【歯科医が指摘】歯が痛い、冷たいものがしみる、歯並びが変わる…コロナ禍で口腔トラブルが増えた原因
終わりの見えないコロナ禍。不安やイライラ……環境の変化でストレスを感じている人も多いのではないでしょうか。そんなコロナ禍でのストレスが原因で最近、歯ぎしりや噛み締め、食いしばりといった症状が出やすくなっているそう。「私は大丈夫」と思っていても、その頭痛や肩こり。無意識下での歯ぎしりや噛み締めが原因かもしれません。今回は「こどもと女性の歯科クリニック」の岡井有子先生に、コロナストレスがもたらす意外な口腔トラブルとその対処法を伺いました。
咬筋が緊張して起こる歯ぎしりや食いしばり
――コロナ禍において、歯ぎしりや噛み締め、食いしばりが起きやすくなっているとお聞きしました。クリニックにいらっしゃる患者さんにも変化はありましたか。
岡井先生:歯が痛い、冷たいものがしみるというむし歯のような症状なのに、歯を診てみるとむし歯が見当たらずに歯がすり減っている。明らかに歯ぎしりや食いしばりの影響だなと思うことが増えました。コロナ禍になる前は、こんなにたくさんいらっしゃらなかったですね。
睡眠中の歯ぎしりや日中の噛み締め、食いしばりはストレスが原因になっていることが多いんです。通常、上下の歯の間が2~3ミリ空いていて、舌が上顎についているという状態がベストなのですが、車の運転など何かに集中していると奥歯を噛み締めてしまいがちです。コロナ禍では、テレワークやおうち時間の増加で、テレビやパソコンに集中する機会が増えたこともあり、以前より奥歯に力が入っている。頬骨の下にある咬筋という噛むときに使う筋肉が緊張している方がすごく多いなと感じています。
――咬筋が緊張していると、噛み締めや食いしばりが起きやすいということでしょうか。
岡井先生:そうですね。筋肉というのはお隣同士で緊張が連鎖してしまうんです。咬筋が緊張すると歯の筋肉も緊張してしまい、それによって歯の上下のスペースが無くなるので奥歯同士が触れあって噛み締めが起きてしまいます。
また、コロナ禍において必須となったマスクも原因のひとつです。マスクをずっとかけていることで、耳のまわりの筋肉にも負荷がかかり緊張してしまう。そうすると、首の部分の筋肉(胸鎖乳突筋)にも緊張が連鎖します。そして、そのまま顔の表情筋や咬筋も緊張が伝染。その結果、歯の食いしばりが起きてしまっていると考えられます。マスクを着けていると、口先だけを動かして喋るようになってしまいますが、お顔の筋肉を使う・動かす機会が減ることも咬筋が緊張する原因になりますね。
肩こりや頭痛の原因にも
――常時、マスクを着用しなくてはいけないという精神的なストレスもありますね。もともと食いしばりが出やすいタイプの人というのも存在するのでしょうか。
岡井先生:咬筋や口もと周りの口輪筋が固くなっている人はもちろんですが、姿勢が悪い人は食いしばりやすいですね。猫背だったり、逆にいつも顔が上向き加減だったりする人。マスクで口呼吸になっていて、口がポカンと開いてしまっている人も症状が出やすいと思います。
実は、産まれたときから歯ぎしりや食いしばりをしやすい顎の赤ちゃんもいるんです。胎内にいるとき、子宮が丸い形をキープしていると赤ちゃんは膝を曲げて楽な姿勢で過ごすことができるのですが、何らかの原因で子宮の形がいびつになると赤ちゃんが窮屈な姿勢で過ごすことになってしまう。身体が緊張していると顔周りの筋肉も緊張してしまうので、顎や唇の周りの筋肉のバランスが取れず、舌が正しい位置にならない。その結果、顎が三角形になるんですね。
そういった三角形の顎だと、口輪筋という口の周りの筋肉がすごく緊張したままの状態なので、気道が狭くて鼻も詰まりがち。口も開いているし、姿勢も悪くなる。歯ぎしりをしやすいタイプになってしまう。骨格を改善しない限り、顎の形は大人になってもそのままですから、小さいときから歯ぎしりがひどいという方は、一度歯科医に相談してみるといいかもしれません。
食いしばりが歯並びにもたらす影響
――コロナ禍、急に歯並びが悪くなったという方も多いそうですが、これも食いしばりの影響でしょうか。
そうですね。食いしばりがあると顎が後ろに下がって前歯が出てきてしまう人、出っ歯になる人が多いですね。口の周りの筋肉が強くなると、口輪筋に力が入るので歯が後ろからぎゅっと押されるような感じになってしまって前歯が出てきちゃうんです。
子どもなら矯正で治りますが、大人の方は顎や口の中のマッサージをしたり、マウスピースをしたりして調整するとこれ以上悪くなることを回避できると思います。それをやらないと、止まらずにさらに前に出てきてしまう可能性があります。女性の方で出っ歯になってきたと気にしてお越しになられる方が多くなりました。
歯周病も増加
――そのほか、最近の診察傾向から気づいたことはありますか。
マスクで唾液量が減ったのも原因かもしれませんが、歯周病の方も増えましたし、むし歯や歯並びが悪くなる方がすごく多い。コロナ禍は、歯のトラブルが本当に起きやすいんだなと思います。
会社帰りに通ってくださっていた方がテレワークになり来院が難しくなってしまったり、痛みがないからと定期健診が半年以上空いてしまったり。コロナ禍で歯医者さんから足が遠のいている方もいらっしゃるかもしれませんが、なるべく定期的に検診を受けて頂きたい。食いしばりがあるのか、無いのか。それも歯を見れば一目瞭然ですから。
痛くなる前、なるべく早く来院して悪くなる前に対処してもらうことが大事だと思います。むし歯だと、冷たいものが沁みる、温かいものが沁みる、何も感じなくなるという順番で進行が進むんです。痛くない=治ったわけではないので、早めの処置が大切です。
なかなか腰が重いなという方は、歯周病の菌を見せてもらうのもおすすめです。らせん状の菌がたくさんいて、「口のなかにこんなものがいるの!?」「10年後、歯周病が進行したら」と思うと、歯医者さんに行くモチベーションにも繋がるんじゃないかなと。
ストレスの多いコロナ禍、口腔トラブルが起きやすくなっていることは事実ですので、定期的な健診を忘れずに受けて頂きたいなと思います。
噛みしめ、食いしばりに自分で気づくには
――気づかないうちに歯ぎしりや食いしばりをしていた、ということもありがちですが、自分で気づくサインはあるのでしょうか。
むし歯がないのに痛みある、冷たいものがしみるというのはもちろんですが、肩こりや頭痛もサインのひとつですね。噛む筋肉が緊張していると、そういったところに影も響が出やすくなります。また、朝起きたら顎が疲れているときや、口を開けたら頬に歯の跡がぼこぼことついているとき。舌をベーっと出したときに舌の横に歯型がついているときなども食いしばりのサインですね。
また、私が個人的に指標としているのは、深くうつむくようなイメージで下を向いたときに首の後ろがピキピキとなるとき。無意識に食いしばっていたんだなと思います。例えば「今日、仕事をすごく頑張ったな」というときは、自然と奥歯に力が入っていることが多いので、姿勢も悪くなっているし、筋肉が凝っているんです。そういった目安を持つことも大事ですね。
教えてくれたのは…岡井有子先生
京都市内産婦人科勤務を経て、大阪歯科大学へと進み歯科医師になった異色の経歴の持ち主。東京・麻布十番で「こどもと女性の歯科クリニック」を開業。
AUTHOR
ヨガジャーナルオンライン編集部
ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。
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