「このまま独り?休日になると孤独感に押しつぶされそう」【専門家に聞く「悲嘆」との向き合い方】

 「このまま独り?休日になると孤独感に押しつぶされそう」【専門家に聞く「悲嘆」との向き合い方】

「悲しみ」は、生きていれば誰でも経験する感情です。悲しみのない人生はあり得ないとしたらゼロにしようともがくより、悲しみと手をつなぎ上手く折り合いをつけるほうに意識を向けてみませんか。必要なのはちょっとした視点の切り替えであり、新たな視点を身に付けると悲しみが運んでくる大切な気付きを受け取ることができます。今回は「孤独感」に伴う悲しみをテーマに、臨済宗曹渓寺の僧侶でグリーフケア(悲しみのケア)にも詳しい坂本太樹さんに話を伺いました。

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捨て去った後、残ったものに目を向けてみる

― 周りの友人は結婚して、気づいたら自分だけ独り身……。休日を一緒に過ごす相手も限られてきてふと取り残されたような孤独感に見舞われることがあります。失う悲しみではなく、得られない悲しみとどう向き合えばいいですか?

「まず、得ようという気持ちを手放してみましょう。私たちは坐禅をいたしますが、坐禅は得るためではなく、余計なものを捨てるために行います。新しく何かを得ようと思って座っていないけれど、捨てた先に図らずも自分に備わっているものに気がついたり、忘れていた感覚や見過ごしていたものを再発見するという形で得るものがあるのが坐禅です。得られない悲しみに見舞われたら必死に追い求めるのを一旦やめて、静かに座り呼吸と共に相手に求めていた条件、自分の考える幸せや理想、周りが結婚したから自分もしなくちゃいけない、あるいは一人は寂しいという考え方を手放してみましょう」

 ― 手放した先に何が見えてくるでしょうか。

「必死に追い求めるのをやめてすっと肩の力が抜けると、全然違う私が立ち現れてもともと備わっていたけど気づかなかった魅力に気づけることがあります。あるいはパートナーに求める条件がゆるくなり、今まで意識しなかった身近な人の良さに目が向いたりするかもしれません。また、相手に求めるだけでなく、等身大のままで自分が何を与えられるかという視点も余計なものを捨てるから見えてくるものの一つではないでしょうか」

孤独って実は贅沢。とことん自分と向き合い味わって

― 独り身の孤独感は、クリスマス、お正月、ゴールデンウイークなど人が集い賑わいが増す時ほど輪郭を帯びてきます。寂しさを超えて悲しいとさえ感じる人もいると思います。

「『無量寿経(むりょうじゅきょう)』という仏教の経典には、『一人生まれ、一人死し、一人去り、一人来る』という文言があります、生まれてくる時も亡くなる時も人間は一人が常であることを意味し、人間はそもそも独りなので孤独に悲しい、嬉しいという感情を挟むものではないという教えが込められています。一方で、現実社会ではたった独りで生きているわけではないのも事実で、私たちの命は必ず常に何かと関わって生かされています。植物や動物の命、水などの自然の恵みをいただいて生かされ、周りの人に支え助けられて生活しています。相対する考え方ですが、どちらも孤独を感じた時の支えになると思います」

― 「人はそもそも独り」と思うと、寂しさにどっぷり浸からず適度な距離を取れるように思います。では、孤独だからこそ味わえる醍醐味はあると思いますか?

「独りはそれだけ自分と向き合える時間が多く、自分のために使える時間がたくさんあるのはとても贅沢なことです。他者と親密な関係を得て孤独でなくなることは、冷たい言い方ですがその分だけ自らの自由というものを手放すことでもあります。悲しい、寂しいと思っていると思考と身体が一カ所に停滞するので、独りの時こそフットワークを軽くして行きたい場所に行き、やりたいことをやり、その一歩が新しい世界とつながり出会いのチャンスも広げてくれると思います」

 ― パートナーがいても孤独を感じる瞬間はあり、まず自分で自分を喜ばせる方法を知っておくのが日々を豊かに生きるうえで必要な気がします。自分の扱い方がわかったうえで、「独りも楽しい、それでも一緒にいたい」という相手が現れると二人でいても楽しく過ごせそうですね。

「その孤独感はパートナーがいないから感じるものなのか、少し冷静になって考えてみるのもいいかもしれません。パートナーや家族ができれば孤独感が消える保証はなく、前提としてその人自身が人生を楽しもうと前向きに取り組む気持ちが大切だと感じます。好きな音楽を聴く、おいしいものを食べる、旅行に行くなど、胸躍るものを一つでも持っておくといいかもしれません」

どんな時も「おかげさま」の気持ちを忘れずに

 ― 仏教では人とのご縁についてどう捉えていますか?

「私は臨済宗妙心寺派の僧侶ですが、この宗派では『おかげさま』という言葉をよく使います。この世に私が存在するのは、両親という二つの命があったからです。その両親は祖父母四つの命があったからです。このように10代ほど先祖を遡ると2000人以上の命があり、その誰一人として欠けても私は存在しなかったことになります。普段の生活でも多くの方の支えと自然の恵みによって人は生かされています。その支えに対する感謝が『おかげさま』です。自分を支え、生かしてくれている様々な存在への恩に報いて生き抜くこと、直接お返しができないとしてもどこかで恩送りをしていくことが良い生き方だと考えられています。また、これは仏教というよりも日本っていいなと思っているところですが、外国の方にHow are you?と聞くと、I’m fineとかgoodと言って自分の状態を答えますが、日本では『お元気ですか?』と聞くと『おかけさまで』と返すことが多々あります。そこには『あなたをはじめ様々な支えのお陰で私は元気でいます』という気持ちが込められているわけで、日本人ならではのこういう心を忘れずにいたいと思っています」

 ― 大人になりしばらく恋愛を休んでいると、恋愛の仕方を忘れてしまったという声も聞かれます。人を好きになる気持ちに年齢制限はないと思いたいですが……。

「それは恋愛の仕方を忘れたわけではないと思います。新鮮味を持つことを忘れたり、素直さよりも大人になって若い頃のように心をときめかせていいものかと恥ずかしさが先に立ち、気持ちに蓋をしているだけではないでしょうか。倫理的に未婚の方に限りますが、人を恋しく思う気持ちはいくつになっても色褪せないはずなので、周りの目を気にすることなく不器用さや恥じらいを含めて楽しみ、自分の思いに気づいたら迷わず前に進んでみると日常に輝きが生まれると思います」

捨てるための「坐禅」 

一日5~10分でも心静かに坐り、自分を調える坐禅の時間を設けてみましょう。姿勢を正し、普段は体が自然に行っている呼吸に意識を向けて調え、心を調えて気持ちいい坐禅を心がけます。何かを得ようとして坐るのではなく、囚われている心を手放し、いらないものを捨ててゆき、その先に自分の心の柱を探してみましょう。

 〈やり方〉

STEP1:姿勢を調える「調身」

1.腰が沈みこまないように、お尻の部分を座布団などで少し高くして胡坐をかく。次に右足を左の腿の付け根にのせ、左足を右の腿の上にのせる「結跏趺坐」を組む。足が痛い場合は片方だけをのせる「半跏趺坐」や、椅子に座って行う「椅子坐禅」で行って。

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イラスト/坂本大樹

2.組んだ足の上に右手のひらを上に向けてのせ、その上に左手のひらを上にして互いの指の部分だけを重ねる。両手の親指がつく寸前のところまで近づけて、手で卵のような楕円形を作る「法界定印」という印相を結ぶ。

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イラスト/坂本大樹

3.足と手が組めたら身体を揺らし自分の重心を見つけ、上から頭を引っ張られているような気持ちで腰、背筋、首を伸ばす。肩の力は少し抜いて、頭を下げないように目線だけを1.5メートル程先の床に落とす。

〈プロフィール〉 

語り手/坂本太樹さん

1985年生まれ。臨済宗妙心寺派 曹溪寺副住職(東京都・港区)。2008年学習院大学法学部政治学科卒業。卒業後、京都妙心寺専門道場で5年間修行。2016年より2022年まで(公財)全日本仏教会に勤務。その後、大切な人を亡くした悲しみなど喪失による悲嘆を抱える人に対する真の寄り添いを学ぶため、2022年4月より上智大学グリーフケア研究所・グリーフケア人材養成課程に入学。(公財)日本宗教連盟 宗教文化振興等調査研究委員会委員を務める。

聞き手/北林あい

活字に関わる職業を志したのは小学校3年生のとき。大学卒業後、制作会社勤務を経てフリーランスのライターに転身しグルメ・旅行メディアで執筆。2009年、30代で左乳房に乳がんを発症し、治療過程で正しい医療情報の必要性を強く感じてがん情報や健康に関する分野の取材、執筆に携わる。その後、がんは寛解してもがんで体の一部とこれまでの自分を失ったショックから心の回復が遅れた経験を機に、2022年4月より上智大学グリーフケア研究所・グリーフケア人材養成課程に入学して悲しみのケアを学び、現在は「心」に関するテーマも執筆。乳がん体験者コーディネーターの資格を取得し、神奈川県の乳腺外科でピアサポート活動も行う。@kitabayashi1101

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取材・文/北林あい

AUTHOR

ヨガジャーナルオンライン編集部

ヨガジャーナルオンライン編集部

ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。



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