#デジタルネイティブたちの食わずらい 前編【人と違う、私たちのリアル】SNSが私のすべて?

 #デジタルネイティブたちの食わずらい 前編【人と違う、私たちのリアル】SNSが私のすべて?
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腰塚安菜
腰塚安菜
2023-03-17
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激動の3年、20代の荒波を乗り越えて。 「新しい自分」へ踏み出す今のリアルな思い

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学生時代に所属したホスピタリティや印象評論を学ぶゼミの恩師とのハグ(SNS投稿より)

コロナ3年を遡り、郁美さんの身に起きていたことは、大きな波風を立てずに日常を送ってきた筆者の目には「激動」のキャリア、ライフの変化と映りました。

筆者が郁美さんより二、三歩ほど先に踏み出した30代は、暮らし方は親と同居やひとり暮らし、仕事で責任のあるポジションに付いたり、一方で数人の育児をしていたりなど、多様性が膨らむ年代。

航空業界、ディズニー社での勤務など、郁美さんの20代は客観的に見れば華やかに映り、メディアやSNSの中の明るい彼女の姿を見れば「走り続けている」「活躍している」と捉え、周囲はさらに背中を押してしまうかもしれませんが、時に当事者に負担になることもあるのだと考えさせられました。

もちろん、郁美さん自身がSNSを活用し、食や体型で自己葛藤した日々、病床からの回復の道のりを綴る情報を発信してきたことで筆者は今回ご縁を頂き、SNSは有効なツールであると捉え直したことも確かです。

けれども働き方や生き方への思いは繊細で、周囲が知らない部分で移ろい、いつも同じでないこと。これは投稿を閲覧し合う関係ではなく、個人的な肉筆のやり取りをする中で見えてきたことでした。

2023年に入って近況を報告してくれた二通目の手紙には「私の症状も経験も全て発信し『気づき』となり、迷路からの脱却の助けとなりたい。」と、自分が辛い時も発信をやめず、他者を助けたいという気持ちで締め括られていました。

「CA(キャビンアテンダント)に戻りたい気持ちもあったが、高校の頃から叶えられていなかったカウンセラーになる夢、心の居場所作りの夢、人の役に立ちたいという夢もあった。自分がまず病気を乗り越え、幸せになることで、叶えてやろうと決めた。」

勤め先にも親にも見えない部分ですが、自分の経験を他者に活かしてコミュニティ運営をするという目標にも、着実に動き出しています。

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手紙やメールは働く筆者の身体を案じる優しさで締め括られている。

食や数字に囚われた若者たちの声 わずらいや「依存」の輪を広げてしまうネット環境のリアル。

デジタルの世界に視野を広げ「#摂食障害」とハッシュタグを付けて当事者たちのSNS世界を覗くと、葛藤する日々の想いは中高生から年齢の上限無く、現在進行形で次々と明るみに出ています。

インスタグラムやTwitterはそんなハッシュタグ、キーワードで自分たちを括り、悩みを共有・共鳴し合うコミュニティとなっていますが、

中には日々自分が食べるものですら「他人軸」で動かされるような食行動も、若者内でトレンドになっていることを知り驚きました(詳しくは後編で解説)。

「コロナで太ったのをきっかけに、運動脅迫や薬がやめられない」「外来や入院の経験があったが、退院後に元の日常に戻ったことで症状が悪化した」「入退院を繰り返し、復学できないでいる」など、

コロナの影響を間接的に受けて学業や進路に及んでいるというリアルな声も目立ちます。

さらに「(BMI)15を切りたい。14前半まで落としたい」「(BMI)12は太っているのだろうか」など、体重やBMI*といったセンシティブな数字にまつわる若者の書き込みは、当事者たちが互いを閲覧し合う関係で影響し合っていることまで考えると、畏怖すら感じられました。
*女性の場合、BMI15位以下は「身体症状に正常下限を下回る『るい痩(そう)』状態と言われ、専門病院の外来・入院受診の対象すら危うくなる。

「なぜそこまで、誰のために数字にこだわるのか。当事者同士のコミュニティで、悪影響はないのか」と思ってしまう大人の読者の方も多いでしょう。

「患い」とともに10代、20代を歩んだ郁美さんを取材したことで知り得たキーワード、当事者内で共有されてもいるキーワードが「拒食脳」というものでした。

専門家ではない筆者に詳しく解説することはできませんが、経験者の郁美さんによると、このようなものです。

「当事者の脳の中には『拒食脳』というものがあります。どうやって思考転換できるか、付き合っていくか解ればよいもの、多くの人がとても『頑張り屋さん』『完璧主義』なので『完全に治さないと』と、どんどん抜け出せなくなることもあります。それがなかなか理解されないからこそ、自分を責めていき、自己肯定感を下げていくのも特徴です。」

こうしたセンシティブな若者の心に、周囲の大人は「気づいていないふり」をしているのではなく、緩やかにつながる当事者の中でのみ共有され、医療者や親といった身近な存在が気づき得ないネット環境も後押ししています。

今や中高生からスマートフォンやSNSを使いこなしていますが、親たちは、子どもたちがその手元で操るネット上の情報や匿名的なやりとりで影響し合い、徐々に蝕まれていくメンタルヘルスについて管理することは厳しいでしょう。

すると医療従事者や親たちは、どうしても体重や体の変化といった目に見えるもので判断してしまうことになってしまうことが納得できます。

特に「何かに依存してしまう」という内面の悩みについて「親や先生には話せない。ここにしか書けない」という書き込みが多く見受けられましたが、ネット上の当事者の中でのみ共有されている状態は、あまり居心地がよいと感じられません。

筆者は本稿執筆にあたり、文化人類学者の磯野真穂さんの著書や、ヨガジャーナルオンラインやSNSで若い世代にも分かりやすく発信され、相談室も設ける心理士のあかねさんの「ダイエット依存」に関する記事や投稿を読み、改めて細かな症例や「依存症」の定義を把握しました。

依存症とは「心理的・精神的・社会的に、自分の不利益になっているのにもかかわらず、それなしにはいられない状態」で「自分の意思でコントロールが出来ない状態」であるとのこと。

アルコール、薬物だけでなく、買い物や人間関係までに及びます。何かへの「依存」は、それが病気と診断されていなくても、誰しも1つは思い当たる節があるのではないでしょうか。

こんな話題もあります。

日本ではまだ馴染みのない言葉ですが、欧州では「医学的に認知されないもの」として2017年にもニュースになった、いきすぎる健康志向「オルトレキシア」や、決まった食べ物やルーティン以外を排除する「回避性制限性食物摂取障害」など、新たに認知されるようになった「食わずらい」の症例が浮上しています(詳しくは後編で解説します)。

筆者はコロナ禍における自身の健康改善のヒントに、Coach Lottie氏のポッドキャスト「Your plate is Your Life®」を聞くようになり、これには自分も思い当たる節がありました。

10代の頃から地球環境や体にいい物を優先に買い物行動をしてきたとともに、食べ物や食べる場所を極端に衛生目線で選ぶようになった2020年以降、家族全体での会食控えや孤食が続く状態は続いています。

決して他人事ではない話題です。

誰もが不安なアンダーコロナ時代だから、みんなで共感できる。

後編は20代から10代へのメッセージ。 デジタル時代の「わずらい」(患い・煩い)に、社会みんなで共感するためのヒントをお届けします。

これを読んでいる10代の方がいらしたら、以下のサイトをご紹介します。

ポータルサイト:「10代のあなたへ」

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腰塚安菜

腰塚安菜

慶應義塾大学法学部政治学科卒業。学生時代から一般社団法人 ソーシャルプロダクツ普及推進協会で「ソーシャルプロダクツ・アワード」審査員を6年間務めた。 2016年よりSDGs、ESD、教育、文化多様性などをテーマにメディアに寄稿。2018年に気候変動に関する国際会議COP24を現地取材。 2021年以降はアフターコロナの健康や働き方、生活をテーマとした執筆に転向。次の海外取材復活を夢に、地域文化や韓国語・フランス語を学習中。コロナ後から少しずつ始めたヨガ歴は約3年。



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