「肩こりが治ったら執着も消えた」心の断捨離リアル体験とは|龍村修氏にインタビュー
掃除や片づけをイメージが強い「断捨離」ですが、本来の意味は執着を断ち、自分をコントロールするための行法。「断捨離」という概念を生み出した沖ヨガ創始者・沖正弘氏が遺した思想やメソッドを受け継ぎ沖ヨガの修道場長を務めた龍村修氏に、物や人への執着や未練を手放す方法を聞く連載企画。第3回は、ご自身の断捨離体験を教えてもらいました。
体のコリがほぐれたら、心の執着も消えた!
――――前回のインタビューでは、実生活でできる未練や執着を手放す方法についてお聞きしましたね。龍村先生は、執着やとらわれが無くなったという、印象的な出来事はありますか?
学生時代に演劇をやってた時、野口三千三さんがつくった野口体操をやる機会があったんです。その体操を続けていると、ある時ふと肩や首にコリがなくなっていることに気づきました。それから学生時代ってほら、女性を追いかけるじゃないですか(笑)それで、失恋しては落ち込む。ところがその体操をやりはじめてから、ぱっと落ち込んでもすぐ元通りになるわけ。
――すごい!!
つまり執着が少なくなってるんですよね。前は「どうしても!」っていうのがすごくあったのが、「まあいいや」と思えるようになっている。コリっていうのは執着なんですよね。肩や首がこっているということは、肉体面に執着、偏りがあるということです。肉体面の執着が取れると、心の執着も取れてくる。これは面白い!と思いました。
実は野口さんは沖正弘先生から学んでいて、野口体操の中にヨガが含まれていたんです。僕は、その頃は沖先生のことも知らないし、哲学も知らないままやっていましたよ。
視点を変えると自分の心が変わった!
それからもう1つはね、逆立ちしてる時に逆立ちしてる感覚がなくなったこと。これが面白かった。完全に真っすぐ立つと余分な力が抜けて、上下や前後という空間の概念がなくなって、ただ今ここに在るという心だけになっちゃう。物の見方、考え方が世界を変えちゃうっていうのかな。外側の世界というより、内側の世界のおかげで違ってみえるわけ。そういうことを、頭ではなく体で感じることができましたね。
時間というのも一定に流れていると思っているけど、感覚的にみたら一定じゃない。例えば、好きな人と一緒にいる時間は短く感じるけれど、面白くない時間は長く感じますよね。人間は心の在り方のなかで時間を認識しているわけです。そんな風に自分の物の見方、考え方が変わると自分の心も変わってくるんです。
例えば会社に勤めていて、「こんなに忙しいのになんでこんなに給料低いの?こんな会社嫌だ!」って思っていても、見方を変えたら「今までにない経験、勉強ができて、これは私の精神的な成長の役に立つ会社だ」と思えませんか?視点を変えてみると、悪いことが良いことに思えたりするんです。
――物事の視点を変えてみるのですね。意識的に行なうことで身につきますか?
それもそうですが、物の見方を変えることを、自分の体を通して教えてくれるのがヨガなんです。
例えば、腰を回してみて下さい。その後に耳を1分間くらいマッサージすると、腰の回りが良くなるんです。両手の中指を30秒ずつ反らせてると、背骨が反りやすくなります。こういった経験をすると「耳や手は独立した部位」と思ってたのが「全身は繋がってるんだ」という物の見方に変わるでしょう。そういう体験をしておくことで、日常生活でも困った時の対処方法が増えるわけです。
呼吸法や瞑想もそうです。2018年に、タイでサッカーチームの少年とコーチが洞窟に閉じ込められた事件がありました。救助が来るかどうか分からない状態で、何日も空腹に苛まれながら、心を平静に保つのは非常に難しいと思います。しかしコーチの指導で瞑想を行い平静を保つことで、壁を伝って流れてくる水だけを飲みながら空腹に耐えていたそうです。「どうしよう!?助かるかな!?」なんて考えてパニックを起こしたらものすごいエネルギーを消耗して、助けがくるまでもたなかったかもしれません。
ヨガは自分の生命がイキイキするように、心と体を自分で鍛錬していく方法を段階的に説いている教えになります。自分の体に偏りがあるから痛みがでるし、心に偏りがあるから苦しみが起こるのです。ですから沖先生は「自分をよく観察し、自分の体をテキストにして学べ」と仰ってました。
執着を手放す秘訣は、意識的に「違うこと」をする
――なるほど。自分の体をテキストに、偏りのないバランスと取れた生き方を学んでいくのがヨガなのですね。偏り、執着を減らしていけるような生活習慣はありますか?
同じことを繰り返さないことです。慣れは中毒になり、それが執着になるんです。命あるものはどんどん変化する。変化することは自然なことのです。同じ動きを繰り返してばかりいると不自然な偏りが生まれ、そこから執着が生まれます。
脳の話をすると、150億の細胞、10兆とか100兆とかすごい数のシナプスがあるわけです。同じようなことしかしていないと、使っている回路が決まってしまい、頭の働きが悪くなる。体も同じような使い方をしてるから、いつも同じ部位ばかりがこる。そんな時は違うパターンで体を動かしてみることです。できるだけ1つ1つ違うやり方を生活の中に取り入れ、様々な刺激を与えることで、偏り、とらわれ、執着は減っていきます。
――同じことを繰り返さないで、色んなやり方を取り入れることが大切なんですね。食事や運動を変えたり、色んな人と話したり、色んな場所に行ってみたり。
その通り。様々なやり方、刺激を生活の中で取り入れていたら、いろんな出来事に対して対応力、適応力が身についてきます。ヨガのポーズに関しても同様で、同じポーズを繰り返すだけでは適応力は身につきません。沖ヨガ道場では、普通のポーズに無い動きを沢山実践します。ジャンプしたり、でんぐり返りしたり、蛇のように這ってみたり、高いところから飛び降りたり…。走るにしても、前だけでなく横向き、後ろ向きで走ってみたり、本当に様々な動きをして沢山の刺激を体に与えているんです。
すると脳の回路も増え、何かあった時ぱっと適応、応用できるようになるのです。生活の中でも、右ききの人はたまには左手でご飯を食べてみるとか、浅い呼吸をしている人は深い呼吸してみるとか、今日は駅まで早歩きで行ってみるとか、工夫次第で違う刺激を与えることができます。
私は沖ヨガ道場に、沖先生がいらっしゃる間は13年、その後も合わせて合計20年いました。そのころは毎日毎日本当に色んなことありました。多い時は200人もの老若男女が来ていましたから。
――色んな人と関わりますよね。その生活も執着がなくなる生活でしたか?
そうですね。本当に沢山の人に会いました。外国人も来るでしょ?初めは外国人だって思ってるんだけど、そのうちに外国人に対する偏見だとかとらわれとかは少なくなりました。毎日毎日色んなことが起こるので、1つのことに拘っていられないですし、それこそ適応能力が身に付き、動じない心ができたと思います。
次回は物や人への未練を断ち切る沖ヨガポーズと呼吸法のレクチャーです。お楽しみに!!!
教えてくれたのは…龍村修先生
龍村ヨガ研究所所長。NPO法人沖ヨガ協会理事長。NPO法人日本YOGA連盟副理事長。国際総合生活ヨガ研修会主宰。1948年兵庫県生。早稲田大学文学部卒。
学生時代の演劇活動の中でヨガに出会い、73年求道ヨガの世界的権威、沖正弘氏の内弟子になる。以後、師に同行し世界10数カ国以上でヨガ指導経験を持つ。1985年師の没後、沖ヨガ修道場長を経て1994年独立。ヨガや東洋伝統の英知を活用する心身づくりを提唱している。ヨガの講座と並び、最近では瞑想の講座も人気を博し、全国で瞑想の素晴らしさを伝えている。主な著書に、『眼ヨガ』『指ヨガ健康法』(以上、日貿出版社)、『体の中からキレイになる 龍村修のヨガ教室』(日経ヘルス)、『深い呼吸でからだを癒す』(PHP研究所)など多数。
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