「すべての女性器はユニークで、美しい」SNSで発信されるエンパワメントなメッセージに思うこと

 「すべての女性器はユニークで、美しい」SNSで発信されるエンパワメントなメッセージに思うこと
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性の健康に関するアクティビストでありメノポーズカウンセラーの小林ひろみさんによるコラム連載。今回のテーマは、SNSから発信されるエンパワメントなメッセージについて。

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ある海外の女性向けラブグッズのインスタグラムで、自分を愛せる気持ちが湧いてくるようなエンパワメントに満ちたメッセージに出会いました。そのメッセージはそのメーカーがときどきリマインダーとして発信している画像とコメントで、異なる形の女性器(外陰部)※のイラストが6~9点並ぶ1枚の画像とともに「すべての女性器はユニーク、そしてすべての女性器は美しい」とコメントに書かれているのです。他にも、形やサイズの異なる乳房と乳首(乳房摘出手術の跡の胸も含まれている)が描かれた複数のイラストの画像と一緒に「すべての乳房は異なり、美しい」…私たちのからだは個々に違い、それぞれに美しいというポジティブなメッセージ。それらを目にしたとき「そうだよね」という安心感がふっとこみ上げてきました。医療解説などに使われる性器のイラストと違って、アート的に描かれているそのイラストは現実に生身の女性がもつ個々に違う外性器、乳房を模写していて、より心に響きました。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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性器や乳房の形、色、サイズは皆それぞれ違い、多少左右対称でもないことは、それなりに年齢を重ねると自然と理解しているものですが、いざ出産や病気、加齢で性器の変化に直面すると誰だって落ち込みやすい。だからこのインスタは、フレンドリーなリマインダーと前置きしながらイラストとメッセージをときどき流すことにしていて、とてもエンパワメントされたのです。「こういう(個々に違うことが伝わる)イラストをセクシュアリティ教育のテキストに使って欲しい」という発信もありました。

きちんと伝えないから、いい加減な情報が作られてしまう

これからのヴァギナの話をしよう』の著者リン・エンライト氏は「教科書ですら、女性器についての大部分の情報を載せず、体内の性器である子宮や卵巣の絵が掲載されることが多い。ごく普通の女性に女性の外陰部の絵を描いてみてと聞いてみると、十中八九苦戦するだろう」と、著書の中で言っています。著者の出身はアイルランド(イギリス在住)で、先ほど登場したメーカーはアメリカ。日本でも子宮や腟のイラストは月経のしくみや生殖の説明で登場しますが、外陰部のイラストはほとんど見ることがないので、恐らく変わらない状況ですね。でも知らなくていいというわけではありません。事実として教育から抜けていることが分かったのだから、教育に含めること、私たちが知ることは大切なのだという訴えなのでしょう。

教育で抜けているところは知識がない分、いい加減な情報が作られやすいものです。例えば外陰部や乳首の色の濃さを性経験の回数の多さと結び付けた根拠のない話が出回ったりします。外陰部は衣類の擦れや外部刺激を受けやすい場所で、それによりメラニン色素が生成しやすく、他の場所よりも色が濃いのが本来想定内の色。また女性ホルモンの分泌量と関係していたりもします。

いい加減な情報が事実でないとわかっていても、もしパートナーがその誤った情報を信じていて経験豊富と誤解される可能性もあり、心配は尽きません(それ以前に女性の性経験が豊富なのがネガティブに捉えられるのも問題ですが…)。このような状況では、やはり性器に関する正しい教育が普及しないと事実の定着は難しいのかもしれません。だからといって、いつ普及するかわからない教育を待つもの非現実的。ということで事実をベースにした自分のからだを肯定的に捉えられるエンパワメントなメッセージを発信できるのは、SNSが普及した今だからこそできる素晴らしいことで、いい加減な情報に対抗できる心強いツールです。投稿にあるハッシュタグをクリックすると個人が描いたイラスト、メッセージなど様々なスタイルの投稿に触れることができます。

こうした動きは企業、教育系支援団体、個人など多方面から発信されています。事実に基づいたエンパワメントなメッセージは当事者に正しい情報を伝え、置かれている状況におかしいなと気づかせてくれ、更には「そうか、私のままでいいのだ」と自信をもたせてくれたり、元気や力がふっと湧いて来たりします。性器に関する情報は、コンプレックスを与える情報が含まれていることが少なくないぶん、そういった根拠のない情報や偏見を少しずつ変えていける方法のひとつではないでしょうか。コンプレックスを感じるのは、おかしいことでも、悪いことでもない。でもポジティブなメッセージを目にしたあとは、それまでの「何とかしなきゃ」というプレッシャーから少しずつ解放され、そのままでもよいという選択がプラスされかもしれないということ。自分のからだを恥ずかしく思ったり、気にしたりすることから解放され、個々に違うのが当然でそのものが美しく、自分に自信を持っていい、と皆が互いに伝え合えたら、ハッピーですよね。

※英語でVulva、ここでは女性器もしくは外陰部と訳しました

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小林ひろみ

小林ひろみ

メノポーズカウンセラー。NPO法人更年期と加齢のヘルスケア会員。日本性科学会会員。性と健康を考える女性専門家の会 理事。デリケートゾーンブランドYourSide、潤滑ゼリーの輸入販売会社経営の傍ら、更年期に多い性交痛について情報発信を行う。幅広い性交時の痛みに関する情報サイト「Fuan Free (ふあんふりー)」を運営。



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