“死のプロデュース”を手掛けるドクターに聞く、最期の瞬間まで人生を楽しむための「死の捉え方」

 “死のプロデュース”を手掛けるドクターに聞く、最期の瞬間まで人生を楽しむための「死の捉え方」
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鈴木伸枝
鈴木伸枝
2023-08-13

思い込みにとらわれがちな私たちが、それらを手放し、本来の状態に戻るためのヒントや、私たちの内側に広がる、未知な部分、可能性、平穏…を見つけるための考え方を、様々な専門家のお話を伺いながら探っていく連載企画『インナージャーニー(内なる探求)』。第2弾は、ドクターの道下将太郎さんのインタビューをお届けします。

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「治すため」ではなく「人々の人生をよりよくするためのプラットフォームを作りたい」という想いから、表参道に自由診療の「AFRODE CLINIC(アフロードクリニック)」を開院された、ドクターの道下将太郎さんより、人生の豊かさを生み出す医療について、お話を伺いました。

死に向き合う

ーー脳神経外科医として、多くの手術を経験されてきた道下さんが、薬や手術だけではないサポートが必要だと考えるようになったきっかけを教えてください。

道下さん:僕のメインは脳神経外科で、難しい頭の手術をずっと担当してきました。この科は一番人の死に近い領域で、多いときは週に4、5人亡くなるのを日常的に見てきました。

僕は海外ではハーバードに勉強に行かせてもらっていたり、日本でゴッドハンドと呼ばれている名医の孫弟子でもあったりするんですが、どの現場でも「死」というものがネガティブに捉えられていました。かつ病院にいると、どうしても死というものが、流れるように終わってしまうものだったんです。病院では日々の診療があって、手術を10時間、20時間して、また亡くなる方がいたらすっと終わらせるようにして送り出して、すぐ次に行くというような感じで時間が経過していくのに違和感を感じていました。それは今思うと、医療者の防御反応でもあったと思うんです。深く向き合うとダメージが大きすぎるので。どんな名医であっても、死にゆく方に対して、その家族に対して、関わる医療者に対して、一人の人として心から向き合っている方がどのくらいいるのかは疑問に思うことも多かったです。

医療技術の発展とともに確かに救える方々は増えてきました。しかしその反面、逆に医療の発達で救えることが増えて、障害を負った方が長く生き続けることが可能にもなったとも思っているんです。死ねなくなってしまったと。ご高齢の方に話すと、皆さんぽっくり死にたいと言います。ですが、僕らのせいで、生きなくてはいけなくなっているとも捉えられると思います。僕ら急性期の現場をやっている人間は、そこに向き合う責務がある     。だからこそ現場のドクターが死に深く向きあるべきだ、と22〜23歳くらいの時に自分の中で定義し、人生かけて「死のプロデュース」をしようと決めました。
僕は巡り合わせで、早い段階で多くの手術を経験させていただくことになりました。年間多くの手術を担当し、若手にしては高い技術を身につけさせてもらいました。医者は神様ではない、もし神様だったら救えなかったあの子もあの子も救いたかった。僕が一生かけて救える方は何人なんだろうと、並行して考えるようになりました。僕は数百万人救うために医者をやっている。現場の手術から一線を引き、日本ひいてはアジアの医療の、向き合い方、座組みを変えようと決心しました。

また、ハーバードに留学していた時に、僕は最先端のところで技術を学ばせてもらっていました。iPS細胞という、何もないようなところから、人間の臓器などを作っていたのですが。その技術をすごい!と捉えた人がほとんどなんですけど、僕はその考えだけではなく、「医療は行き着くとこまで行き着いた。医療技術の発展のせいで、生じる障害もいっぱいあるのではないか?」と思ったんです。ここに向き合わなければいけないと。

幸せな死を迎える「well-dying」

そしてこれだけ医療が発展しても、人は絶対に死にます。それは誰も避けることができません。どうせ死ぬんだったら、その死をどうハッピーに迎えるか?という発想の方がいいと思うんです。最近はwell-beingという言葉が注目されていますが、僕がやりたいのはwell-dyingです。いい死を迎えるアプローチに、必ずwell-beingがついてくるというのが、僕の理論です。理想の死を見つめると、必然的に「今をどう生きるか」に目が向きます。

そして人はなぜか80歳や90歳で死ぬと思っていますが、帰り道に死ぬ人とかを、僕はたくさん見ているので、そうではないことを経験から知っています。急に人が亡くなったときに、家族の方が言うのは「朝まで元気だったのに、なんで?」なんですよ。僕はたくさんの死を見ているので、死は身近なものですし、死に対する解像度が高いんです。夜まで元気でも明日死ぬ可能性はある、と僕は思いながら生きてみているんです。そうすれば今の生き方が変わってきます。

たいていの人が、誰かの死に直面した際に、「かわいそうに、死んじゃったんだ」という言葉耳にしたことがあると思います。ですが、かわいそうじゃない死もあるし、生まれちゃったとは言わないのに、死んじゃったという、死に対するネガティブな思いを変えたいと思っています。

ーー死に直面してきた機会が多かったからこそ、死を身近に感じているからこそ、今ある命をどう無駄なく生き抜くか、というところに目が向く、ということですね。

道下さん:そうです。だったら楽しく生きた方がいいし、かつパフォーマンスを高く、やりたいことをやれる方がいい。医療はそのためのものだと僕は思うんです。

僕らは何のために生きているのか? その答えは「楽しむため」以外の何ものでもないと思います。それは若くても、年を重ねていても変わりません。楽しむために僕らは大事な時間を、いわゆる資本主義の中で労働に換えて、金を得て、楽しむための資本を得ていると思うんです。

若いときには、例えばハワイへ行きたいから、そのために頑張って仕事しよう、といったような目標がありますよね? それがなぜか高齢になったり、障害があったりすると、その目標をみんな、なくしちゃうんです。例えば老人ホームに行って、毎日リハビリをする。なのに何のためにやっているのか? 誰も何も言わないんですよ。なぜリハビリをするのか? それは人生を楽しむため、やりたいことをやりたいからですよね? もしその方が旅行に行きたいと思っていても、前例がないし、行けると思っていないんで口にしない。逆に口に出されても、医療者側も行けないと思っているから、「いつか行けるといいよね」としか言えないわけです。ディープなコミュニケーションが取れていないんです。だったらそれを全部可能にしましょうということで、Re・habilitationという会社を立ち上げました。

治すリハビリから、楽しむリハビリへ

ーーRe・habilitationではどんな活動をしているのでしょうか?

道下さん:高齢者や障害者に何をしたいのか?と聞いたアンケートが日本中にいろいろあるんですけど、1万人規模以上のどのアンケートでも、70%以上が旅行と回答するんですよ、面白いことに。じゃあ旅行業のマーケットってどうなってるんだろう?と調べたら、60代までは時間もお金もあるので旅行は増えていくんですけど、70代、80代のマーケットは40分の1まで縮小するんです。つまり行けてないんですよ。なぜ行けないのか? その圧倒的な理由は「体に不安を感じたから」なんです。それを医療でサポートして行けるようにできたら、その人たちはハッピーじゃないですか。より豊かに生きるために、楽しむためにリハビリをするんです。

人生の豊かさを生み出す“生活処方箋”

ーー道下さんが代表を務める「アフロードクリニック」では、薬ではなく人生の豊かさを生み出す“生活処方箋”をお渡ししているということなのですが、どのように診断して、どのようなものを処方されているのでしょうか?

道下さん:僕がしていることはパフォーマンスレベルを上げる手伝いです。これが高くないと多分生きていても楽しくない。健康っていう言葉が、自分の中であまりフィットしていないんです。健康の定義ってとても曖昧で、例えば人間ドックの結果が全てAだったら、その人は健康体だと判断されますよね。だけど、朝起きて一日が始まるのが憂鬱に感じたり、日中疲れて頭が回らなかったり、夜寝れないってなったら、多分健康じゃないですよね。健康と元気って圧倒的にかけ離れているんですよね。自分のパフォーマンスレベルを上げて、やりたいことをやって、楽しく生きている、ということこそが大事なんです。そのために毎日やっている食事を見直してみる。1日3回食事をするとしたら、週に21回、月90回、年間に約1000回もあるんですよ。それをちょっと意識したり考えたら、変わりそうじゃないですか? 今はネットで健康情報を手に入れようと検索すると、いっぱい出てくるんですけど、それは企業が出している情報で、利益相反の可能性もあるわけです。僕からすると、正しい情報でもないこともあるし、アップデートもされてないわけですよ。海外ではちゃんとした医療機関、例えばハーバードとかが医療情報を出して、ここのレストランいいよとか、このプロダクトいいよ、といったような紹介の仕方をするんですよ。そうなると自分に当てはまる率が上がりますよね。僕は患者さんのお話を聞く中で、その方の置かれている環境や状況を把握し、この人は今こういう状況だから、これをやるとパフォーマンスレベルが上がるだろうという、食事とか、睡眠の取り方とか、運動、メディテーション、カイロプラクティック、ピラティスなどを、具体的にオーダーメイドで処方しています。講演会や企業さんへの講習になると、もうちょっと解像度を下げて、全体に当てはまるようなものを発信しています。

例えば、眠れないという症状に対して、普通の医療は薬以外の選択肢がないですがその対処法の選択肢をいっぱい持っている方が良いですよね。

パフォーマンスが高く、整っているという見本は、農家とか田舎のじいちゃんばあちゃんじゃないかと思うんですよ。朝早く起きて、朝日を浴びて体動かして、腰とか悪いのに、その自分に合ったうまい体の使い方をして、地産のものを食べて、その地のエネルギーを体に入れてみたいな。僕はあれが究極体だと思って模倣しています。自分でも金沢で山を持っていたり、民宿をやっていたりして、全部無農薬で野菜を育てて、米も育てて、鶏をひよこから育ててさばくし。そんなことをして、僕は自分をリセットし、ニュートラルにもっていったりしています。

AFRODE CLINIC
AFRODE CLINIC 待合室 アートが飾られたおしゃれな空間

次回、“死から生を見つめる” ドクターから学ぶ「死」の教育 へ続く

お話を伺ったのは…道下将太郎さん

道下先生

脳神経外科医師/環境宇宙航空医学認定医/メディカルスタイリスト。2020年、死や障害に対して前向きに豊かな時間を作るサポートをする、株式会社Re・habilitationを創業。同年、表参道、銀座、新橋など、トータルコーディネートのクリニックを、AFRODE CLINIC含め複数展開。2022年MS法人Medical Wellness Partnersを創業、東京慈恵会医科大学脳神経外科を退局。2022年、死装束などを手掛けるArt×Medicalをテーマとした31プロジェクト進行。薬の処方・手術をするだけではなく、様々な”選択肢”を提供する新たな形の医療を創造している。

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鈴木伸枝

鈴木伸枝

ヨガ/冥想 指導者 全国のイベント出演、大学や専門学校のカリキュラムの作成、メディアの記事監修など、活動は多岐にわたる。指導者養成コース講師を担当し、1000人以上のヨガインストラクター輩出実績がある。 「自分を生かすYOGA」をモットーに、心と体双方の健康を目指し、自分に意識を向ける時間をもち、自身で心身をベストコンディションへ導き、ひとりひとりが自分らしく輝いて生きていくサポートを、ヨガを通して行うことをライフワークとしている。誰でも簡単にヨガや瞑想を生活に取り入れられるよう、平日毎朝6:30からインスタグラムよりクラスを配信している。



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