生理終了!と思ったら。更年期を終えた今、変化した「老い」との向き合い方と新しい楽しみ【経験談】
更年期というと、のぼせ・ほてり・頭痛・疲れやすさ・イライラ・憂鬱感など、さまざまな症状に悩まされることがあります。漫画家の安彦麻理絵さんは、特に精神的な不調がつらい症状だったそうです。『生理終了!と思ったら。 更年期メンタル、私なりの付き合い方 』(竹書房)には、更年期のしんどさと、色々と試してみた対処法の経験談が描かれています。後編では、更年期の不調がある中での家族とのコミュニケーションや、「老い」との向き合い方などを伺いました。
「老い」との向き合い方
——本書の中では、思春期と対比した言葉として、更年期を「思秋期(シシュウキ)」と表現しています。「老い」にも直面する時期であったと描かれていましたが、どんな思いだったのでしょうか?
フリーランスで仕事をしていると、周りにいる人は、会社に縛られていないからか、常識に囚われることもなく、自分の好きなように生きている人が多くて、同世代でも若々しく見えるんです。そういう人たちと一緒にいて、自分が年を取ってきているという感覚があまりなかったです。
でも気づいたら55歳になっていて、特に仕事との向き合い方に悩みました。フリーランスは中年以降、年を取るにつれてどんどん仕事が減っていくという話をよく聞きます。私も20代・30代の頃に比べたら、仕事ができていなくて、2か月に1回ほど、イラストの仕事をし、一度、単発でバイトをしたこともありました。
更年期特有の不調に加えて、中年になって仕事が減ったり、老化によってできないことが増えたりすると、どんどん自信がなくなってきて、メンタルも落ちていきました。
——そういった中、どうやって切り替えていったのでしょうか?
今回の本の原稿は元々、別の会社のWebサイトで連載していたものの、連載が打ち切りになって、原稿が余っていて。これをなんとかしないと、漫画家をやめるにやめられない気持ちがありました。
そこで何社か原稿の持ち込みをしました。その中で、10年前に担当してくれた竹書房の編集者さんが連絡をくださって「書籍化するにあたって、描きかえる必要がある箇所も結構ありますが、良いテーマだから」と拾ってもらえたんです。私は運が良かったんですね。
実は、漫画家の仕事を始めてから、一度も持ち込みをしたことがなかったんです。しなくても仕事の依頼がきていたという、恵まれた仕事人生を歩んでいました。でも40代後半から徐々に仕事がなくなり、私は何者なの?と自信がなくなっていて。でも今回、本を作ることになって、「まだ漫画家と名乗っていていいのかな」という気持ちになれたことが大きかったです。
——持ち込みしようと思ったきっかけは何かあったのでしょうか?
私はアナログで漫画を描いていて、いつも描いていないと、ペン先のインクが固まって使えなくなってしまうのですが、漫画や絵の仕事が少なくなってから、ほったらかしにすることが多くて、久しぶりに使ってダメにしちゃうことの連続で。
何本もペンをダメにしているうちに悲しくなってきて、「もう私は漫画家じゃないのかな」という気持ちになって、凹んでいたんです。でもこのまま終わりたくないなって思って、ペンを新しく買い直して「今回買ったこのペンは絶対に枯らさない」という気持ちで持ち込みをしました。
10年前とエッセイ漫画の構成や表現の仕方なども大幅に変化していたので、担当編集さんに叩きこんでいただいて、新人の気持ちで一から学びながら作っていきました。慣れないことも多かったので、ネームを作っているときは、今までで一番つらかったのですが、ペン入れをしているときは、一番楽しくて、描くことで救われる感覚がありました。
夫も更年期の不調が。夫婦での時間の過ごし方
——更年期症状の中でもメンタル不調が強かったとのことですが、ご家族とのコミュニケーションで気をつけていたことはありますか?
メンタル不調が強かった時期は、正直気をつけられなくて……。特に夫にはサンドバックのようにあたってしまったので、申し訳ないと思っています。子どもたちには八つ当たりすることはなく、子どもたちは不安定な私を見て、「仕方ないね」という受け止め方をしてくれていたようです。
ただ、私の不調が更年期によるものだと、夫もわかったうえで暮らしていました。また、夫は6歳年下ですが、夫もコロナ禍初期に体調を崩していて。夫は私と違って、自分から病院へ行き、検査したり改善のために薬を試したりする人で、血液検査をしたところ、男性ホルモンが大幅に減っていることが発覚し「男性更年期かもしれない」と話していました。
ここ数年は、夫も調子が悪くなり始めていた時期だったので、お互いに気遣いながら暮らしてきました。私がランニングを始めたら夫も一緒に走るようになって、そうやって一緒の時間を過ごせたことは、すれ違いを減らすために有効だった気がします。
自分を責めなくなった
——更年期は閉経の前後5年の計10年を示すので、定義上は更年期が終了していますが、何か変化を感じていますか?
この本が8月に発売になって、刊行記念イベントも行って、それで落ち着いた感覚があります。今回、更年期メンタルとの向き合い方という、自分がやっていて楽しいことを描いたので、描きながら自分の整理ができたんです。仕事をすることでの充実感や、描き切ったときの達成感も、メンタルの安定と関連があるように感じます。
出版して以降、あまり落ち込まなくなって、自分を責めなくもなりました。以前だったら、布団の中でホラー文庫ばかり読んで1日中過ごして、寝落ちし、夕方になってるなんてことがあったら「今日は何もできなかった。なんて無駄に過ごしちゃったんだろう」と落ち込んでいたのですが、今はそういう過ごし方をする日があっても「別に楽しかったからまぁいっか」と思えるようになりました。
——更年期の不調が落ち着いてきて、何か楽しんでいることはありますか?
新しいことに挑戦したいという気持ちもわいてきて、年に1回は一人旅に行くようにしています。以前は一人で何かするのが苦手で全然できなかったんです。デジタルも苦手で、映画を観るのにも、チケットをどうやって取ればいいかわからなくて。
去年から一人でどこか行きたいという気持ちが高まって、まず秩父の三峯神社に行きました。竹書房ホラー文庫で、三峯神社に関する怪談を読み、さらに、最強パワースポットと聞いて、俄然興味がわいたからです。
日帰りできる距離ではあったのですが、あえてビジネスホテルに一泊するんです。私は温泉に行って旅館でおいしいご飯が食べたいというよりも、駅前のビジネスホテルで宅配ピザを取って、テレビを観ながらダラダラ過ごすことが癒しになるので。
今度は樹海にも行きます。バスタ新宿から河口湖駅までの高速バスのチケットも苦労しながら取りました。でもやってみることで自信につながる感覚を得ています。
仕事に関しても、今まで全部アナログで行っていたのですが、今回はデジタルで入稿をしまして。夫がイラストレーターなので協力してもらいながら、なんとかやり遂げました。プライベートも仕事も、苦手なことにも挑戦して、できることを増やしていきたいですね。
【プロフィール】
安彦麻理絵(あびこ・まりえ)
1969年生まれ・B型・山形県出身。
著書は『再婚一直線!』(祥伝社)、『ババア★レッスン』(光文社)、『酒とナミダとマリエと赤子』(竹書房)など多数。
42歳で第4子を出産した2男2女の母。趣味は着物とランニングと酒と怪談。
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