【ヨガ×医学】医師兼ヨガセラピストが考案「コロナ禍で見失った心」と繋がるヨガと呼吸法

 【ヨガ×医学】医師兼ヨガセラピストが考案「コロナ禍で見失った心」と繋がるヨガと呼吸法
Jordan and Dani Lutes
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伝染する反応

2020年の夏は、さまざまなつながりが断たれ、手探りの中で過ぎていった。シャープ・リース・スティーリー・メディカルグループの担当医として2年目を迎えたヤンと同僚の医療従事者たちは、情報過多と情報不足に同時に翻弄され、不確実な中であらゆる決断を迫られながら、この状況を打破するための情報を少しでも得ようとしていた。
シャープメモリアルのコロナ病棟では、二重になった入り口の奥に何十床ものベッドがぎっしりと並べられ、PPE(防護具)で全身を覆ってからでないと中に入れない決まりになっていた。ヤンは入り口の外に立って、機械の助けを借りてもなお呼吸困難に苦しむ患者たちを見つめていた。ふと気づくと自分が患者と同じ状態になっていることに気づいた。息を止めていたのだ。
とっさに、ヨガの練習が頭をよぎった。そこでヤンは、病室に入る前に今の自分を確認するために、数回呼吸をしてみた。「中に入る前に深呼吸をしたら、こう思えたの。この状況は本当に大変で、ものすごく困難なことに直面しているって。そうやって自分をケアするうちに、病室の前ですべて手放せるようになって、患者さんにしっかり寄り添えるようになったんです」とヤンは言う。呼吸に助けられたのだ。そこで彼女は、簡単な呼吸法で患者もサポートできるのではないかと考えた。 

不快感に息を吹き込む 

新型コロナウイルスは鼻から肺にかけての呼吸器系に感染して発症する。医療専門家たちは、体がウイルスの侵入を感知すると持続的な炎症、つまり自己免疫反応が起こり、同時に体が常に厳戒態勢に入ることで、酸素供給を必要とする呼吸器系などの臓器や組織に大打撃を与えるのではないかと考えている。だがヤンのようなヨガプラクティショナーたちは、幅広い研究によって裏付けられている別の解決策を知っている。
「ヨガはコロナ感染からの回復を助けるのに最適な方法」とヤンは言う。「呼吸リハビリ(急性肺損傷者のための総合的な治療プログラム)で用いられている手法はすべてヨガのテクニックよ。やっていることはプラーナヤーマで、単にそう呼んでいないだけ」
ヤンは、米国国立衛生研究所が協力するヨガと炎症の逆相関関係についての膨大な数の研究を参照している。たとえば2012年の研究では、ヨガを定期的に行っている人は炎症を助長する化学物質レプチンのレベルが低く、炎症を抑制するアディポネクチンのレベルが高いことが示されている。そこでヤンは、コロナ患者の最も深刻な症状を引き起こす炎症の治療に、ヨガが役立つのでは、と考えた。
ヤンが患者たちに初めて呼吸法を紹介したときは、特にウイルスの治療としてではなく、患者の気分を高めて(ヤンと共に動作と呼吸が)つながる感覚を楽しみ、効果を感じてもらうのが目的だった。だがプラーナヤーマを回診に取り入れ、患者が心を静めて横隔膜で深呼吸できるように導くうちに彼女の視点は変わり、呼吸練習をただのエクササイズから治療計画のひとつへと発展させた。ヤンは横隔膜呼吸にヨガの要素を加えたときに、自分がヨガと医学という2つのパワフルな処方を手にしていることに気づいた。彼女が『ヨガセラピー・トゥデイ』誌の2021年冬号で書いているように、ヨガと医学を合わせた対処法は、長期コロナ感染症の患者に向き合う人々の指針となるかもしれない。
「横隔膜呼吸法は衰えた呼吸筋を鍛える」とヤンは肺合併症の対処法について書いている。「横隔膜とは、つまり筋肉です。新型コロナウイルスに感染した人々の多くに全身の筋力低下がみられます。横隔膜を意識的に動かして鍛えることは、ウイルス感染後の後遺症や炎症の影響に効果的なの。まずは肺とそれを支える筋肉を鍛えること。それによってリラクセーションや副交感神経系の活性化も期待できるでしょう」
ヤンは最近、病院の理学療法士たちとミーティングを行い、呼吸法をより広く普及させる方法を検討している。また、ウェビナーでの定期的な講義を通じて、ヨガセラピストたちが患者の回復を手助けできるように指導している。
新型コロナウイルス感染症に対するヨガセラピーは、呼吸に関連した症状にとどまらないとヤンは言う。ヨガの動きはウイルスによる組織の損傷や炎症から生じる血管内の血栓を緩和する。肺を大きく広げるシャラバーサナ(バッタのポーズ、医学的には「腹臥位」と呼ばれる、ヤンのお薦めのポーズ)は、筋骨格の合併症を和らげ、マインドフルネス瞑想やヨガニードラは、新型コロナウイルス感染後の感情的なトラウマや断絶に対して効果がある。
症状や原因にかかわらず、それぞれのセラピーの根底にあるのは「つながり」だ。ヨガは人間の最も基本的な欲求のひとつに応えるものなのだ。
「ある意味、命を救うことが私の仕事です。ちょっと大げさだけど。ほとんどの日は患者さんたちが慢性的な症状を乗り越えられるようにサポートしているわ。私の人生や自尊心、心を救ってくれたものを少しでも彼らに与えられたらと思って……」ヤンの声が潤んだ。
「私たちは、人とのつながりや心からの愛情、感情の許可がもたらす癒しの力を過小評価しています。ですが、私はヨガのおかげで感情を解放できたんです」

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患者のウィリアムに、ヨガの呼吸法を指導するイングリッド・ヤン医師
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「ヨガはコロナ感染からの回復を助けるのに最適な方法です。呼吸リハビリで用いられている手法はすべてプラーナヤーマよ。単にそう呼んでいないだけ」
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by Hannah Lott-Schwartz
photos by Jordan and Dani Lutes Wis Holt
model by Ingrid Yang
translation by Sachiko Matsunami
yoga Journal日本版Vol.78掲載

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