熟年離婚・老後の生活で損しないために知っておきたい年金の話【ファイナンシャルプランナーに聞く】
老後の生活のためにどれくらい備えはできていますか?公的な年金制度だけでの老後の生活は難しくなっている現代ですが、生涯受け取ることのできる老齢年金は、少しでも多くもらえた方がいいものです。遺族年金や障害年金は現役世代の保険の役割もあり、いざとなったときの生活の支えになります。社会保険労務士・ファイナンシャルプランナーで『年金格差はこうして起こる!? 女性のための老齢年金と遺族年金』(日東書院本社)著者である拝野洋子さんに、お話を伺いました。後編では、特に中高年以上は知っておきたい遺族年金や、熟年離婚を考えているときのポイントを解説していただいています。
遺族年金について
遺族年金とは、ある人が亡くなったとき、その人の稼ぎによって生計が維持されている遺族が受け取ることができるものです。遺族年金には、現役世代で、稼ぎ手が早く亡くなった場合の生活保障の意味合いもあります。だから若い人も年金をきちんと納めておくことを勧めています。
遺族年金には遺族基礎年金と遺族厚生年金があります。遺族基礎年金とは国民年金からの給付、遺族厚生年金とは厚生年金からの給付です。どちらも受給要件を満たしていれば、2階建てでの受給が可能です。ほか、該当する場合には、寡婦年金、死亡一時金があります。
遺族基礎年金で確認しておきたいポイント
遺族年金で注意しておきたいことは、保険料の納付要件を満たしているかです。
遺族基礎年金の場合は、亡くなった方が国民年金または厚生年金に加入中か、もしくはかつて加入していて60歳以上65歳未満で日本に住所を持っていた場合、保険料の納付済み期間(免除期間を含む)が国民年金加入期間の3分の2以上あることが必要です。
また、老齢基礎年金の受給資格を満たしているか、老齢基礎年金の受給中の場合は、必ずしも、死亡者の納付済み期間が25年以上でなくても受給資格期間(カラ期間※も含む)があれば遺族年金を請求できます。
なお、65歳未満の人が亡くなった場合は、令和8(2026)年3月末までは特例措置として、直近1年間に保険料の滞納がなければ要件を満たせます。
遺族基礎年金を請求できるのは、子どものいる配偶者か、18歳未満の子ども(障害年金の障害等級1級・2級の場合は20歳未満)で未婚に限られます。配偶者の場合、年収850万円(所得655.5万円)未満であることも条件です。子どもの父か母が遺族基礎年金を受けているか、生計が同じ父か母がいる場合は、子どもに遺族基礎年金は支給されません。
※カラ期間:「合算対象期間」のことで、主婦や主夫、学生、海外居住などで任意加入しなかったなど、強制加入以前に国民年金に加入していなかった人が、無年金にならないように作られた制度のこと。カラ期間は受給資格期間には含まれるものの、受け取る年金額には反映されない。
遺族厚生年金で確認しておきたいポイント
遺族厚生年金の受給要件は、短期要件と長期要件があります。短期要件とは以下の4つです。
①会社員が在職中に亡くなった場合で、厚生年金保険期間中、3分の1以上を滞納していないこと
②65歳未満の会社員が在職中に亡くなった場合で、亡くなった前々月まで直近1年間の国民年金保険料の滞納がないこと(令和8年3月末までの特例措置)
③会社に在職中(厚生年金加入期間)に通院していた病気・ケガで初診日から5年以内に亡くなった場合
④亡くなった人が1級もしくは2級の障害厚生年金を受けていた場合
長期要件とは、亡くなった方が国民年金保険料(厚生年金保険料を含む)の保険料納付済み期間・免除期間・猶予期間・合算対象期間の合計が原則25年以上あること、もしくはすでに老齢厚生年金を受給していることです。
多くの場合、若いときに配偶者が亡くなった場合は短期要件が、高齢になってから配偶者が亡くなった場合には長期要件が該当することが多いですが、短期と長期両方要件を満たす場合、遺族にとって有利な要件を選択できます。請求の際に「年金額が高いほうの計算方法での決定を希望する」という欄にチェックを入れましょう。
なお、遺族厚生年金を請求できる人は、基本的に亡くなった人と同居していて、年収が850万円(所得655.5万円)未満という条件を満たしている必要があり、請求できる遺族に優先順位があります。たとえば最も優先されるのは子のある妻・子のある55歳以上の夫です。
遺族厚生年金について、妻の場合は年齢制限がありませんが、夫の場合は55歳以上であることが条件です。まだ少数派ではあるものの、妻が主に稼ぎ手で夫の方が収入が低い家庭もありますよね。その場合、妻が亡くなったとき、残された夫と子どもが困るということがあります。
「遺族厚生年金だけ、男女で扱いの違いがあって不公平」ということで、見直しがされています。ただし、どちらかというと縮小の方向での検討です。妻と同じくらいの保障を夫にもするのではなく、「夫がもらえないのは不公平だから、夫の基準を緩和しつつ、妻の基準は厳しくします」ということです。
「年金」というと、老後のイメージがありますよね。でも繰り返しているように、障害年金や遺族年金は、現役世代向けの保険の役割もあるのです。
普段はあまり関係ないと思っていても、いざ当事者になったら困ることです。状況によっては、子どもを進学させられなくなることも考えられます。年金を減らさないよう、若い世代も関心を持って、意見を伝えることをおすすめしたいです。
また遺族厚生年金は厚生年金からの給付ですので、自営業の方は該当しません。特に厚生年金期間がない夫婦が自営業を営んでいる場合などは、互いに遺族厚生年金がありませんので、個人年金や国民年金基金、個人型確定拠出年金(iDeCo)など、何かしら老後の備えを検討してみるといいでしょう。
熟年離婚をしたいときに確認するポイント
「熟年離婚をしたい」とお考えの場合に知っていただきたいのが、結婚していた期間の厚生年金記録を分割できる仕組みの「合意分割」「3号分割」です。
「合意分割」は平成19年4月以降の離婚が対象で、婚姻期間中の二人の厚生年金記録を計算し、50%を上限に分割できます。ただ、2人の合意が必要で、合意できず揉め続けた場合、調停や裁判になることもあります。
「3号分割」とは、第3号被保険者(会社員や公務員といった第2号被保険者に扶養されている人)となっていた場合に、平成20年4月1日以降の婚姻期間中の厚生年金記録を50%分割できるもので、平成20年5月以降の離婚が対象です。合意分割と異なり、相手の合意なくできるものですが、国民年金には適用されない点は注意してください。
離婚後の経済状況を考えるためにも、明確な金額を知っておくことを勧めます。そのためにできることとして、離婚前に「情報提供通知書」の請求ができます。婚姻中でしたら、夫に知られることなく、50歳以上の方は分割後の年金額を知ることが可能です。
ご自身が第3号被保険者に入ったり抜けたりしていたり、夫が何度か転職していると「想定していたものとズレている」ということも。離婚協議前に自分の記録を確認しておくべきです。
また、離婚してからでないと本格的な分割手続きができないため、相手が姿をくらますと困ってしまいます。なので少なくとも相手がどこに住んでいるかを把握しておいてください。
年金格差で損をしないために備えられること
「年金格差」で損をしないために、今からできることとしては、とにかく「滞納」しないことです。払うのが難しいのでしたら、年金事務所や市区町村役所の年金担当窓口に相談して、免除や猶予の手続きをしてください。
配偶者に扶養されて第3号被保険者になる場合には、届け出を早めに確実にすることも重要です。年金への意識が低かった時代ですと、滞納していた人も珍しくありません。記録をチェックして、思ったとおりに納付できているか確認するのも大事なことです。
また「会社員(第2号被保険者)の間に病院に行っておく」という意識も持っておくといいです。障害年金は最初に診察を受けた日が基準になって書類を作るのですが、障害基礎年金よりも、障害厚生年金の方が保障が手厚いのです。初診日をきちんと記録に残しておいてください。
今回お話できたのは、年金制度の中でも一部のことです。もっと知りたい場合には、本書も含め、詳しく書かれているものを参照することをお勧めしますが、年金制度自体が複雑で、難しく感じる部分もあると思います。その場合は、年金事務所に問い合わせをすると、制度について教えてもらうことができます。
また、個々の状況、特に夫婦の状況を照らし合わせながら、どうしたら一番得するかを自分たちで計算していくのはなかなかハードルの高いことです。一人ひとりの生活に沿った細かい相談をしたい場合は、ファイナンシャルプランナーへの相談を活用することも一つの方法です。
【プロフィール】
拝野洋子(はいの・ようこ)
社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー。
AFP(上級資格CFPのうち、ライフ、保険、タックス、相続、金融の5科目合格)。日商簿記2級。新聞記事等に執筆。『マネーの達人が教える 老後のお金が増える手続き事典』北山秀輝氏著を監修、他に週刊誌記事等にて監修。社会保険労務士の仕事を行うとともにFPとして家計相談にも応じる。年金相談は対面と電話、メールで対応している。
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