【スタイリスト小泉茜さんインタビュー】パートナーと「ジェンダー観」のすり合わせをするには?

 【スタイリスト小泉茜さんインタビュー】パートナーと「ジェンダー観」のすり合わせをするには?
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フェミニズムやボディポジティブに関する発信を行う、スタイリストの小泉茜さん。夫もフェミニストであるものの、価値観のすり合わせのために説明や話し合いをたくさん繰り返したとのことです。ジェンダーの話をするときに意識していることを伺います。小泉さん自身が現在ファッションで大事にしていることもお話しいただきました。「他人からどう見られるかではなく、自分がどうありたいか」——“自分軸”で物事を考えるヒントについてもお伺いしています。

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夫もフェミニスト

——『GINGER』のWeb連載では夫さんもフェミニストだと書かれています。どんなやり取りをされたのでしょうか。

元々夫が素直で優しい性格なので、上手くコミュニケーションを取れた部分もあると思います。結婚して苗字が変わって、イライラしている私に対して「気にしすぎだよ」などと言わずに向き合ってくれて、夫も制度や社会的な背景を調べたり、私が読んだフェミニズムの入門書を一緒に読んでくれたりしました。今では夫は自発的にフェミニズムの本を読んだり、友達に共有したりもしています。

私も態度だけでなく、きちんと言葉で伝えるようには意識しました。夫が私の話を聴く人であっても、例えば女性だけを狙ってタックルしてくる男性がいることなど、男性として生きているとわからないことや経験しないこともあるんですよね。だから、どんなことがあって、こんなふうに嫌な気持ちになって、調べてみたら背景にはこういう男性中心にデザインされた社会構造があると思う、と説明するようにしました。

私たちは結婚式をしなかったので、ウェディングフォトの撮影だけして。その写真を年賀状にして祖父母に送ることにしたんです。差出人の書き方がテンプレート的には夫の苗字+夫の名前、私の名前になるのですが、付属品みたいでモヤモヤしていたんですね。

それを夫に話したら、「小泉茜」って書けばいいじゃんと言われて。夫は優しさで言ったのはわかるんですけど、結婚したにもかかわらず、旧姓を使った年賀状が送られてきたら親戚はザワつきますよね。たとえ理由を説明しても、夫は「理解のある夫だね」と良い評価をされるかもしれませんが、私は「いちいちそういうことにうるさい女・我の強い女」のように見られると思います。このことも夫に説明したら「そこまで考えてなかった、ごめんね」と言われました。

見てきた景色や経験してきたことが違うので、悪気なくわからないことがあるので、一つ一つ説明して話し合うことを大切にしています。でも最初は不安なこともあって……。

——そうなんですね!どんなことでしょうか。

私に嫌われたくないからフェミニズムの本を一緒に読んでくれているんじゃないかと思っていたんです。でも夫が友人間で、“ハゲいじり”を見たときに「ルッキズムが嫌だ」と抵抗感を示していたり、友達に「良い奥さん捕まえたね」みたいなことを言われたときにも、パートナーをモノのように扱う言い回しに「捕まえるってどういう意味?」って言ってたり、夫自身にフェミニズムの考えが浸透していることを感じました。

夫からも「茜に教えてもらって色々なことがわかるようになったり、気づけるようになった」と感謝を伝えられて、話し合いを重ねることによって、だんだんとその不安もなくなっていきました。

「夫が話し合いに応じない」「説明しても聞かない」といった悩みを聞くことが多いですが、私は逆に夫が優しくて受け入れてくれるタイプなので、私の考えの押しつけになっていないかとか、私がコントロールしてないかで悩みましたね。

——経済的な格差などを背景に夫に言いたいことを言えない女性も少なくないですが、小泉さんは何か意識していることはありますか。

結婚はしたものの、夫のことも「一人の人間」だと思って接しています。夫にも経済力的にも、生活力的にも自立していてほしくて、お互いに依存せず、いつでも離婚できる状態でありたいとは思っていますね。

情報の差もなるべく作りたくないと思っています。夫婦間で情報の差があると生活や子育て間での価値観の相違に繋がる気がしていて、わたしはなるべく読んだ本や情報共有を積極的にしています。

「何か夫に意見を伝えて、夫から離婚を告げられたら生活できない」という不安から言い出せない方もいると思います。一方で、夫より稼いでいる女性が周りに結構いるのですが、それでも言えない人は少なくないです。

それは「女性は慎ましくあるべき/頼りがいのある男性が魅力的」などとジェンダーステレオタイプを刷り込まれている面もあると思います。「頼りがいのある男性」って、決断力があるとかリードしてくれるってことだと思うんですけど、逆に言えば意見の尊重をしない面もあるんですよね。言い換えればモラハラ気質を持っているとも思います。わたしも昔はそうだったのですが(笑)ジェンダーステレオタイプに沿うことで、モラハラ気質な人を選んでしまう、という構造はあるのではないでしょうか。

ファッションを通じてフェミニズムを発信したい

——性差別の問題への意識が高まったり、反ルッキズムの考えが広まったりと、支持される価値観は変容しつつあります。ファッション業界で働く一人として、どのような課題を感じていますか。

上の世代の方は、女性であっても「痩せないと綺麗ではない」「加齢に伴う容姿の変化はネガティブなこと」など、反ルッキズムの考えを真正面から否定する人もいます。その価値観のもとでずっと生きてきたので、簡単に離れられないでしょうし、今までの人生を否定された気持ちになるのも怖いのだと思います。

業界自体が忙しすぎて、かなり意識しないと読書や勉強の時間が取れないとも感じます。なので価値観をアップデートする機会もなく、従来の価値観を再生産してしまうのではないのかなとも。

ファッション誌はキャッチ―でカジュアルだからこそみんなが「自分ごと」に感じられる発信ができる場でもあると思います。だから私はファッションを通じて、フェミニズムやボディポジティブに関する発信をしていきたいという気持ちがあるんですよね。みんなが当たり前のように手に入れられる情報にしたいです。

最近は良い変化を感じられることもあって。フェミニズムやルッキズムの話題を発信していたら、上の世代の方が私の発信に対してコメントをくれるようになったり、雑談のように政治の話を相手からしてくれたりすることもありました。「フェミニズムは男性批判ではなくて、性役割を批判している」ということが伝わり始めている感触がありますね。

「自分の気持ち」を大切にしたファッションを

——小泉さんは自分の服を選ぶときにどのようなことを意識していますか。

プライベートなどで「見られる自分」を意識しなくていい相手と会うときは、目いっぱい自分が好きな格好をします。スタイリストという仕事柄、仕事でも比較的好きなファッションはできているのですが、逆にファッションに注目されることも多いので、他人軸の視点を取り除くのは難しい。なので、必ず一点だけでも自分軸の基準で自分の気分が上がるものを選ぶようにしています。

ファッションは「人にどう思ってもらいたいか」をアピールするツールではあると思うので、ファッションに全く興味がないと言っている人でも、ちょっとしたことで「自分はどういう人間でどういうことを大切にしているか」など、情報を発信してしまっていると思うんです。

最近流行りのパーソナルカラー診断や骨格診断も、何を選んでいいかわからない人にとっては役立つものですよね。でも「人からどう見られるか」という他人軸で考えているものなので、個人的にはあまりのめり込みすぎない方がいいとは思います。

スタイリストとして「トレンド」を伝える仕事をしてはいるものの、トレンドも他人軸の考え方だと思います。自分が本当に必要とは限らないのに、欲しいかのように思えてきてしまう側面がありますよね。ファッションは人から見られるものなので、他人の目を全く気にしないことは難しいと思います。でもどこかで「自分がどういう格好をしたいか」という自分の気持ちを大切にしないと、永遠に満たされないのではないでしょうか。

——他人軸ではなく自分軸で、人と比べずに自分らしいファッションを楽しむためには、どんな意識が大切だと思いますか。

自分を知ることが大切だと思います。わたしたちは他者を満足させるために存在しているわけではないので、自分はどうしたいのか、どういうときに幸せな状態であるかを、意識的に振り返る時間を作るようにしています。

「人と比べる」とは自分ではなく、他人に意識が向いていますよね。他人の意見や情報ばかり見ているので自分と比べてしまうのではないでしょうか。SNSで簡単に他人の情報が入ってしまいますが、意識的にSNSを見ない時間も設けるようにしています。

その前段階として、私は自分を喜ばせる時間を大事にするようにしていて。「自分を大切にする」というと難しく感じるのですが、自分を恋人のように扱っています。恋人を適当に扱わないのと同じで「自分が本当に食べたいものを食べる」とか自分が心地良いと思える時間を増やすならハードルが低くなりますよね。

それが習慣化されると、他人から適当に扱われたときに違和感を覚えるようになるんです。
「この人/この職場は自分を大切にしてくれてないな」って。だから自分と向き合う時間を取ることを勧めたいです。

——小泉さん自身は情報との距離感をどう取るようにしていますか。

わたしの場合は情報収集も仕事に含まれるので、情報との距離の取り方は難しい部分もあるのですが、同じくらい自分の気持ちにも向き合う時間を取るようにはしています。以前だったら電車に乗る時間に、なんとなくInstagramを開いてしまいがちだったのですが、今はジャーナリングアプリなどを開いて、今行きたい場所とか、今やりたいこととか、モヤモヤしたことなど、感情を書き出しています。

そうやって整理することで自分がどんなことを考えているかとか、どんなことに悩んでいるかとかわかることもありますし、自分に意識を向ける時間そのものが大切だと思います。
 

【プロフィール】

小泉茜さん
小泉茜さん(ご本人より提供)


小泉茜(こいずみ・あかね)

1987年生まれ。スタイリストとして、女性誌をはじめとするメディアや広告を舞台に幅広く活躍。2020年、結婚での改姓を機に社会での性役割やメディアによる影響に向き合うようになる。2021年、ルッキズムやボディポジティブ、ジェンダーについて発信を始める。

●HP:https://www.akanekoizumi.com

●Instagram:@akane_koizumi_

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雪代すみれ

雪代すみれ

フリーライター。企画・取材・執筆をしています。関心のあるジャンルは、ジェンダー/フェミニズム/女性のキャリアなど。趣味はヘルシオホットクックでの自炊。



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