なぜお酒を飲みたくなるの?今こそ考えたい新しい「アルコールとの付き合い方」#やめられない理由
飲酒の機会が多く、TVでも頻繁にアルコールのCMを見かける昨今ですが、モクテルや低アルコール度数飲料のバリエーション増加もあり、アルコールに「適切な距離」を取る人も増えているようです。
女性にも身近になったアルコール
日本で一般市民の日常的な飲酒行動が始まったのは江戸時代頃からで、それまでは神事や儀式のためのものという色合いが強いものでした。昭和初期頃まで「お酒」と言えば清酒(日本酒)の事を指し、少しずつビールやワインなどの消費が伸び始めたのは戦後からです。現在では、多種多様なお酒が低価格でコンビニや自動販売機など至るところで手軽に購入できます。
日本のアルコール市場は1996年以降縮小してきており、主な飲み手である男性全体の飲酒習慣率は低下傾向です。しかし、女性はわずかながら上昇しており、厚生労働省の調査(2016年)では40代〜50代の女性の飲酒習慣率が20代の男性よりも高いということがわかりました。飲酒習慣の男女差が小さくなってきており、女性をターゲットにしたアルコールのCMも増えています。
アルコール市場では現在、高アルコール度数飲料と低アルコール度数飲料との二極化が起こっているそうです。いわゆる「ストロング系」と言われるアルコール度数が高い飲料は「手っ取り早く安く酔える」などの口コミで広がりましたが、深刻な健康被害や依存症になる危険性があると言われています。低アルコール度数飲料は健康志向の強い人やアルコールがあまり得意でない人でも飲めるということで人気を博しています。
カロリーが気になるという人には、糖質のない蒸留酒(ジン・ウィスキー・焼酎など)や、糖質0を謳ったアルコール飲料が選ばれています。また、従来のようなジュースやシロップで作るカクテルではなく、新鮮な果物、野菜、野草、スパイスなどを使う、ロンドン発祥のミクソロジー(mixology)カクテルも自然派志向の人を中心に人気が出始めているようです。
「ソブラエティ」という新しいムーブメント
これまで「お酒を飲まない」と言うと、主には体質的に飲めない人か、これまで飲んでいた人が「断酒」していることを指していました。大江健三郎の小説『万延元年のフットボール』(1988年)のセリフの中に「人生はしらふでやってゆかなければだめだ」という言葉が出てきますが、アルコール問題を抱える人の周辺において「しらふ」という言葉は、非常に重々しい覚悟を喚起させるものだったと思います。
しかし最近では依存症が回復可能な病気であるという認知が広がり、アメリカやヨーロッパでは病気から回復してTVや映画に復帰する俳優や歌手、スポーツ選手たちが「ソブラエティ(Sobriety:酔っていない・しらふ)」という言葉をメディアの前で使うこともあり、イメージもだいぶ変わってきてきました。
酒浸りの自暴自棄で自堕落な生活や酩酊状態における心理などを描くことの多かった小説家の町田康が、自らが体験した禁酒の効果や実態を『しらふで生きる 大酒飲みの決断(2019年)』の中で諧謔味を交えがら書いたことも、これまでの「小説家=タバコの煙の中で酒浸り」というイメージを大きく変えたと思います。
このような流れの中で、アメリカやヨーロッパのZ世代を中心に、元々それほど飲酒していなかった人たちが「敢えて」断酒を選択するという「ソーバーキュリアス(Sober Curious:しらふであることに好奇心を持つ)」という現象も見られ始めています。アルコールを一切提供しないノンアルコールバーや、モクテル(ノンアルコールカクテル)のメニューが豊富なレストランやバーが増えていることもそれを後押ししており、日本でも、東京をはじめ各所で盛り上がりを見せ始めています。
お酒を「飲まない人」「飲めない人」「飲みたい人」それぞれを尊重するようなお店選びをすることで、みんなが楽しめるといいですよね!
私たちがついお酒に手を伸ばす時、それはどんな理由からでしょうか?身近だからこそ意識しづらい「飲酒したくなる心理や社会状況」を振り返りながら、自分とアルコールの位置をチェックしてみましょう。
1. ストレス緩和?
「もう飲まないとやってられない!」と思うことはありませんか?確かにアルコールには不安を一時的に減らしてくれる作用があるため、飲むとホッとしたり、嫌なことを忘れられるという経験をしたことがある人も少なくないでしょう。
ただ、体内のアルコールが抜けてくればまた不安に襲われますし、現実が変わるわけではありません。また、習慣的に飲むことでセロトニンレベルが減少して不安を感じやすくなったり、うつ病や自殺のリスクを高めるとも言われています。
チェックリスト
✔︎飲んでいる時に楽しめていますか?
✔︎アルコールを飲んだ翌日に罪悪感や自己嫌悪に陥っていませんか?
✔︎飲酒が暇つぶしになっていませんか?
✔︎飲酒以外に楽しいことはありますか?
飲酒は「一時的な楽しみ」と割り切れるレベルならいいかもしれませんが、習慣的、長期的なリラックス方法としては代償が大きくオススメできません。自分の飲酒行動を振り返ってみて、ストレス緩和をお酒に頼りすぎているかも?と感じたら、ストレス源を解決するための方法や別なリラックス方法、お酒以外の楽しい活動なども探してみましょう。
また、もし「アルコールを飲まないと眠れないということが続いている」「自分で量や飲酒時間をコントロールできない」など、気になることがあれば早めに相談機関や専門病院などを受診しましょう。
2. 変身願望?
「泣き上戸」「笑い上戸」「怒り上戸」という言葉があるように、アルコールの薬理作用が人の態度やコミュニケーションを変えることがあります。
普段はおとなしい人が酔って社交的になったり、大胆になって自分を解放することができるという側面もあり、飲み会で人から「面白い」「楽しい」と評価されたり、いつもとは違うキャラクターや言動がウケたりすると、その快感が忘れられず習慣化してしまいがちです。
チェックリスト
✔︎飲んでいる時に楽しめていますか?
✔︎「他の人からの期待に応えなければ」「みんなを盛り上げなければ」と義務のように感じていませんか?
酔った時の自分の意外な一面も、役割が固定化してくると自分も周囲も苦しくなってきます。自分が楽しめているかどうかは一つの目安です。また、お酒を飲んでいる時としらふの時のギャップが大きいようであれば、普段の生活の中で自分らしさを出していく方法を考えてみましょう。
3. 飲まざるを得ない環境?
中には、好きで飲んでいるわけではなく「飲み会が好きな上司に誘われる」「お客さんと飲まないと商談に響く」など、仕方なく飲んでいるという人もいるようです。
実は私たちには馴染みのある仕事関係での宴会や接待の多さ、飲み放題やハッピーアワーのようなシステムは、他国でも常識というわけではありません。
世界保健機関(WHO)は2009年に飲み放題の禁止や制限を提言し、2010年には「アルコールの有害な使用を減らすための世界戦略」を採択しました。例えば英国では飲み放題が禁止されており、違反した店は罰金の対象になります。また、北欧や西欧のほとんどの国でアルコールのTVCMや雑誌への掲載に対して規制があるなど、現在ではヨーロッパを筆頭にシンガポール、インドなどのアジア諸国にもアルコールを規制する動きが広まっています。
筆者も、アメリカやヨーロッパから来日した外国人に質問されて驚いたことがあります。
「どうして日本人はいろんな種類のお酒を飲む(チャンポンする)の?」
「どうして日本では酔いつぶれるまで飲むの?酔った人が道に座り込んだり寝たりしているけど大丈夫なの?特に、女性は危なくないの?」
「頻繁に同僚と居酒屋に行くと聞いたけど、どうして家族と過ごさないの?」
アルコールを飲むと有害物質アセトアルデヒドが発生しますが、それを分解する酵素(アルデヒド脱水素酵素)の欠損率が日本人は44%と、中国や韓国などの他のアジア諸国を含めても諸外国と比べて高い(お酒が飲めない・苦手な人が多い)と言われています。そんなお酒に弱い人の割合が高いはずの日本人が、頻繁に飲酒したり、酩酊するような飲酒の仕方をしていることに対して外国人は非常に驚くようです。
チェックリスト
✔︎「こういう時には飲むもの(飲むべき)」という思い込みはありませんか?
✔︎その人間関係はアルコールが無いと本当に成立しないものでしょうか?
✔︎「飲みたくありません」「今日は帰宅します」など、断ってみたことはありますか?
✔︎自分の飲酒行動や飲酒頻度について家族や友人と話し合ったことはありますか?
4. 健康にいい?
「酒は百薬の長」「お酒は少量であれば健康に有益」などの考え方は昔からありますが、一方で、鎌倉時代に吉田兼好が『徒然草』に「酒は百薬の長といへども、満の病は酒よりこそ起れ」(酒は百薬の長というかもしれないが、さまざまな病気は酒から起こるんです)と書いたように、お酒の有害さについても指摘されてきました。最近の研究でも、アルコールは少量でも人体に悪影響があり、特に免疫機能を悪化させるという結果が出ているようです。
確かに、楽しくリラックスした気分になることが体や心にポジティブな影響を及ぼしたり、赤ワインに含まれるポリフェノールが動脈硬化に効果があるとも言われます。しかしそれらは必ずしもアルコールを介さずとも、他の方法からでもある程度の効果が見込めます。また、「過ぎたるは猶及ばざるが如し」と言うように、お酒を飲みすぎることがあればそちらの方が有害です。なるべく体や脳への負担を減らすようにしましょう。
チェックリスト
✔︎「健康にいい」ということを飲酒の正当化に使っていませんか?
✔︎より健康的な方法はないでしょうか?
・(同じ本数なら)低アルコール度数や低糖質のものに置き換える
・飲酒量を減らす
・ゆっくり時間をかけて適量*飲む
・同量程度の水を摂りながら飲む
・高タンパク質の食事やツマミを摂る
・飲酒によって消費されるビタミンやミネラル(カリウム、マグネシウム、カルシウムなど)を補う など
* 厚生労働省は「節度ある適度な飲酒量」を1日平均純アルコールで約20g程度としています。ただしこの基準値以下であればアルコールによる影響が全くないという意味ではありません。
5. 楽しい?美味しい?
アルコールを飲むと脳内物質(エンドルフィン)が出て、陽気になったり人と親密な気分になると言われています。酔うと他の人にベタベタしたくなったり、キス魔になったりする人がいるのもこの影響のようです。また、アルコールの味自体が好きだという人もいます。
最初は「嗜む程度」と思っていてても、環境の変化やストレスなどで飲酒量が一時的に増えたことをきっかけに、習慣的に飲酒量が増加してしまうこともあります。特にアルコールの害を受けやすい若年者、女性、高齢者や、持病を持っている人は気をつけましょう。
チェックリスト
✔︎知らず知らずのうちに飲酒量が増えていませんか?
✔︎飲酒なしでも楽しく過ごす方法はないでしょうか?
✔︎他の人を不快な気持ちにさせていませんか?
✔︎何杯目までお酒を美味しいと感じていますか?
リスクのある飲み方とは?
自分ではまだ平気と思っていても、気づかないうちにコントロール不能な状態になっていて家族や他者に迷惑をかけているということがあります。しかし、そういったことにはなかなか自分では気づけないものです。
他の依存と同じで「アルコールがないとだめだ」という発想自体が思い込みや幻想ですが、わかっていてもそれを認められなかったり、離れられない状態になっていたら要チェックです。
次回は、リスクのある飲み方やそのチェック方法、自分や身近な人が「リスクがある飲み方をしているかも?」と気づいた場合の対応方法などについてお伝えしたいと思います。
取材協力/児島麻理子さん
hello pr & editing 編集/PR 東京女子大学卒。エスクァイア マガジン編集部を経て、2008年よりバカルディ ジャパン株式会社 PR & EVENT マネージャーとして、輸入洋酒のPRを担当。 2019年に外務省 大臣官房戦略的対外発信拠点室広報外交専門員に就任。現在はお酒まわりのPRと編集を行うhelloを設立
ライター/佐藤彩有里
国家資格キャリアコンサルタント/バルーン・コンサルティング代表/高輪こころのクリニックカウンセラー/MBTI®認定ユーザー/龍村ヨガホリスティックヘルスコンサルタント/ASK依存症予防教育アドバイザー/A/CRA/FT ASIA事務局
企業での社内・社外相談や個人向けキャリアコンサルティングで多くの方の悩みに寄り添っており、嗜癖行動や依存に関するカウンセリング実績も多数。
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