ホットフラッシュ、イライラ、疲れ…更年期の不調に効く「漢方と養生」【漢方医が解説】
さまざまな不調が起こりやすい更年期。その上手な付き合い方や、楽に乗り切るための養生法について、漢方医の森裕紀子先生に、漢方医学の見地から教えていただきました。
更年期の不調改善は漢方医学の得意分野
更年期の不調で婦人科を受診すると、漢方薬を処方されるケースも多くなりました。そもそも漢方医学の治療とはどんなものなのでしょうか。
「西洋医学は原因に対して治療しますが、漢方医学では症状に対して治療します。更年期の不調改善も得意とする分野です。市販薬を活用する方法もありますし、日本漢方医学の専門医による本格的な治療を受けることもできます。上手に活用し、更年期の不調を乗り切ってほしいですね」
漢方医学が考える「更年期」って?
1.漢方は女性の味方!
西洋医学の分野では、男女の違いに注目する性差医療が始まったのは、ここ数十年のことです。しかし漢方治療では1200年以上前の古典『千金方』(せんきんほう)に「婦人之病は男子に比べて十倍治療が難しい」と記載され、女性と男性の違いに気がついて対応していたことがわかります。
そこには更年期という概念はありませんが、月経や出産前後のような女性特有の症状として、今の更年期症状と同様にほてりや不眠などの対処法が記載されています。
2.加齢とともに変化する「腎」に注目
更年期の不調は、漢方医学的にみると、生命力を表す「腎」の変化も影響しているといいます。
「生まれ持った〝先天の腎〞は、20代を頂点に減少し、更年期の頃になると、次第に疲れや不調となって現われてきます。40代以降は、食事などで〝後天の腎〞を補い、また家事などを頑張りすぎず、睡眠を確保することで、〝先天の腎〞を減らさないようにすることが大切になります」
3.更年期は「次の50年」のための準備期間
更年期は女性ホルモンの減少に、〝先天の腎〞の減少が重なり、体が大きく変わる時といえます。まずは、更年期を迎えられたことを喜び、この時期を人生の折り返し地点と考え、体や生活習慣を見直してみることが大切、と森先生は言います。
「ホットフラッシュなどの不調は更年期が過ぎればなくなりますが、〝腎〞に関しては何か手を打たないと減る一方です。ここで体を整え、養生法を身に付けることで、人生100年時代の『次の50年』を快適に過ごせるようになります」
4.更年期障害には漢方医学と西洋医学を臨機応変に使い分けて
更年期のつらい症状がある場合には、不調を緩和する漢方薬による治療や、西洋医学でのホルモン充填療法があります。
「漢方薬では桂枝茯苓丸や加味逍遙散をよく使います。イライラなどは疲れによって出る場合もあり、そのときは補中益気湯もよいでしょう。病院を受診するほどでもない場合は薬局で薬剤師に相談し、症状や体質に合う漢方薬を選んでもらって。ホルモン充填法は、減少してきた女性ホルモンを補う治療法。ほかに病気がある場合は使えないこともありますが、漢方薬で改善しない場合などは検討してみてください」
【更年期の症状に効く漢方薬】
◎ホットフラッシュ…桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
桂枝(シナモン)には気を下ろす作用がある。冷え症状があまりない場合に。
◎イライラ/冷え……加味逍遙散(かみしょうようさん)
イライラを抑える山梔子(サンシシ)や、気持ちを上げる薄荷(ハッカ)が心身の不調に働く。
◎疲れ……補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
元気を補う代表的な処方。体力が落ちているときや病み上がりのときによく使われる。
教えてくれたのは…森 裕紀子先生
北里大学東洋医学総合研究所漢方鍼灸治療センター副部長。産婦人科専門医であり、漢方の専門医でもある立場から、西洋医学、漢方のメリット、デメリットを熟知し、最適な方法を選んで治療を行っている。
『更年期 ホルモンの変調を感じたら読む本』(法研)
更年期障害の基礎知識から、さまざまな不調に対する西洋医学と漢方の上手な使い分け、養生の仕方などをわかりやすく解説した本。
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