安眠を妨げる「心の緊張」…身体のどこに存在するの?【ヨガと睡眠 ♯10】】

 安眠を妨げる「心の緊張」…身体のどこに存在するの?【ヨガと睡眠 ♯10】】
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井上敦子
井上敦子
2019-08-07

『なかなか寝付けない』『眠りが浅い』等、睡眠に関する悩みを抱えていませんか?日本では、一般成人の5人に1人が睡眠に関する悩みを抱えているといわれています。多くの人が抱える睡眠に関する悩み。ヨガの実践が、その睡眠の質を上げることは広く認知されている事実です。ここでは『眠りのヨガ』といわれるヨガニードラを通じて、ヨガ的観点から睡眠の質を向上させていく方法をご紹介していきます。

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『身体』のどこに硬さがありますか?

少しおかしな質問に聞こえるかも知れませんが、『身体』という言葉を聞いたとき、あなたはどのような身体を思い描きますか? 恐らく多くの方が、目で見て触ることのできる『肉体』をイメージされると思います。私たちが日常『身体』と呼んでいるのは、目で見て触ることのできるいわゆる『肉体』です。皮膚や筋肉や骨または内臓など、物質として認識することのできる身体。例えば、『肩が凝った』と感じた時、その緊張は肉体に存在しています。実際に肩を触ると、そこには硬さがあり緊張を確認できる。では、『心が緊張状態にある』と感じた時、その緊張はどこにあるのでしょうか?心は目に見えず触ることもできないので、実際に硬さを確かめることはできません。でも、私たちは心や気持ちの硬さを、感覚として確かに感じることがありますよね。

ヨガの思想ではそんな心や感情が存在する部分を、目には見えないけれど形のある『身体』として捉えます。『身体』=目に見える『肉体』ではなく、身体はその他にも複数存在していると考えるのです。ヨガの練習では、様々な手法を使って身体にアプローチをしていきますが、そのアプローチしていく身体は肉体だけに限定されません。今回の【ヨガと睡眠】では、ヨガの観点から『身体』を紐解き、安眠を妨げたりストレスが溜まっている箇所はどこにあるのか?考えていきましょう。

ヨガ的に身体をとらえると~パンチャ・コーシャ(人間五層説)とは

ヨガの思想では、いくつもの身体の捉え方が存在します。その中の一つに、「タイッテリーヤ・ウパニシャッド」に記されているパンチャ・コーシャ(人間五層説)という有名な説があります。ヨガの先生になるための講座を受けたり、詳しい本を読んだことがある方は、身体が五層に覆われている図を目にしたことがあるかも知れません。身体は五層の異なる物質からつくられていると説く、身体の捉え方です。この五つの鞘は異なる大きさの粒子で構成され、重なり合うように存在していると考えられています。肉体を構成する粒子が一番大きく、そのため触ったり目で見ることができる。それに対してあとの4つの身体は、目に見えないくらいの微細な粒子で構成されていると考えられています。

では、5つ(パンチャ/panca)の鞘(コーシャ/kosa)を詳しくみていきましょう。

①アナマヤコーシャ(食物鞘)

アンナ(食べ物)からできている鞘、身体

目に見え、触れることのできる、いわゆる肉体と呼ばれる身体

②プラナマヤコーシャ(生気鞘)

プラーナ(生命エネルギー)からできている身体

③マノマヤコーシャ(意思鞘)

感情と思考からできている身体

④ヴィジュナナマヤコーシャ(理智鞘)

感情や行動の基準を決定する知性からできている身体

⑤アーナンダマヤコーシャ(歓喜鞘)

純粋な意識からできている身体

アーナンダ(歓喜)に満ちた場所

このようにヨガの思想では、プラーナ(生命エネルギー)や心や感情も、目に見えない『身体』として捉えるのです。そして、その5つの身体は、独立しながらも互いに影響し合っています。

心が緊張しているときに緩めたいヨガ的『身体』はどこ?

話を最初に戻しましょう。『心が緊張状態にある』と感じた時、その緊張はどこにあるのでしょうか?それは、上記でいうヨガ的身体の『マノマヤコーシャ』に存在します。感情と思考から構成されるマノマヤコーシャという身体に、心の硬さは存在するのです。また、5つの身体は互いに影響し合っているので、心の硬さは肉体の緊張として表面化することもあります。逆に、肉体の疲れや緊張が心や感情に影響を及ぼすことも。ヨガ的身体の考え方では、心と肉体は密接に繋がっているのですね。

ヨガの練習は、アーサナ(肉体を動かす練習)のような動的な練習と、ヨガニードラや瞑想の練習といった静的でより繊細な練習に分かれます。そしてそれぞれの練習には、得意分野があります。アーサナの練習は主に肉体に、ヨガニードラや瞑想の練習は主に心や感情にフォーカスをしていきます。そして更に、その一つ一つの練習は互いに影響し合い、相乗的な練習効果を生み出していくのです。従ってヨガの練習は、動的な練習と静的で繊細な練習に偏りを持たずに進めていくことが大切です。ことさら、心に硬さを感じていたり、身体を緩めてもリラックスが難しい場合は、ヨガニードラや瞑想の練習に取り組むことをオススメします。ヨガの練習を偏りなく進めていくことで、必要なリラックスは必ず訪れます。安眠を得るためにも、リラックスを広げていくためにも、ぜひヨガの練習を続けていきましょう。緊張が強い場合は時間がかかるかもしれませんが、根気強くご自分と向き合いながら、結果を急がずにヨガの道を歩んでいって下さい。

今回をもって【ヨガと睡眠】の連載は終了となります。お読みいただいた皆様にお礼を申し上げます。皆様のヨガが、更に豊かに深まっていくようお祈り申し上げます。ありがとうございました。

ライター/井上敦子
15年間の会社員生活を経てヨガ講師に転身。不眠症をヨガで克服した経験を持つ。リラックスが苦手だった経験から、ヨガニードラを通じてリラックスの本質を伝えるクラスを展開。週に8本のヨガニードラのレギュラークラスを持つ他、指導者養成講座やコラム執筆等ヨガニードラの普及に努めている。Instagram:@yoga_atsuko.inoue

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