フィトアドバイザー取得。趣味は、旅行と散歩。
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