フェムテック市場で浮かび上がる、女性を取り巻くウェルネスの課題とは|世界の事例から考える

Getty Images

フェムテック市場で浮かび上がる、女性を取り巻くウェルネスの課題とは|世界の事例から考える

フェムテックは女性のヘルスケアのイノベーションとして期待されて盛り上がる一方で、ビジネスの利益を優先した非科学的なものや、コンプレックスを煽るものが出てきています。女性のウェルネスを取り巻く問題についてご紹介します。

フェムテック元年を過ぎて

フェムテックは”Female” と” Technology”のかけ合わせた造語で、女性の健康に焦点を当てた新しいデジタルテクノロジーとして、生理、妊活、不妊治療、産後ケア、更年期障害、女性特有の疾病などを解決するソリューションのことをいいます。

欧米から生まれたムーブメントで、日本でも数年遅れて注目されるようになりました。
2021年の「新語・流行語大賞」にノミネートされ、経済産業省が「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」を実施してスタートアップを支援し、自民党がフェムテック振興議員連盟を結成するなど、少子化とジェンダーギャップ指数で先進国として遅れをとる日本で政府が「テコ入れ」としてフェムテックを活用しています。

ですが、フェムテックが盛り上がっていくにつれて、女性の健康をサポートしたり課題解決するよりも、「商機」として儲けるためにコンプレックスを煽ったり、医学的根拠のない製品・サービスも増えてきています。

また、単なるデリケートゾーン用ローションやサプリメントなど「テック」ではないものがフェムテックとして宣伝・販売されているとこが問題視されています。「テック」ではないものはフェミニンケアの略語の「フェムケア」と表現するのが望ましいですが、知名度のある旬の言葉として「テック」を使いがちです。

セルフケアとコンプレックスの結びつき

パンデミックで心身の健康を保つ「セルフケア」は注目度が上がり、生活に欠かせない重要なものとして在宅でのフィットネスなどの健康市場は急成長しました。食べること、運動すること、メンタルケア、良い睡眠は、自己管理の一環となりました。

「セルフケア」の商品は悩みから解放されるようなイメージを広告で展開し、消費者としてものを買えば解決できるようなものが溢れています。

その中でも、女性特有の「セルフケア」は個々の持つ悩みと結びつき、コンプレックス商法に絡め取られやすい分野です。
「男性に喜ばれる」「美しくなる」「愛される」といった欲望を叶えられそうな幻想を与え消費を促します。悩みの根源が「他人軸」で、製品の医学的根拠よりも商品の広告にあるキャッチコピーに惹かれてしまう点があります。

他人のために不完全な自分の身体を改善したい欲望は社会の価値観の圧力が影響を与えています。

オーストラリアのグリフィス大学が行ったボディイメージの調査では、美容コンテンツをわずか7分間視聴するだけで若者が自分のボディイメージをネガティブに捉える「大きな影響」の可能性があるという調査結果が出ています
「どう見られるか」「どう思われるか」というものさしは普段、隠されている部分にも及びます。

生理用品ブランドのCallalyは、女性の外陰部にまつわる情報不足とタブー視は、女性に歪んだバイアスを与えているという調査結果を発表しました
本来多様であって当然なのに、教科書やポルノコンテンツで「標準」とされている毛がなく、左右対称、均一な色でないことに落胆し女性器の整形手術を真剣に悩んでいた女性や、自分の外陰部を見ないようにしてきた女性のエピソードが出てきます。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

Callaly(@mycallaly)がシェアした投稿

フェムテックの領域であるSRHR(セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ、性と生殖に関する健康と権利)は、まだまだオープンな議論がされにくい領域です。女性器のセルフケア製品は、参入障壁が低くエビデンスよりもコンプレックスをくすぐる売り文句のものが存在します。
コンプレックスの解決を望む人もいますが、SRHRの権利=人権の視点で見ると、コンプレックスの根源を問うブランドが誠実ではないでしょうか。

非科学的なものと女性のウェルネス

フェムテックを含めて女性のウェルネス製品やサービスは、非科学的なものであっても支持を得る傾向があります。「なりたい自分」になれそうな幻想を与える広告が巧妙な点が大きいですが、科学や医療の歴史で女性が周縁化されてきたことも少なからず影響を与えています。

これまで、白人男性を基準に製薬や治療などの医療は発展してきました。自動車の安全性試験では「平均的な男性」の体型を基準にしていたため、女性や身長の低い人の安全性が軽視されてきたことは、ジェンダー視点の欠落をあらわす事例として有名です。

女性のSTEM分野(科学・技術・工学・数学)への進出が進むにつれて、男性よりも女性の方が健康上のリスクが高いことが問題視され、近年では「ジェンダード・イノベーション」という新領域があらわれ、ジェンダーによる不均衡を無くそうという動きが出てきています。

「ジェンダード・イノベーション」の発展は期待したいところですが、科学や医療の分野で女性のための解決策は長い歴史の中で少なく、周縁に追いやられてきた女性の健康課題は"非科学的"といわれる代替医療が支えてきた背景があります。

今は月経前症候群(PMS)、月経前不快気分障害(PMDD)、更年期障害は病院で治療できるという認識が広まってきましたが、女性ホルモンとメンタルヘルスの関連性を「ヒステリー」という偏見に満ちた言葉で片付けられてきた過去があります。
非科学的であっても、○○療法やマッサージなどで、女性の悩みを解決しようという姿勢を示し、親身に話を聞いてくれる場は価値があったのです。

「不調があればすぐ病院へ」というメッセージは正論ですが、現代も依然として婦人科への敷居の高さがあります。学生など年齢的に一人で行きにくい、待ち時間が長く時間が割けない、狭い地域で詮索がイヤで気軽に行けない、痛い処置をされて怖くなった、診察中の会話で嫌な思いをしたりと理由はさまざまです。

また、無痛分娩を受ける割合は年々増えつつありますが、日本が10%以下に対して海外では50%を超える国の多さがあり、まだまだ差が目立ちます。

科学や医療に頼りやすくなった現代でも、女性の健康課題は多様で、特には精神的な寄り添いは充分とは言えません。非科学的といわれる代替医療が女性のケアを担い、支持を得ているのは、女性たちが科学に対して無知なのではなく、補いきれないニーズの受け皿として機能しているからではないでしょうか。

フェムテックの役割は議論の活性化

フェムテックは様々な課題解決の期待と共に、新たな課題を生み出しています。

2022年6月、アメリカで中絶禁止法が認められ、州によっては人工妊娠中絶を行うことが違法となるという事態になりました。
このとき、生理や性交時期を記録するフェムテックの月経周期管理アプリは「リスク」として捉えられました。いくつかの月経周期管理アプリでは、ユーザーのデータを第三者に提供すると規約に明記しているものがあったためです。
例えば、中絶禁止の州に住む女性が中絶を行った場合、性暴力被害など、どんな深刻な理由があろうとも、法律違反を行ったとして罰せられおそれがあり、その際にデータを第三者提供する月経周期管理アプリを使っていた場合、言い逃れできない証拠として法で裁かれる可能性があるためです。
フェムテックがプライバシーのリスクをかかえていることが明らかになった事例です。

億万長者ピーター・ティールが投資したことで話題になったフェムテックアプリ「28」は、月経周期に合ったフィットネスを提案するユニークなアプリです。ブランドメッセージとして保守的な女性らしさを啓蒙しています。先進的な女性像を打ち出すことの多いフェムテックで保守的な女性像を打ち出すブランドが出たのは「多様性」ともいえます。
しかし、低用量ピルなど科学的なホルモン治療に対して懐疑的な意見を表明していることが問題視されています

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

28(@28wellness)がシェアした投稿

女性のSRHRという切実な領域に、単なる金儲けや歪んだ知識の押し付けやプライバシー危機が隣り合わせにあるのはおそろしいことです。
ただ、これらはフェムテックができる以前からある問題でもあります。特に性教育後進国ともいわれる日本で語られる機会が少なかったことでもあります。

語られることは世の中に大きな影響力を持ちます。
文学研究者のジョナサン・ゴットシャルは、人間をストーリーテリング・アニマル(物語を語る動物)と定義しています。
アメリカで同性婚に賛同する意見が急速に増えたことについて、政治家が同性婚支持を表明しただけではなく、ゲイをテーマにしたドラマ作品(例『ふたりは友達? ウィル&グレイス』など)のヒットが人々の考えを変容させたとゴットシャルは言います。
語られないものは「無いもの」同然の扱いになります。フェムテックを肯定しても否定しても女性の健康をめぐる課題について口火を切るきっかけになります。

SRHRは人権に関わる問題です。
これまで語り合うことが足りていなかったことについて、語る機会が増えたのはフェムテックの大きな功績だと考えます。

AUTHOR

中間じゅん

中間じゅん

イベントプロデュースや映像制作を経て、ITベンチャーに。新規事業のコンセプト策定から担当。テクノロジーとクリエイティブをかけ合わせた多様なプロジェクトの設計に参画。社会課題やジェンダーの執筆活動を行う。

RELATED関連記事