お盆の風習を引き継ぐことよりもリアルになってきた「墓じまい」問題【連載 #発酵適齢期】

 お盆の風習を引き継ぐことよりもリアルになってきた「墓じまい」問題【連載 #発酵適齢期】
canva
高木沙織
高木沙織
2024-08-09

30回目の『発酵適齢期』、テーマは「お盆」です。

広告

こんにちは。ライターの高木沙織です。

さかのぼること30年、私がまだ小学生だった頃―。夏休みは、母方の祖父母の家で過ごすのが恒例でした。祖父母宅は昔ながらの平屋で、「おばあちゃんちに来たーっ!」と子どものテンションを爆上げするには余りある存在感大な瓦屋根と、広い縁側が特徴。それぞれの部屋のふすまを開けると、走りまわるのにぴったりな広い座敷に早変わり。まあこれは、法事で親戚が集まったときのための間取りだったりもするんですけれど。

さらに玄関を見てみると、庭の畑から収穫してきたスイカがゴロンゴロン。おばあちゃんち感の高まりは早くも最高潮に達し、1つ上の兄と私はカブトムシ顔負けの食べっぷりで皮ぎりぎりの白いところまで競い合うようにしてかじりついていたものです。母のおさがりの浴衣を着つけてもらい、おばあちゃんと手をつないで近所の夏祭りにも行きました。こんなふうに、古き良き日本の夏を満喫していた子ども時代の私。ただひとつだけ、怖くて仕方がないことがあったんです。

30回目の『発酵適齢期』、今回はお盆について。

「盆の入り」では、ご先祖様をおぶって帰る

子ども時代の夏休みには、楽しい思い出がたくさんあります。こんなことを言ったら不謹慎かもしれないけれど、お盆の風習でさえも私のことをワクワクさせてくれる夏のイベントのひとつでした。

ええ、盆の入り…までは。

そもそもお盆とはご先祖様の霊を自宅に迎えてもてなし、供養する仏教行事。祖父母宅がある千葉県某所では、旧盆の8月におこなわれるのが今でも一般的です。最近では、迎え火や送り火の風習が簡素化しているなんて話も聞きますが、地域によって時期や方法が異なることもあり、お盆ってちょっと複雑じゃない?と思っている次第であります。

お盆の風習
地域によって異なる「迎え火」のやり方/Photo by Saori Takagi

ちなみに、我が高木家の盆の入りはこう。まず日没前に祖母から「そろそろお墓に行くよ」と声がかかります。それを合図に、祖父(2021年に他界)と母、たまに父、兄、私は線香や藁、新聞紙、マッチなどを持って祖父母宅から徒歩7~8分ほどの場所にあるお墓へ(高齢だった曾祖母は家で留守番です)。夕方に外出することがあまりなかった当時の私は、兄とふざけながら田舎道を歩いていた記憶があります。とはいえ、お盆を前にすでに磨き上げられたピカピカのお墓の前に到着すると、おふざけモードは封印。それぞれが静かに手を合わせ終えると、ご先祖様と一緒に帰路につきます。

と、ここで祖父がおもむろにしゃがみ込むけ。「はい、乗れましたか?」…って。

幼い兄と私は、祖父の背中にくぎ付けです。なぜなら、祖父の背中におぶさるのはほかの誰でもない亡き曾祖父だから。昔から想像力といいますか、妄想力がたくましい私は白い着物を身にまとった曾祖父がお墓からスーッと出てきて、祖父の背中に「やれやれ、よいしょ」と身を預ける姿を思い浮かべると、背筋が少しばかり寒くなるのでした。

帰り道では、ご先祖様がおんぶを拒み歩くことを選んだ場合を想定して、迷わないように道の辻(十字路)に藁を敷いて迎え火を焚くのが祖母の役目。そのあいだ、祖父は背中に向かって「今日は暑かったですね」「帰ったらスイカがありますよ」などと話しかけ続けます。

こうして家に到着すると、玄関前には水を張ったたらいがポツン。藁で汚れた手を洗うのにちょうどいいじゃんと駆け寄ると、「これこれ、それは足洗水(あしあらいみず)だよ。としょじいちゃんがそこで足を洗うんだよ」と祖母。何だかとてつもなく罰当たりなことをしてしまったような気になって、心の中でごめんなさいと10回はつぶやき素早く手を引っ込めるのでした。

※ としょじいちゃんというのは、千葉県のある地方の方言だそう。ひいじいちゃんの意味で使われます。

イタズラをしたら怒られる…「お盆」が怖かった子ども時代

無事に盆の入り(迎え火)を終えたあとは、盆の明けまでご先祖様と一緒にいつもより少しだけ緊張感のある日々を送ります。

一緒といっても、もちろん曾祖父の姿は見えません。それなのに、いや、それだからなのか家の中に曾祖父がいるという気配を色濃く感じるのは、祖父や祖母が心を込めて故人をもてなしていたからなのだと思う。「としょじいちゃん、この漬け物好きでしたよね」とか「お菓子をいただいたから、お先にどうぞ」と、かつて好んで座っていた場所にお皿を差し出します。

としょじいちゃんは、私が生まれる前に他界していたので写真でしか知りません。だけど、お盆の期間中こんなふうにごく当たり前にそこにいる過ごし方をすることで、その存在がどんどんリアルに身近に、そして大きくなっていくという体験をしたのでした。

あるとき、来客用の座布団(これが大げさではなく50枚以上ある)を豪快に積み重ねて秘密基地的なものを作って遊んでいると、祖母がやってきてこう言うではありませんか。

「としょじいちゃんに怒られるぞ」と…。

祖母としては、ちょっとの注意ではきかない暴君と化した私を落ち着かせるためだったのでしょうが、これが効きすぎました。家族とはいえ面識がなく、さらには亡くなっている人から怒られるだなんて震えあがるどころの話ではありません。その夜はひとりでお風呂に入ることも、トイレに行くことも、寝ることもできなくなったのはここだけの話。

お盆のあいだにイタズラをしたら、どこかから見ているとしょじいちゃんに怒られる―。微笑ましい昔話ですが、正直に言うと今でも私はびびっています。

3年前、尊敬していた祖父が他界しました。初めて迎える新盆(にいぼん)は、祖父母宅に帰省。一緒に迎え火をしました。すると、お盆の期間中に不思議なことが起こったんです。

「じいちゃん、帰ってきてるな」と、祖母。祖父母宅で暮らす兄もまた、「うんうん」とうなずいています。生前、よく庭の畑で作業する祖母に「おーい」と呼びかけていた祖父。その声が聞こえてきたり、庭を歩いている足音が聞こえてきたりするんだそう。2人は微笑ましく話していました。

かたや、私はその存在を感じることができず。「会いたいな」「帰ってきてるのかな」と思う反面、「おじいちゃん、何卒怖くないようにお願いします」と頼んだからでしょうか。きっと祖父のことだから、「沙織はいくつになってもしょうがないな」と怖がらせないようにしてくれたんでしょう。今年もお盆中くらいは、曾祖父や曾祖母、祖父を安心させられるような丁寧な生活を送るのでご安心くださいな。

怖いといえば、もうひとつ。

現在、私は41歳独身です。結婚や出産の予定はありません。兄もまた独り身。双方、子どもはおりません。これは、高木家の墓じまい問題がいよいよ現実味を帯びてきたということです。これまで家族が大事に守り続けてきたお墓なので、何とかしなくてはという思いはあります。高木家を存続していくのか、それとも自分たちの代で…とするのか、その方法も踏まえてこれは要家族会議。「墓じまいだなんて、どれだけ先の話なの?」といわれるかもしれないけれど、家族が元気なうちに相談しておくのがいいでしょう。

しかしながら、私たちのように家族を持たない選択をする人が増加傾向にあるということは、こういう家に関する重大な問題に直面する人がこの先続々と増えていくということです。現代社会の深刻な問題になっていくのでしょう、いやすでになっているのか。

ご先祖様たちの心中はお察ししますが、ご意見はひとつ怖くない方法で伝えてもらえますと幸いです。

ではまた、31回目で。

広告

AUTHOR

高木沙織

高木沙織

ヨガインストラクター。「美」と「健康」には密接な関係があることから、インナービューティー・アウタービューティーの両方からアプローチ。ヨガインストラクターとしては、骨盤ヨガや産前産後ヨガ、筋膜リリースヨガ、体幹トレーニングに特化したクラスなどボディメイクをサポートし、野菜や果物、雑穀に関する資格も複数所有。“スーパーフード”においては難関のスーパーフードエキスパートの資格を持つ。ボディメイクや食に関する記事執筆・イベントをおこない、多角的なサポートを得意とする。2018~2019年にはヨガの2大イベントである『yoga fest』『YOGA JAPAN』でのクラスも担当。



Galleryこの記事の画像/動画一覧

お盆の風習