友人の失恋から考えた、「結婚ってなんだろう?」ということ|チョーヒカルの#とびきり自分論

Cho Hikaru/yoga journal online

友人の失恋から考えた、「結婚ってなんだろう?」ということ|チョーヒカルの#とびきり自分論

誰かが決めた女性らしさとか、女の幸せとか、価値とか常識とか正解とか…そんな手垢にまみれたものより、もっともっと大事にすべきものはたくさんあるはず。人間の身体をキャンバスに描くリアルなペイントなどで知られる若手作家チョーヒカル(趙燁)さんが綴る、自分らしく生きていくための言葉。

ブルックリンの古いアパートに一緒に住んでいるルームメイトのカリーナが、5年付き合っていた彼氏に振られた。トルコとアメリカ間の時差たっぷりの遠距離恋愛を3年半続け、彼女としては「プロポーズ待ち」だった春先の出来事だった。それは本当に突然で、タピオカティーを買いに行くのでついでにカリーナにもいるかどうか聞こうと思ってメールをしたら

「別れた。しばらく大丈夫じゃないです。」

というメールが返ってきた。

とりあえず前回彼女が頼んでいたミルクティーを買って急いで戻ると、泣き腫らした顔のカリーナがキッチンの床に座っている。ことの大きさに私は何もコメントできず、タジタジとしながら、とりあえず今彼女がハマっている、「ゲームオブスローンズ」というテレビドラマについてたくさん質問をした。必死に気を逸らすように、3時間かけてカリーナは全てのキャラクターの関係性を説明してくれた。

「絶対に結婚するって思っていたのに。」

「彼との将来を思い描いていたのに、もうどうしたらいいのかわからない。」

ポツポツ呟きながら、彼女は一週間仕事を休みご飯もほぼ食べずに泣き尽くした。

5年付き合った人、別れると思ってすらいなかった人に振られるというのは、体の一部がちぎれてしまうような痛みだろう。

しかしだ、それからしばらくして涙が枯れてきた頃、反動のように彼女はイケイケな出会いアプリに登録をした。そしてみるみる色々な男性とマッチし、毎日デートに行くようになった。側から見ればやけになったかのように見えるかもしれないし、その側面がないかと言われればもちろんあるだろう。

だけどデートを繰り返し出会った男性たちの話をする彼女は確実に日々美しくなり、「絶対に結婚をすると誓っていた彼」と付き合っていた頃の何倍も明るい笑顔をするようになっていた。

今日もデートだといい、深い緑のラメのドレスに濃い紫の口紅で鏡の前でポージングをしているカリーナにふと聞いてみる。

「結婚から遠ざかったの、辛い?」

自分で染めた金髪をお団子にまとめあげながら彼女は鏡越しにこちらをみる

「私、結婚ってもののこと何も知らなかったのに、そこに全ての信頼を置いていた気がする。これがあるから大丈夫だって、安心する理由にしていた。でも結婚の安心感と引き換えにいろんなことを我慢していたって最近気づいたの。」

「確かにね、仮に結婚しても、離婚率だって相当高いし。」

相槌を打つと、彼女がずいっと迫ってくる

「そう!絶対大丈夫だって思ってもそんなこと本当の本当には誰もわからないの!結婚したって結局浮気して別れちゃうんだから!」

そこまで言い切らずとも……と思いながら、確かになあと思う。そもそも結婚の選択肢を持っているマジョリティ側だけの視点の話になってしまうけれど、私自身も結婚については「いつかするのかもな」とふんわりと思っていた。「料理が下手だから結婚できないかも」と凹んだり、「この人とはどうせ結婚できないから時間の無駄」と誰かを見限ったり。同級生が結婚すると焦ったし、自分の予定のなさに絶望した。したいかしたくないかもわからないのに、結婚は当たり前のように選択の基準になっていた。そこにはなんとない安心感があったのだ。

何もわからない手探りの未来の中のほんの少しの見通し。結婚という踏石を基準に作戦をたて、なんとなく人生をコントロールできているかのような感覚を得られる。だけど結局それはまやかしなのかもしれない。

考え出してしまえば、結婚という制度自体、かなり時代に合っていないように思える。異性婚しか認められていない日本では尚更だ。パートナーと何かを誓い合うことや遺すこと、政府がそこに介入してくることの意味がわからない。良いところがないとは言わないけれど。

短いドレスの上にふわふわのカーディガンを纏ったカリーナが鼻歌を歌っている。あんなに結婚をしたがっていたのに、それを失った今、彼女は何倍も楽しそうである。

「未来なんてどんなに予定立てても結局わかんないの!」

困ったような顔をしながら、まるで羽が生えたように自由だ。結婚したっていい。でも結婚しなくても、別にいい。自由なことが悪いことであるはずがない。

AUTHOR

チョーヒカル

チョーヒカル

1993年東京都生まれ。2016年に武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科を卒業。体や物にリアルなペイントをする作品で注目され、衣服やCDジャケットのデザイン、イラストレーション、立体、映像作品なども手がける。アムネスティ・インターナショナルや企業などとのコラボレーション多数。国内外で個展も開催。著書に『SUPER FLASH GIRLS 超閃光ガールズ』『ストレンジ・ファニー・ラブ』『絶滅生物図誌』『じゃない!』がある。 https://www.hikarucho.com

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