前編|発達障がいを描く漫画『ぴーちゃんは人間じゃない?』作者「苦しい時に命を繋ぎとめたもの」とは

 前編|発達障がいを描く漫画『ぴーちゃんは人間じゃない?』作者「苦しい時に命を繋ぎとめたもの」とは
石上友梨
石上友梨
2021-05-19
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ーー自分を責めずに向き合っていくことが大切なのですね。発達障がいが原因で、落ち込んだり辛くなるときもあるのではないでしょうか?

「そうですね…発達障がいを抱えていて辛いと感じるのは、精神疾患は、目に見えない障害や病気なので、診断されたとしても自己理解を深めることは時間がかかるし、周りの人に理解されづらいということ。見た目が普通なので、単に仕事できない人やだらしない人と見られてしまうところがあって。私はADHDなんですって言えば言う程、言い訳に聞こえちゃうもどかしさを感じます。それゆえに世の中に対して感じてきた違和感は、皆と同じことができて当たり前で、できなければダメな人という価値観だけで見られてしまうこと。自分自身そういう風なふるいにかけられてきた身なので、その人そのものを見ずに、できる・できないとマルバツだけで判断していくような価値観には違和感を感じてしまいます。」 

絵を描くことは鏡を見る感覚に近い

ーー2021年1月にはコミックエッセイ『ぴーちゃんは人間じゃない?ADHDでうつのわたし、働きづらいけどなんとかやってます』 (イースト・プレス)のなかでも、虐待の経験や発達障がいによる苦しみについて描かれていますが、苦しかった時に命をつなぎとめたもの、生きる力につながったものは何だと思いますか?

「苦しかった時、絵を描くことに救われてきました。絵を描くことによって、 心が癒されたり、自分と向き合える時間を作れたり……とにかく絵を描くことが大好きだったんです。鬱の状態になると、好きなことができなくなってしまうし、何もやりたくなくなってしまうのですが『絵と向き合えない辛さの方』が勝ったと言うか、『絵を描きたい』という気持ちが、もうちょっと頑張ってみようと思えるフックになっていたと思っています。」

パレットーク
連載漫画「ぴーちゃんは人間じゃない〜あたふた発達障害日記〜」:第五章 人間になりたくて編/パレットークのnoteより

ーー絵を描くこと自体が、自己理解につながるということですね。

「鏡を見る感覚に近いなと感じています。肌荒れてきたとか、ちょっと太ってきたと思っている時は、あまり鏡を見たくないじゃないですか。同じように、精神状態が荒んでいると、自分と向き合いたくなくなるし、結果的に描くことからも遠ざかってしまうなと思っていて……でもそんな時こそ、ちゃんと鏡を見て、自分と対話することが大切だなと思っています。書くことは自己理解に繋がるし、絵を描いていると考えがまとまる感覚があります。普段は色々なことを考えていて、なかなか思考がまとまらないのですが。とりあえず漫画を描いてみて、描いたものを読み返すなかで自分を理解できることもあります。」

ーージャーナリングのように文字を書き出して考えをまとめる人は多いと思いますが、絵を描く中でも考えがまとまる感覚があるのでしょうか。

「そうですね。考えがまとまるということもありますが、描きたいもののインスピレーションが湧いてくるかどうかで自分の精神状態が分かるし、描きたいという意欲を持てるかどうかで今の精神状態も確認できると思っています。」

私にとって主治医の先生は、ゲームで言うセーブポイントのような存在

ーー病院にも通われているそうですが、主治医の先生はどのような存在なのでしょうか? 自分に合った病院を見つけることは、大変だったのではないでしょうか?

「ADHD の診断をもらった病院は、確か3軒目だったと思います。合わない病院もあり、病院に行くこと自体がストレスでしたし、外出せずになるべく家にいたいという気持ちもありました。いよいよ生きる活力が消えそうになった時に、友達から紹介してもらった病院でした。いままで通ってきた先生とは全然違う先生で、初診時から気さくに話しかけてくれました。「部屋汚いでしょ」と言われて、「何でわかるんですか」と聞いたら、「多分 ADHD だと思うよ」って言われたことが印象的でしたね。先生自身も自分のことをADHD だと思っているから気持ちは分かると言ってくださったことが、すごく嬉しかったです。絵を描くことを後押ししてくれたのも主治医の先生だったので、私にとって先生は、ゲームで言うセーブポイントのような感覚だと思います。ネットの口コミはどんな人が書いているかわからないし、心療内科こそ評価は人それぞれなので、身近な人がおすすめしている病院に行ったことがよかったのだと思ってます。」

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石上友梨

石上友梨

大学・大学院と心理学を学び、心理職公務員として経験を積む中で、身体にもアプローチする方法を取り入れたいと思い、ヨガや瞑想を学ぶため留学。帰国後は、医療機関、教育機関等で発達障害や愛着障害の方を中心に認知行動療法やスキーマ療法等のカウンセリングを行いながら、マインドフルネスやヨガクラスの主催、ライターとして活動している。著書に『仕事・人間関係がラクになる「生きづらさの根っこ」の癒し方: セルフ・コンパッション42のワーク』(大和出版)がある。



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