【腸内環境】睡眠時間は?お酒はOK?何を食べれば良い?医師が教える、短鎖脂肪酸を増やす生活習慣
体に変化を感じ始める、40代女性。健やかな体・心・脳を作り維持して増進するための腸内環境づくりで大切な短鎖脂肪酸を増やすには、どうすればいいのでしょうか。医師が教えます。
運動で腸内環境が変わる!
まず運動です。運動と腸内環境が関係しているということが意外に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、運動は腸内微生物叢を調整するというテーマでの研究論文は1000本近くあります。運動しているか座ったままの時間が長いかどうかで、腸内環境がかわります。「運動ぎらいの女子」、ときどきうちの患者さんでもいらっしゃいますが、体を動かすことを少しずつ積み重ねていって運動習慣が身につくようにしましょう。1日の歩数は8000歩が体力維持レベル、それに加えて筋肉運動、つまり、スクワットやランジ、プランクなど筋肉に負荷をかける運動を摂り入れましょう。
腸内環境を整えるには7〜8時間の睡眠時間が望ましい
次に睡眠時間です。成人は7〜8時間の睡眠時間が望ましいことが研究で報告されています。睡眠時間が少ないと認知機能の低下につながり、免疫が確実に下がり、感染症になるなりやすさも異なってきます。睡眠時間が短く、かつまたは、起床時間が遅かったり夜中に起きていたりなどずれていると、数日で腸内細菌たちに変化がみられ、いわゆる悪玉菌が増えて善玉菌たちが減っていきます。たった一晩の寝不足、徹夜でも取り返しがつかないダメージを心身に与えていることが複数の論文で示されています。一度、昼夜逆転してしまうとその社会的時差ボケから治るためには7日間かかってしまいます。平日は5時間睡眠、週末は9時間睡眠、というパターンの方がよくいますが、「平日と週末の睡眠時差はできるだけ減らし、少なくとも2時間以下にすべき」と推奨している研究者が多いです。腸内細菌が時計遺伝子(わたしたちの細胞ひとつひとつに備わっている)に支配されていることが論文で示されています。
嗜好品と腸内環境の関係
タバコは絶対に吸わない方が、腸内細菌たちにとっても、宿主であるわたしたちにとっても、良いです。タバコには100種類以上の有害成分が入っていて、百害あって一利なしです。
アルコールはどうでしょうか。当院の女性患者さんたち(に限らないのでしょうが)、結構なお酒好きがいらっしゃいます。若いころからずっとお酒を飲んでいて毎日飲む習慣がついていて、40代超えたあたりからお腹の調子が崩れやすくなって下痢と便秘を繰り返したり、あるとき急に会社の健康診断の数値で肝臓がひっかかって、よくよく調べたらアルコールが原因の脂肪肝・肝障害だった、とか、血液検査で膵臓の数値でひっかかった、あるいは、白血球の数が異常低値だった、などで、当院で精査するとお酒のせいだったことがわかり、指導により改善していきます。アルコールはわたしたちにとって毒ですが、腸内細菌たちにとっても毒で、お酒の摂取は、血液検査の数値に現れるはるか前から腸内細菌たちを乱します。
水溶性の食物繊維はより腸内環境を良くしてくれる
食と栄養の面では、まず食物繊維の摂取が大切です。食物繊維には不溶性の食物繊維と水溶性の食物繊維があり、以前は、こんにゃくなど不溶性食物繊維が多い食材が食物繊維として重視されていましたが、近年は技術革新と研究が進んだことで、水溶性の食物繊維がより腸内環境をよくしてくれる働きをもっていることがわかってきました。どの食物繊維も不溶性と水溶性の両方を備えていて、どちらか一方だけのものはないのですが、水溶性食物繊維をより豊富に含む食材には、全粒雑穀、小麦ブラン、もち麦、長芋、ごぼう、アボカドなどがあります。水溶性食物繊維は別名、発酵性食物繊維ともいわれ、腸内細菌によって発酵することで短鎖脂肪酸を分泌代謝するのが特徴です。
当然ながら、善玉菌=プロバイオティクスをしっかり摂ることも重要で、まず頭に浮かぶのはヨーグルトだと思います。女性はヨーグルトを摂る方は多いですが、いろいろなヨーグルトが店頭に並ぶ中でどれを選んでよいか迷われるかもしれません。ビフィズス菌を含むヨーグルトなどもお店で入手できます。ビフィズス菌は大腸で働き、水溶性食物繊維を発酵させて短鎖脂肪酸を産生します。
また、食と栄養に関しては、当然ですが、ビタミン・ミネラルが不足・欠乏していると腸内細菌たちにとっても貧しい環境となってしまいます。日本人女性に一番多いビタミン欠乏はビタミンD欠乏ですが、ビタミンDの濃度と善玉菌の量が相関することが多数の研究で示されており、ビタミンDが低いことで腸内環境が悪化している状態が発生しています。ビタミンDのサプリを飲んでいない限り、太陽に比較的あたっていると思っている方でも、キノコ類を食べていると思っている方でも、ビタミンDが十分量足りている方はまずいません。ビタミンDについては血液検査ですぐに調べられるので把握して補充することが腸内細菌たちのためにもなり、宿主本人にとっても免疫強化、脳機能強化につながります。
また日本人女性にもう一つ多いのが鉄欠乏性貧血です。腸内細菌たちのおかげでミネラルの腸での吸収が促進され、腸内細菌が分泌する短鎖脂肪酸のおかげでよりミネラル吸収が進むのですが、鉄が不足していることで腸内細菌たちの働きがにぶり、鉄の吸収も悪化するという負の連鎖になってしまっています。貧血の評価には、いままで健康診断などではHb(ヘモグロビン)という項目で評価されていましたが、フェリチンという貯蔵鉄を診ることが重要です。
さらに、タンパク質の摂取が足りない女性も多いです。自分では食べているつもりでも実際には不足している方が結構いらっしゃいます。卵・魚・肉・大豆製品などのタンパク質食材を毎食、てのひらいっぱい分(指の先まで)、重さにして100g程度を食べるようにめざしてほしいのですが、特に朝食でしっかりタンパクが摂れている方はほとんどいません。朝食にタンパク質をしっかり食べることで、腸内細菌たちが、一日の始まりを認識し、そこから一日のリズムが始まります。
また、高脂肪食を避ける、ということが腸内細菌たちのバランスを整えるポイントとなります。高脂肪食とはカロリーが高い食事、揚物はもとより、チーズやバター、あぶらみの多いひき肉料理など、脂肪のエネルギーが食事全体のエネルギーの55%以上のものをいいますが、高脂肪食をわずか5日間食べるだけでも私たちの体内の細胞レベルで変化がおき、そして腸内細菌のバランスが著しく崩れて、いわゆる悪玉菌が増えていってしまいます。ちなみに、高脂肪食を頻回にとっていると脳機能にも悪い影響があることも研究で示されています。
魚(できれば鰯、鯵、鯖、秋刀魚、鮪、鮭等の青魚)を中心に、いろいろな種類の野菜・根菜、全粒雑穀と豆類、きのこ、海藻、酢の物、少量の果物を毎日摂れると腸が喜びます。腸内細菌はいろいろな種類が存在している多様な腸内環境でこそ健康であることがわかっていて、食材が多様だと腸内細菌も多様になることも示されています。
毎日の食事、簡単ではありませんが、ぜひ、楽しみながら、共に、よりよい腸内環境をつくっていって、短鎖脂肪酸もしっかり活用しながら、より美しく、元気に長生きして自己実現を達成したいものです。
AUTHOR
伊藤明子
赤坂ファミリークリニック院長。小児科医、公衆衛生の専門医。同時通訳者。東京外国語大学イタリア語学科卒業。帝京大学医学部卒業。東京大学大学院医学系研究科卒業。東京大学医学部附属病院小児科医師。赤坂ファミリークリニック院長。 NPO法人Healthy Children, Healthy Lives代表理事。東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学/健康医療政策学教室客員研究員。
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