真のリーダーシップとは|先駆者が問題視する「今のヨガ界」に足りない事

 真のリーダーシップとは|先駆者が問題視する「今のヨガ界」に足りない事
Christopher Dougherty

ヨガ界を率いるリーダーについて考えてみよう。指導基準やセクハラ、インクルーシビティ(誰もが参加できること)、ボディポジティブ、ヨガの商業化などの議論が盛んになる一方で、何人かのベテラン指導者たちは消えていき、それに代わって新たな指導者たちが現れている。これらすべてに焦点をあてながら、今日の欧米ヨガ界で傑出した指導者に、リーダーシップについて話を聞くことにした。

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ヨガの真のリーダーとは?

マティ・エズラティがカリフォルニア州サンタモニカにヨガワークスをオープンしたのは、わずか23歳の時だ。

彼女のビジョンはシンプルとはいえ画期的だった。誰もが興味を持てるような多様で高品質のクラスを取り揃えたヨガスクールをつくろうとしたのだ。1987年当時、どのヨガスタジオも一つの流派のヨガだけを教えるのが普通だった。だが、アイアンガーアシュタンガに影響を受けたエズラティは、複数の流派を学ぶ利点に気づいていた。

ヨガワークスはエズラティが立ち上げるや、瞬く間に週に120以上のクラスを展開し、1日700人以上を教えるスクールとなった。彼女は、今日活躍しているキャサリン・ブディグ、アニー・カーペンター、ショーン・コーンなど数多くのヨガティーチャーたちも指導した。2004年にヨガワークスを売却したものの、今なお世界中で教え続けており、ヨガコミュニティの真のパイオニアとみなされている。

今回エズラティは彼女が考えるリーダーシップ論を語ってくれた。彼女がリーダー的立場になった経緯や、商業化されたヨガの危険性、ソーシャルメディアでもてはやされるヨガ練習生たちについて、そして、私たち自身もリーダーを目指すにはどう学べばいいかを話してくれた。

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photo by Christopher Dougherty

ヨガワークスを始めた当初は、リーダーになる気はなかったわ。

ヨガワークスを立ち上げた理由は、ヨガが大好きだったから。何かの助けになるためにヨガをする場所をつくりたかったの。陳腐だけど、世界平和のためにね。ヨガがすべての人のためにあることも知ってほしかった。

今のヨガ界で行われていることの多くは、ヨガワークスが始めたものだと言われるわ。ヴィンヤサフローの大衆化とかね。ただ個人的にはそれは違うと思う。最初のヨガワークスには、フローのクラスはなかったから。ポーズ同士をつなげて動くことも、音楽もなかった。当時は暖かい部屋で軽度のアイアンガーを実践していたの。ある時期に、何人かのティーチャーが音楽に感化されてクラスに取り入れるようになって、それが定着したけれど、それも、今練習されているようなヴィンヤサフローではなかったわ。

アラン・フィンガーとヨガワークスを始めた時の私は、よちよち歩きのティーチャーだった。だから自分を校長だとは思っていなかった。とにかくヨガワークスをスタジオではなくて、スクールにしたかったの。良い指導者がいる良い学校なら、収益はついてくると常に信じていた。私はその指導者たちのファシリテーター(世話役)でいたかったの。今日活躍しているティーチャーたちのサポートをしたり、手引きをしたわ。私はパイプ役に徹していたの。

私は彼らが最高の指導者に育っていくのを見るのが好きだった。時には母のようにね。ヨガティーチャーのほとんどは、生徒たちからいつも「先生すごい、素敵、最高」ともてはやされて、真実が見えていないことが多いの。私は彼らにとって何がベストかを常に考えていた。彼らとヨガにとってできるかぎりのことをしたかった。常に正直な意見を伝えていたわ。だから彼らを理解できたし、才能を引き出せたの。名高いベテランティーチャーたちに指導することもあったわ。自分よりずっと年上の指導者にね!

彼らがワークショップに来ると、何がうまくいっていないか、その理由は何か、そして解決法について話し合ったわ。たとえば、ほかのヨガの流派に対して批判的なティーチャーにはこう言わざるを得なかった。「ここは多様性を重んじるスクールです。同意しなくてもいいけれど、意見が合わないのを楽しむこともできるはずです」。ワークショップのリーダーがクラスで叱っていたら、それにも対処したわ。どのティーチャーも尊大にならずにフィードバックに耳を傾けたかって? ええ、一緒にうまくやれていたと思うわ。

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photo by Christopher Dougherty

どのヨガスクールやスタジオにも、真のヨギがいるべきだと思う。確かなヨガビジョンを持ち続ける勇気のある人がね。自分のヨガに誠実に生きていて、「確かにお金にはなるだろうが、それはヨガじゃないから断る」と言える人。それが今のヨガ界には欠けているのよ。最近はウェブページやインスタグラムをやっていなければ、そう言える機会さえも得られない。そんなのおかしいでしょう。

もしスクールにティーチャーたちの才能を見抜けるようなヨギがいて、ソーシャルメディアが苦手ならば、無理にやらせるべきではないわ。ヨガ界に必要なのは、精神修養の道を歩んでいて、ヨガについて読書や探究をし、実践を重ねていて、ヨガの原則、つまりヴィーラバッドラーサナⅠ (戦士のポーズⅠ)ではなく、ヨガ的な生き方の真髄に根ざしている人よ。

ビーチでヨガをする自分の姿を写真に撮っている人たちを見ると、気になってしまうの。心配になるのよ。私は今こうして外にいられる。この美しいハワイにね。母なる大地を歩くこともできて、人生が完璧なふりもできる。でも現実は違う。人間だから完璧じゃないことがたくさんある。だけど、まわりを利用して真実でないものを完璧に創りだすこともできる。そしてその嘘に引っかかる人たちは、自分の人生はそんなに良くないなあと思う。すべて幻想なのよ。だから心配になるの。そんなことをするよりも本気でヨガを勉強したほうがいいわ。

ソーシャルメディアによって人気が出るティーチャーがいる現状は本当に残念だわ。たいていの場合、彼らは最高の指導者ではないから。ヨガ界にはメンター(優れた指導者)が少ないと思う。問題のある指導者たちはいるけれどね。ヨガ界にはメディテーション界のようなリーダー的存在がいないのよ。ジャック・コーンフィールドもいないし、ジョセフ・ゴールドスタインもいない。真の哲学を正しく伝えてくれる僧侶もいない。メディテーション界では、哲学を理解して日々の生活に落とし込むことに成功しているけれど、ヨガ界ではパタンジャリヨーガスートラのような教本に基づいてヨガを実践している人は少ないと思う。

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メディテーションは、四聖諦(仏教で説く4つの真理)と仏陀の教えに基づいて実践されるけれど、ヨガはアーサナ中心。そこが問題なの。ヨガをやめる人がたくさんいるのは、今やフィットネス王国になってしまったからよ。このままではたくさんのヨガスタジオが撤退していくでしょう。ロックに合わせてポーズからポーズに移って動くだけでは、自分について学びたい人たちのニーズに合わないからよ。

それにメディテーション界では競争が減って、コミュニティになりつつある。6、7年前にスピリット・ロック瞑想センターに初めて参加した時、こんなことがあったわ。誰かが、ほかにも瞑想できるセンターはあるかと質問をしたら、スタッフは惜しみなくほかの施設を教えたの。

これは勉強になったわ。なんて気前がいいんでしょう。自分も同じようにできるかしら、って思った。この姿勢がヨガ界にも必要なのよ。私たちには道徳的なマスターが欠けていると思う。今いるのはマスターのふりをしているアーサナティーチャーばかりだわ。「私はこのクラスを信じている。私がサポートする、ヨガの真髄を伝えるためにここに来る生徒たちを教育する」と言える真のヨギがいないのよ。

私たちに本当に必要なのは、ヨガ会社ではなくヨガスクールなの。今人気があるものをやってはいけないという訳ではないけれど、生徒たちはそれがヨガのすべてではないと知る必要があるわ。スクールには成熟したヨギの監督が必要よ。尊敬を集められて、ヨガスクールの存在意義に対してより大きなビジョンを持っている人。

聞いた話では、メアリー・テイラーは自分の生徒に、あなたがたの生徒はお客さんではないと話したそうよ。お客さんなら、欲しいものを受け取るだけだけど、生徒は、ティーチャーが与えようと準備をしたものを受け取るためにクラスにやって来るの。だからこそティーチャーは正しい質を備えているべきなのよ。

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ヨガ界全体をけん引する役割があってもいいと思うけれど、私たちにはまだそれがない。

私たちはソーシャルメディアの有名人や『ヨガジャーナル』のような出版物、カンファレンスの中でリーダーを求めているけれど、それらはみな数がすべてで、指導自体には重きを置いていない。もちろん、そこには優れたヨガティーチャーたちもいるわ。たとえばジュディス・ハンソン・ラサターやドナ・ファーリ、ジョン・シューマッカーがね。彼らはほかの人とは違う。3人が同意するかわからないけれど、彼らは深いヨガの感覚に根ざしているの。こういう人たちが上に立ってヨガ界を率いていくべきなのよ。

新しいヴィンヤサフローや音楽を否定するわけではないわ。それがあってもいいけれど、ヨガのさらなる可能性をコミュニティに教育する必要があるの。今私たちはヨガアライアンスに絶大な力を与えてしまっている。もちろん良いこともあるけれど、彼らは不適切な情報も流しているわ。良い指導者になるために資格を取る必要なんてないのに。

もし私たちが、200時間トレーニングを受ければ指導者になれる、500時間でティーチャーたちを指導できる、という情報を与えているなら、それは問題よ。4年間練習を続けていてカリスマ性があるからといって、ティーチャーたちを指導できる準備ができた訳ではないのよ。確かに私はかなり若い頃からヨガを始めていた。ヨガワークスを始める前に4年間練習していたし、2年間指導していた。それでも私は自分をまだ赤ちゃんだと思っていた。31年間ヨガを教えてきて、やっとティーチャーたちを指導できる準備ができた程度よ。

ヨガワークスを手放すまで、かなり悩んだわ。買収した人たちは白人で、男性で、アメリカ企業で、良識を感じられなかった。ヨガワークスを売却した時、取締役会にはヨギや女性が1人もいなかったの。それがどういうことか彼らは理解していなかったけれど、理解していると思い込んでいた(その後ヨガワークスはまた売却されたので、新しいオーナーのことはわからないけれど)。それに、ヨガワークスを立ち上げた時は私もかなり若くて、十分なビジネススキルを備えていなかったの。私の問題は、物事を個人的に捉えてしまうことだった。

時々自分がゴミ箱のように思えたの。みんなが自分にゴミを投げつけてくるってね。でもその頃の私がもっと自分を理解していて、自分を信じていて、今持っている知識があったら、会社を手放さずに、正しい方向に向かえていたでしょう。

スリ・K・パタビ・ジョイスはいつもこう言っていたわ。「ヨガは私たちが思っている以上に大きなものだ。だから絶えることはない」。そのとおりだと思う。でも私たちはもっと内側を見て、落ち着いて、時間をかけて観察して、真のヨギを選ぶ必要がある。収益だけではなく、ヨガのために闘ってくれる誰かを。

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photo by Christopher Dougherty

聞き手/アンドレア・フェレッティ
ポッドキャスト「ヨガランド」のホストや、ジェイソン・クランデル・ヨガ・メソッドのクリエイティブ・ディレクターを務めている。料理やヨガをしていないときは6歳の娘と過ごしている。

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interview by Andrea Ferretti
photos by Christopher Dougherty
model by Maty Ezraty
hair&make-up by Marine Vaisset
translated by Sachiko Matsunami
yoga Journal日本版Vol.64掲載



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