獄中200時間ヨガで受刑者を救う!米国刑務所が実践する新しい更生プログラムとは?

 獄中200時間ヨガで受刑者を救う!米国刑務所が実践する新しい更生プログラムとは?
SUSANA RAAB
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プリズン・ヨガ・プロジェクトの未来

 メドウズは、このトレーニングが成功すれば、矯正施設で行うYTTのひな形としてアメリカ国内外に提供できるだろう、と自信を持っている。またチッペンデール看守は、メドウズが骨の折れる資金調達のほとんどを担ってくれたので、他の矯正施設でも、難しい手続きはそれほど必要なく、同様のYTTを受刑者たちに提供できるだろうと考えている。「私が用意したのは、受刑者たちと、場所と、時間だけ。あとはカースがすべてやってくれたのよ」とチッベンデールは語る。
 メドウズは、途方もない時間をこのプログラムに費やしているが、実は1ペニーももらっていない。自分がやりたいし、できるからやっているのだ。だが、刑務所でYTTを教えるティーチャーの多くが、無料で働くほど生活に余裕があるわけではないこともわかっている。「カースの仕事は、世界初の刑務所YTTの実行者でいることだ。我々はそれを継続的にあちこちで行えるようにしたいんだ」と、ギブ・バック・ヨガのシュウェアは言う。「だが、無償で働いてくれるヨガティーチャー頼みでこれらのプログラムを築いていけば、いずれは行き詰まるだろう」(これらのプログラムを支援したい方は、givebackyoga.org/campaignsへ)。


 このようなプログラムが国中に行き渡るにはまだ時間はかかるが、短期間のうちに刑務所でのヨガクラスが増えたことを考えれば、刑務所YTTの普及にも希望が持てる。約14年前、プリズン・ヨガ・プロジェクト創設者のジェイムズ・フォックスが、カリフォルニアのサン・クエンティン州立刑務所でヨガを教えることを志願した時には、まさか国内100以上の刑務所でヨガクラスが行われる日がくるなんて思いもしなかった。ましてや女性矯正施設の塀の中で16名の受刑者がヨガ指導者の認定証を受けるなんて。


「このプログラムは、プリズン・ヨガ・プロジェクトで我々が到達できた、あらたな頂点だ。奇跡としか言いようがない」とフォックスは言う。「これは大きなターニングポイントだ。ここからどこに向かうのか楽しみだよ」。


 メドウズには、向かうべき先がわかっていた。まずはアメリカ国内のできるだけ多くの刑務所だ。自分の生徒たちの変化を目の当たりにした彼女は、他の受刑者たちにも同じ機会を与えたいと思わずにはいられなくなった。メドウズは、ほんの数カ月で彼女のクラスが成し遂げたことに満足している。

獄中ヨガティーチャートレーニング
アーサナ練習を丁寧に行い、受刑者にヨガ哲学を教えるメドウズ(Photo by SUSANA RAAB)

  土曜の昼、YTTの週末セッションのちょうど半分を過ぎたころ、受刑者たちは4人ずつのグループに分かれて、体育館の四隅にそれぞれ集まった。彼女らは、互いにかわるがわるアンジャネーヤーサナ(ローランジ)を教え合っていた。センターコートに置かれた花瓶の後ろでは、メドウズとアシスタントのクエリドが、少女のようにしっかりと抱き合いながら、自分たちの生徒たちを心から称えていた。「ヨガによって彼女たちの罪が赦されるとは思わないけれど、犯した罪が何であれ、誤った決断をしたために彼女たちはここに来たの」と、メドウズは言う。だが彼女は、誰もが自分の本来の良い面に向き合うことができると信じている。そして、自分の仕事は、受刑者たちの逮捕写真や犯罪歴、刑罰ではなく、人そのものを見ながら心を開いてヨガを教えることだと思っている。「生半可な気持ちでは来ていないわ」とメドウズは言う。「生徒たちが犯した罪の中には本当にむごいものもある。でも、それがどんなにショッキングでひどい行為であろうと、私たちの誰もが一つの行為によって定義されるべきではないのよ。単純にこういう人だと決められるものじゃないの。ヨガはそういう思い込みを解き放ってくれるわ」。


 これはメドウズの一番の信念だった。それを感じとった生徒たちは、彼女にこたえるように次第に心も体も開くようになった。クラスが進むごとに、生徒たちはよりオープンに親密に、自分たちについての詳細や練習を共有するようになった。レッスンの間、メドウズは一人の受刑者の横に行ってディスカッションをしたり、思うままに抱き合ったりする。時には、部屋の中を歩き回って、各グループの間を行ったり来たりしながら、ポーズの指導やアドバイスを与えたりする。受刑者たちは、メドウズの寛大さに浄化される思いだった。「カースとダナは、ただポーズを教えてくれるだけじゃないの。ヨガの八支則を私たちの生活や様々な場面でどう活かすべきか、アドバイスをくれるのよ」と、あと2年で仮釈放になるシャメアは言う。


「ヨガだけど、セラピーのようでもあるわ」。最後にメドウズは、オームを3回唱えると、優しくほほえんでナマステと挨拶をし、クラスを終えた。そしてこう言った。「オーケー、お嬢さんたち。また次回ね!」

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Text by JESSICA DOWNEY
Translated by Sachiko Matsunami
Yoga Journal日本版 2016/12/11月号掲載

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