「女性だから」家事育児に主体的?働きたくても働けなかった反動でワーカホリックに【経験談】

 『女40代はおそろしい 夫より稼いでたら、家に居場所がなくなりました』(幻冬舎)より
『女40代はおそろしい 夫より稼いでたら、家に居場所がなくなりました』(幻冬舎)より

『女40代はおそろしい 夫より稼いでたら、家に居場所がなくなりました』(幻冬舎)では、夫より稼ぐ3人の40代女性が仕事・家庭・性のことに直面する様子が描かれています。作者の田房永子さんも40代。制作の背景にある思いや、ご自身のご経験について伺いました。

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家事育児に主体的な理由は「女性だから」ではない

——本作は『大黒柱妻の日常 共働きワンオペ妻が、夫と役割交替してみたら?』(エムディエヌコーポレーション)の続きとなっているのですよね。田房さんも「大黒柱妻」のご経験をされているのでしょうか?

「大黒柱妻」とは夫より収入が多く、生活費を7割以上負担している妻のことを指します。私自身はその定義に当てはまらないのですが、主人公のふさ子さんと同じように、子どもが生まれてから働きたくても働けなかった時期が長かったので、保育園のお迎え担当が夫に替わったとき、反動でワーカホリック(仕事にのめり込む)のようになって、家族をあまり顧みない時期がありました。

私自身の経験のほか、大黒柱妻の経験がある20人程度にアンケートをとったり、お話を伺ったりもして「あるある」を取り入れた作品です。

——田房さんが一人目をご出産された頃、10年ちょっと前は出産後に女性が働くことのハードルの高さが今とは違ったと思います。

「産後女性は育児に専念するのが当たり前」が世間に定着していたので保育園が足りず、仕事をなくなく辞める女性がほとんどでした。私も子どもが生まれてからは、仕事のやる気はあるのに、状況的に社会から働くことを許されていないような感覚を覚えていました。具体的に誰かから命令されているわけではないですが、社会全体から「お前は今働かなくていいでしょ」と言われているような。

当時は、待機児童問題が注目を集めていた時期で、杉並区の保育園一揆が始まった前年に私は上の子を産んでいるのですが、妊婦や赤ちゃん連れの産後女性が、保育園入園申請のために役所に通わないといけないシステムで、そうやってがんばっても落とされる。国が保育園を用意してないから。この頃から少子化が問題視されている中で、「出産して子育てしながら働いて税金を払います」と言ってる人に対して「働くな」って言うのは社会として間違っていると思っていました。

——田房さんご自身はどうやって仕事を続けていったのでしょうか。

私は「絶対に仕事を辞めない!」と思っていて、当時は「子育ては女性の仕事」という認識だった夫にキレながら説明して、自分の時間を確保していきました。

世間の空気的にも「家事育児は女性の仕事」という感覚が強くて、妊娠中にプレママ講座を受けたときに先輩ママから「旦那さんにはゴミ捨てぐらいはできるようになってもらった方がいいよ」と言われて、衝撃を受けました。ゴミ捨てなんて絶対にやらなきゃいけないことなのに「ゴミ捨てすらしない夫」が世の中には普通にいて、ゴミ捨てしてもらえるように頼むのも妻なの? 女って大変すぎる、と絶望しました。

私は過去の作品でも描いているように、親に頼れる感じではなかったので、夫婦2人でなんとかするしかなかった。でも、こうやって自力で壁を乗り越えていかないと、女性が働き続けるのは難しかったんです。自己責任にされていました。

私の周りには、夫に「家のことをもっとやってほしい」と言えない人、会社からの「退職してほしい」という圧力から辞める選択をする人もいて、それまで生き生きとしていた周りのママたちが弱々しく見えたことを覚えています。

——ものすごく個人で頑張らないと、女性が子育てしながら働くことが難しかったのですね。

上の子を産んだときは、周囲とのギャップを感じました。たとえば夜にトークイベントに出ると「なんで田房さんは夜に出られるんですか?」と、怒り気味で聞かれることもあって。その人は夜に仕事をしたくても、到底できない状況で、私にぶつけるしかないんですよね。

それは気の毒だと思いつつも、ストレートに怒りをぶつけられると「結婚相手を選ぶ時点で、先を見越して一緒に育児やってくれそうな人にしてるし」って思っちゃう自分もいて。でもそうやって女性同士で対立させられるのって、「男社会」の思惑通りだなって。

そういうことにも疑問を抱いていたので、『大黒柱妻の日常』では、家事育児の主体性は、男女の違いじゃなくて、役割や立場の問題ということを描きたかったんです。よく「母親は自分の体から産まれるから/母乳が出るから違う」みたいな言説がありますが、女性だって仕事に夢中になっていれば家族のことを忘れてしまうことだってあるんですよね。

『女40代はおそろしい 夫より稼いでたら、家に居場所がなくなりました』(幻冬舎)より
『女40代はおそろしい 夫より稼いでたら、家に居場所がなくなりました』(幻冬舎)より

ないことにされてきた女性の「性」の悩み

——本作では、中年女性の性のことをかなり丁寧に描かれています。 これまでモヤモヤしていたことがあったのでしょうか?

昔から、男性の性を満たす手段が手軽で充実しすぎていることはおかしいと思っていました。若いときに性的欲求がものすごく高まっていた時期があったのですが、相手がいなくて。知り合いの人を思い浮かべて、気まずくならなそうな人がいるかとか、考えていたくらいだったんです。

でも結局、私が求めていたのは「ちゃんとしたセックス」なんですよ。普段「いい人」だと思っている人も私とセックスしたいか、さらに相性が合うかはわからない。だから知り合いを誘うのはリスキーすぎました。

行くかどうかは別として、男性は社会的に風俗という性的な欲求を満たす手段が用意されてきたわけですよね。今は女性用風俗もありますが、昔は女性が性的欲求を満たす手段が本当になかったので、その男女差に怒っていました。

——女性の性について語られるようになったのは、ここ数年のことですが、田房さんが以前からそういう思いを持っていたのは何かきっかけがあったのでしょうか?

20代の頃は、エロ本に関わる仕事をしていて、 性風俗店に取材に行くことも多くて、日々、男女の非対称性を感じていたことが影響していると思います。

でも10代の頃から疑問には思っていて。男性のマスターベーションは当然のこととして語られるのに、女性のマスターベーションについては友達とでもタブーだったり、男性の下ネタトークに笑ったりすると「意味が分かるなんてエロい女だ」とか言われたりする空気に違和感があって。

私は会話に入りたかったですし「女子の性欲はさ~」みたいな話もしたいなと思っていた。でも実行したら、男子たちのシャッターが下ろされるんですよね。そうやって男子たちが「性の話は男のものだ」って感じで振る舞っていることや、女子にも性欲はあるのに「ないフリ」をしなきゃいけない感じにも腹が立っていました。

最近、アラサー以上の女性の性欲をテーマにしたドラマが増えていますよね。しかもドラマの中に少し出てくるとかじゃなくて、メインテーマとして扱われていて。有名な女性の役者さんが、性欲を満たす相手がいなくて困っているという役を演じる作品を見たこともあります。

昔は世間は女性の性には興味があるのに、実際に困っている話は無視されている状態だったので、そうやって悩みがテーマとして取り上げられるようになったことがうれしいです。

※後編に続きます。

『女40代はおそろしい 夫より稼いでたら、家に居場所がなくなりました』(幻冬舎)
『女40代はおそろしい 夫より稼いでたら、家に居場所がなくなりました』(幻冬舎)

【プロフィール】
田房永子(たぶさ・えいこ)

1978年生まれ、東京都出身。漫画家、コラムニスト。
第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞。2012年、母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を刊行し、ベストセラーに。他の著書に『ママだって人間』『キレる私をやめたい』『人間関係のモヤモヤは3日で片付く』『喫茶 行動と人格』などがある。

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『女40代はおそろしい 夫より稼いでたら、家に居場所がなくなりました』(幻冬舎)より
『女40代はおそろしい 夫より稼いでたら、家に居場所がなくなりました』(幻冬舎)