"漫画"で社会問題を語るワケ〈ルッキズムひとり語り Vol.6〉

 "漫画"で社会問題を語るワケ〈ルッキズムひとり語り Vol.6〉
前川裕奈
前川裕奈
2024-03-25

SNSや雑誌、WEB、TV、街の広告には「カワイイ」が溢れている。けど、その誰かが決めた「カワイイ」だけが本当に正義なの? セルフラブの大切さを発信する社会起業家・著者の前川裕奈さんが二次元コンテンツを絡めて綴る、ルッキズムでモヤっている人へのラブレター。

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セーラームーンごっこをしながら過ごした幼少期。読みたい漫画が多すぎて、部活には入らなかった中高時代。社会人になってからは、どんなに激務でも月曜は欠かさず週刊少年ジャンプを買った。海外に駐在していた頃も、大好きなコナンの映画が公開される4月は、弾丸で一時帰国がマイルール。どんなに辛いときも、漫画やアニメの存在は私にとって親友のような存在で、心の拠り所となってくれる。先日引っ越しをしたのだが、漫画は紙派なので、それらを全て箱詰めする作業が一番時間を要した。もう漫画に関しては、業務外プロフェッショナルと呼んで欲しい。

そんな漫画という存在が、私の人生の糧となる大事な価値観や、社会問題を紐解くヒントを与えてくれることも日常的によくある。だからこそ、この連載「ルッキズムひとり語り」は、様々な好きな漫画を絡めながらルッキズムをはじめとした社会問題について綴ってきた。いかに漫画が人生を彩ってくれたかを私が語りだすと、「オタクうける」なんて言い流されてしまうこともある。けれど、私たちは「自分の人生」以外を歩むことはできないからこそ、様々なエンタメを通して擬似体験をしながら自分の擬似経験値を増やすことで人生観を豊かにしていくことができると思っている。漫画だけではなく、アニメ、映画、舞台、小説、ドラマ、朗読劇なども同様だ。けれど、忙しない日常の中で無尽蔵に漫画を普通は読んでられないよね、ということで、このコラムを通して漫画の新しい見方を発見してもらえたら良いな、なんて思う。そして、「ルッキズム」って、得てして「堅苦しい」「難しそう」なんて遠ざけられがちかもしれないけど、それを誰しもが一度は触れたことのある「漫画」という切り口なら少しとっつきやすかったりしない?

10代の頃、当時流行っていた少女漫画のヒロインの多くは脚が尋常じゃないくらいに細くて長くて、目は顔の半分以上を占め、髪はサラッサラだった。二次元だからこそ、現実離れした容姿がキャラクターデザインに用いられることがエンタメ性でもあるのはわかる。けれど、当時の私は次元の境目など分からず、そのヒロインと程遠い自分に劣等感を感じ続けた。そう、私にとって漫画の影響力が大きいからこそ、それがマイナスに働いてしまうことも過去にはあった。

そして、そのまま20代もルッキズムという名のヴィランにずっと呪われ続けてきた。29歳の時、外務省の仕事を通してスリランカに駐在してから、現地での様々な出来事をきっかけに徐々にルッキズム野郎とタイマンをはれるようになり、自分をよしよししてあげられるようになって鎧が少しずつ脱げてきたのだ(詳しくは著書「そのカワイイは誰のため?ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話」)。そこから、セルフラブの大切さを発信したいと思うようになった。スリランカで学んだ、心にちゃんと響く「セルフラブの精神」を、どうにかして日本のみんなにも伝えたい。ありのままの自分を肯定させてくれる、この国の愛情を届けたい。けれど、有名人でもなんでもない私の想いはどうやったら届くのだろうか、伝えたい思いだけを抱え、発信方法についてずっと悩んでいる中、またしても漫画とアニメがふとした拍子にヒントをくれた。

それは、男子水泳部の物語「Free!」と、今まさに劇場で激アツ上映中の「ハイキュー!」だ(既に4回観賞したが毎回号泣の精神土砂崩れ)。まず「Free!」では、元々スイムスクールで一緒だった男子生徒たちが高校でも水泳を再開しようとするが、水泳部がなかったため部員を自分たちで集めて岩鳶高校水泳部を設立する描写が序盤にある。ここで私は「(部活が)ないなら、作る」という発想にビビっときた。自分も「(セルフラブを伝える場所が)ないなら、作る」すなわち「起業」をすれば良いのではないか。現在、私はルッキズムを問題提起する「kelluna.」というブランドの代表を務めているが、「Free!」がヒントをくれたといっても過言ではない。

そして、起業なんてしたことないし、必要なスキルもないけれど、やる気だけで動き出して良いものなのか?という私の不安を払拭してくれたのは、ハイキューの日向翔陽だった。バレーのスキルはまだまだだけど、「やる気」や「想い」で周囲を奮い立たせていく日向を見て、きっと本当に必要なものこそは「やる気」なんだ、と思って背中を押された。実は私の座右の銘も「ハイキュー!」からきている。田中龍之介のセリフ、「できるまでやればできる」だ。(日向と田中の話をしたけれど、推しは黒尾鉄朗)。

少し話は逸れたが、こうして漫画が思いがけないところで勇気をくれたり、現実世界の疑問に対する答えをくれたり、知らないことを学ばせてくれたり、大切なことに気づかせてくれたりする。私の人生では、そういうシーンが数えきれないくらいあった。たとえ主たるテーマが別のところにあったとしても、キャラクターのセリフや言動を通して、三次元の私たちが得られることは本当にたくさんある。なので、私はこれからもルッキズムをやっつけるヒントを漫画を通して考え続け、ここで伝えていこうと思う。

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前川裕奈

前川裕奈

慶應義塾大学法学部卒。民間企業に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学の修士号を取得。 独立行政法人JICAでの仕事を通してスリランカに出会う。後に外務省の専門調査員としてスリランカに駐在。2019年8月にフィットネスウェアブランド「kelluna.」を起業し代表に就任。現在は、日本とスリランカを行き来しながらkelluna.を運営するほか、企業や学校などで講演を行う。著書に『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』(イカロス出版)。



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