睡眠の質を上げる「ヨガニードラ」の効果とやり方【ヨガと睡眠 ♯9】

 睡眠の質を上げる「ヨガニードラ」の効果とやり方【ヨガと睡眠 ♯9】
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井上敦子
井上敦子
2019-07-24

『なかなか寝付けない』『眠りが浅い』等、睡眠に関する悩みを抱えていませんか? 日本では、一般成人の5人に1人が睡眠に関する悩みを抱えているといわれています。 多くの人が抱える睡眠に関する悩み。ヨガの実践が、その睡眠の質を上げることは広く認知されている事実です。 ここでは『眠りのヨガ』といわれるヨガニードラを通じて、ヨガ的観点から睡眠の質を向上させていく方法をご紹介していきます。

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ヨガの練習としてのヨガニードラ

ヨガニードラは直訳すると『ヨガの眠り』。この『眠り』というキーワードが、しばし通常の睡眠と混同されてしまうこともありますが、ヨガニードラは紛れもなく覚醒した状態で行うヨガの練習の一つです。では、ヨガニードラとは一体どのようなヨガの練習なのでしょうか?ヨガの練習としてヨガニードラをとらえた場合、それは八支則でいう5番目の段階『プラティヤハラ』の練習になります。プラティヤハラとは五感(知覚、聴覚、味覚、視覚、触覚)を内側に向け、その五感を内側に留めること。この段階を経て瞑想状態へと向かっていくので、ヨガニードラは瞑想の前段階の練習としても適しています。ヨガニードラを瞑想と分類する場合もありますが、正確にはヨガニードラはプラティヤハラの練習で、その過程で結果的に瞑想と同じ状態に導かれることがあるという解釈が、古典的なヨガニードラの解釈になります。

また、ヨガニードラには絶大な疲労回復効果があるため、リラクゼーションや疲労回復効果を求めてヨガニードラに取り組むことも多くあります。これは間違えではないですが、あくまでヨガニードラの練習の過程で結果として得られる効果であって、それを求めてヨガニードラを実践してしまうと本来受けられるべき恩恵を十分に受けられないことも。ヨガを実践する方であればぜひ、リラクゼーションの枠を超えたヨガニードラの練習にトライしてみましょう。今回は、ヨガの練習としてヨガニードラをとらえた場合、どのように練習を進めていくべきか、また結果的にどのような結果が得られるのか、お伝えしていきます。

プラティヤハラとは?

プラティヤハラの説明をもう少し詳しくしていきましょう。八支則をご存知の方でも、プラティヤハラの練習を単独で行っている方は恐らく少ないのではないでしょうか。プラティヤハラは、アーサナプラーナヤマといった外面的で身体的な練習から、ダーラナディヤーナサマディへと内面の心理的練習に入る架け橋となる段階です。プラティヤハラが持つそのエネルギーは、私たちを外向きの意識から自由にし、外側の情報を集め行動したいという欲からも私たちを自由にします。私たちの五感は、外側の世界へ向かうように出来ています。社会生活を営むためには、五感を外に向けてひらいておく必要があります。そして、その外側の世界の情報を、内側に伝える役割を持つのが五感です。私たちは、知覚、聴覚、味覚、視覚、触覚のいずれかを使いながら、外側の世界と繋がっています。外側の世界と内側の世界を繋げる役割を担った五感は、放し飼いをしていると、外へ外へと向かっていく習性があるのです。

プラティヤハラの練習では、この外へ向かっていく五感をあえて意識的に内側に留めようとします。外へ向かっていく習性があるのだから、内側に留めるのは容易なことではありません。唯一、睡眠時にはこの状態を苦労なく体験することが出来ますが、睡眠以外の覚醒した状態で五感を内側に保つためにはある程度の鍛練が必要になってきます。ヨガニードラでは、身体を休めて意識を覚醒した状態に保つます。覚醒した状態で、五感を内側に留める練習をするのです。聴覚だけはうっすらと外側に向けるというのが特徴ですが(ガイダンスを聞くため)、練習を続けていくと、聴覚も内側に向いた完全なプラティヤハラの状態をしばしば体験するようになります。それは、瞑想の入口に立った状態。ヨガニードラの練習で五感の扱い方をマスターし、そこから深遠な内なる世界へ向かう旅が始まるのです。

リラクゼーションの先へ

前にも述べたように、ヨガニードラでは心身の深いリラックスが得られます。ボディースキャンと呼ばれる身体の力を抜いていく練習を通じて、肉体を最大限にリラックスさせていくのです。しかしながら、そのリラックス=身体の脱力は、ヨガニードラの最終目的ではありません。目的はその先にあります。その目的とは、プラティヤハラの状態を保ちながら身体感覚を手放すということ。私たちは日常の生活の中では、身体=自分自身だという概念を強く持っています。もちろん、身体は私たちの一部ではありますが、それが全てだと感じてしまうのが日常の生活。それに対してヨガの練習では、身体や心や五感といった日常の中でフル活用しているものを、自分自身の本質と切り離して考えます。

ヨガニードラの練習を続けていくと、身体の感覚を完全に手放した状態を体験することが出来ます。それでもそこに残り存在している自分を体感したとき、私たちは本質的な自分に出会うのです。自分の本質に出会い、その存在を確認する。身体や心といった変化し続ける私たちを構成する要素を手放していった先に残るのは、変化することのない本質的な自分です。それを、微妙にニュアンスは異なりますが、プルジャやアートマ―、イーシュワラと呼びます。ヨガニードラの練習は、感覚を内側に向ける練習に始まり、最終的には自分の本質に出会う奥深い旅です。この感覚に行きつくまでには練習を重ねる必要はありますが、ヨガニードラをヨガの練習としてとらえて取り組むことで、その道は開かれます。ぜひ、楽しみながら奥深いヨガニードラの旅を続けていって下さい。

ライター/井上敦子
15年間の会社員生活を経てヨガ講師に転身。不眠症をヨガで克服した経験を持つ。リラックスが苦手だった経験から、ヨガニードラを通じてリラックスの本質を伝えるクラスを展開。週に8本のヨガニードラのレギュラークラスを持つ他、指導者養成講座やコラム執筆等ヨガニードラの普及に努めている。Instagram:@yoga_atsuko.inoue 

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