【睡眠改善インストラクターが解説】お風呂が鍵!質の良い睡眠と、疲れ知らずの体を作る「入浴の法則」
なかなか寝付けなかったり、暑くて目が覚めてしまったり。そんな夏の夜の寝苦しさを解消するには、どんな方法があるのでしょうか。今回は、日本薬科大学 医療ビジネス薬科学科の特任教授であり、睡眠改善インストラクター&温泉入浴指導員の資格を持つ石川泰弘先生に、睡眠の役割からお風呂が鍵を握る快眠のコツまで。疲れ知らずの体を作る睡眠法&入浴法をお聞きしました。
疲れを取るには睡眠!最初の3時間が重要
――そもそも睡眠には、どういった役割があるのでしょうか。
石川先生:人はなぜ寝るか。研究者の中でも議論がありますが、生命維持システムであることは明らかです。睡眠にはノンレム睡眠とレム睡眠があって、眠りについて最初にくる深い眠り、ノンレム睡眠で成長ホルモンが多く分泌されます。栄養を吸収したり、骨を作ってくれたり。分泌量は減りますが、これは高齢になっても出てくるものなので年を重ねれば重ねるほど、いい眠りが必要になってきます。
そして、後半の浅い眠り。レム睡眠ですね。記憶にインデックスを付けて、脳を整理している時間だと言われています。前半は身体、後半は脳といった感じですが、一番の役割は疲れを取ること。
よくお風呂で疲れが取れる、と言いますけど実はお風呂で取れる疲れは精神的なもの。血の巡りがよくなるなどの効果はありますが、肉体的な疲れはやっぱり寝ないと取れない。お風呂は疲れを取る準備をするものと考え、お風呂と睡眠はセットで考えて1日の疲れを癒すのがいいのかなと思います。
――22時~深夜2時が睡眠のゴールデンタイムと言われますが、そこも意識した方がいいのでしょうか。
石川先生:あれは真っ赤な嘘です(笑)。その時間帯に寝つく人が多いのであながち嘘ではかいかもしれません(笑)。成長ホルモンに分泌は何時に寝ても最初にくる3時間程度の深い眠りです。何時に寝ても最初の3時間が、その人のゴールデンタイムだと思います。
季節と同じで人間の身体にはリズムがあり、一番体温が低いのが朝の4~5時。時間とともに上がってきてピークは午後6~7時で、あとは下がっていく。誰もがそういうサインカーブを描いているのですが、夜に必ず体温が下がるというのは、睡眠をとるためでもあるんです。人間は体温が下がると眠くなるんですよね。ですから、眠るときに体温をスムーズに下げると、いい眠りを取りやすくなります。
眠る1時間半前にお風呂に入ると寝つきがよくなる
――体温が高いときは寝つきにくいということでしょうか。
石川先生:そうですね。体温を下げられると眠りやすくなるので、女性は月経の黄体期など基礎体温が高いときは眠りづらくなるのではないでしょうか。あと、一番分かりやすいのは赤ちゃん。手や足を触ったときに温かくなっていたら眠いときと言いますけど、あれは体温を下げるために熱を放出しているからなんです。
そう考えると、お風呂がいい睡眠をとるトリガーになっていることが分かっていただけるかなと。お風呂に入ると体温が上昇しますが、身体はそれを平常時まで下げようとするんですね。そういった温度変化で眠くなってくる。夏もシャワーより湯船がいい、という理由の一つがここにあります。シャワーだと体温がなかなか上がらず、体温の変化が表れないため、眠りの導入に繋がらないということです。
――入浴と睡眠がセット、というのが腑に落ちました。スムーズに寝つくためには、何時間前までに入浴したらいいのでしょうか。
石川先生:体温が下がってくるのにも時間がかかるので、大体1時間半くらいあるといいのかなと。でも、早めにお風呂に入ってしまうこともあると思うので、そういうときは足湯や手浴を利用するのがおすすめです。手浴なら、心臓に近いのでスッと温まりますし、お手軽ですよね。時間は、20分くらいを目安にしてもらうといいと思います。
――よりよい睡眠のために入浴剤は使った方がいいのでしょうか。選ぶときのポイントは?
石川先生:入浴剤は温浴効果をさらに高めるものなので、もちろん使った方がいいとは思います。湯上がりポカポカ、という効果をより高めたいなら硫酸ナトリウムなどが配合されている粉もの。立ち仕事や筋肉を使った運動のあとなどは、シュワシュワする炭酸ガス系。お湯に溶け込んだ炭酸ガスが血管を弛緩してくれるので、皮膚の表面の血の巡りが非常によくなる。血行促進を高めてくれます。
保湿を考えるなら、液体のスキンケアもの。生薬系は作るのが難しいんですが、ツムラのバスハーブはすごく温まりますね。夏によく見かけるクール系には血流促進効果があるメントールが入っているので、涼しさを感じるけど実際は入浴効果を高めて温まるというメリットがあります。暑いけどお風呂には入りたいな、という人にはおすすめですね。
とはいえ、一番は自分の体調や好みに合わせて使い分けること。あとは、必ず裏面を見てください。風呂釜のことと残り湯が洗濯に使えるかどうか。業界のルール的に記載しましょう、となっているものですので、明記されていればさらに安心ですね。メーカーの姿勢がそこに現れていると思います。
夏のエアコンは3時間タイマーで!
――お風呂に入ることのほかにも快眠のコツはありますか。
石川先生:夏はやっぱりエアコンをうまく使って眠りやすい環境を作るのが大事ですね。タイマーは成長ホルモンが出る3時間にあわせてセットする。扇風機もいいと思いますが浅い眠り、ノンレム睡眠のときに風が当たるとそれが刺激になって目が覚めてしまうことがあるので、使い方には注意が必要です。
あとは、パジャマに着替えること。これを着たら寝るんだな、と身体が覚えてくれますから。血の巡りが悪くなってしまうので、関節を締め付けないものがいいと思います。
――なかなか眠れないときにやってはいけないことはありますか。
石川先生:焦って寝ようとしないこと。本を読んだり、勉強したり。眠気が来るまで焦らないことですね。一度読んだことのあるマンガや本を読むのもいいと思います。ストーリーが分かっていると人は安心するんですよね。安心できる環境を作るといつ寝てもいいんだなとなりますから。
――先ほど最初の3時間が睡眠のゴールデンタイム、という言葉もありましたが、石川先生が考える理想的な睡眠時間は?
石川先生:日中、眠くならない時間であれば何時間でもいいと思います。具体的な時間をよく聞かれますが、こればかりは人それぞれ。日中、眠くならないということは、睡眠が足りているということですから、何時間寝なくちゃいけない、ではなくて自分が日中、眠くならないような睡眠時間が理想だということです。
とはいえ、成長ホルモンのためには3時間は確保した方がいいと思いますし、脳内の老廃物は睡眠中に除去されているので、ある程度しっかりとした睡眠時間は必要ではないかなと。例えばアミロイドβというアルツハイマーのリスクが上がると言われているタンパク質。これも寝ている間に除去されているのでは、と言われていますよね。
加えて、レプチンというエネルギーを消費促すホルモンも睡眠時間が多い方がたくさん出ているという研究報告がありますので、よく寝た方がエネルギー消費が多くなり、痩せやすくなる。そう考えると睡眠は疲れを取るだけでなく、さまざまな役割がありますね。
――最近は睡眠導入剤など、質のいい睡眠にこだわる人が増えたように思います。睡眠改善インストラクターとしても活動されているなかで、気になっていることはありますか。
石川さん:ようやく睡眠に対して、意識が高くなってきたんだなという思いもありますが、変に意識しすぎではないか、と思う部分もあります。日中、普通に活動出来ているのに睡眠の質が悪いかもしれないと思ってしまう人が多すぎるのではないでしょうか。
睡眠だけをよくしようと思うのではなく、入浴で血の巡りをよくしたり、リラックスしたりして日常生活を整えることが質のいい睡眠に繋がるはず。1日24時間のなかで、人間は交感神経優位でいるときの方が多い。ですから、夜くらいはお風呂と睡眠で自分を癒して副交感神経を優位にする。バランスをうまく取っていくことが、疲れ知らずの体を作るポイントではないかと思います。
教えてくれたのは…石川泰弘教授
日本薬科大学医療ビジネス薬科学科スポーツ薬学コース特任教授、スポーツ健康科学博士、温泉入浴指導員 、睡眠改善インストラクター 。2006年より㈱バスクリンで「きき湯」を大ヒット商品に。「お風呂博士」として多くのメディアでPR活動を実施。全国各地で温泉や入浴、睡眠に関する講演を行う。ラグビー日本代表などトップアスリートにリカバリーに関する講演を実施。2021年4月より日本薬科大学 医療ビジネス薬科学科 スポーツ薬学コース特任教授に就任。2022年4月より日本薬科大学 漢方アロマコース委員長に就任。著書に「バスクリン社員が教える究極の入浴術 お風呂の達人」(草思社)、「バスクリン社員がそっと教える肌も腸も健康美人になる入浴術26」(スタンダードマガジン) 、「たった一晩で疲れをリセットする睡眠術」(日本文芸社)、「たった一晩で疲れが取れる睡眠法」(ゴマブックス)がある。
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ヨガジャーナルオンライン編集部
ストレスフルな現代人に「ヨガ的な解決」を提案するライフスタイル&ニュースメディア。"心地よい"自己や他者、社会とつながることをヨガの本質と捉え、自分らしさを見つけるための心身メンテナンスなどウェルビーイングを実現するための情報を発信。
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