好きなものを堂々と好きと言えないのはなぜ?劇団雌猫と考える30代の自意識問題

 好きなものを堂々と好きと言えないのはなぜ?劇団雌猫と考える30代の自意識問題
illustration by あないすみーやそこ

もし今、誰かに「かわいいね」言われたら、あなたならどう答える? 周りの30代女性に声をかけると、素直にありがとうと言えない、喜べないという声が驚くほど多い。褒められることに関し、過剰反応、卑下、謙遜……。そんな女性の葛藤について、劇団雌猫に話を聞いてみた。

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劇団雌猫の編著書『だから私はメイクする』を原作とするコミック中に、印象的なシーンがある。舞台は、ドバイの市場。日本人の主人公が、身につけているペンダントをドバイの通りすがりの女性から「素敵ね!」と褒められる。それに対して主人公の口からとっさに出た言葉が「これ、安物で…」。褒めてくれたドバイの女性はそれを聞いて「ふーん…いい買い物したのね」と冷たく去っていくというシーンだ。本当はとても気に入って買ったもので、大好きだから身につけていたのに…どうして素直に「ありがとう」と言えないのだろう、と自問する主人公。日本では、謙遜は美徳だと捉えられることが多い。似たような話で、自分の好きなものを堂々と好きと言えない人も多い。それは何故なのだろう?

「本心と行動は一致しなくてもいい」?

ーーお二人は、持ち物やご自身のことを褒められた時、どう反応するのですか?

かん「この問題、中学時代すごく悩んだんですよ。それで出た答えが『本心と行動は一致しなくてもいい』っていうことで。褒めてもらうたびに『これ安物だけど…」とか『お世辞かな…』とか自分の中で言い訳を探していると、表情や声色がこわばってしまうんです。そのせいで雰囲気がギクシャクしても、特にいいことは何もないので、余計な思考は挟まず「褒められたらありがとう」を徹底するクセをつけました

ーーその方法は、どこから学んだのですか?

かん「とあるアイドルの握手会での有名なエピソードがあって。ファンがどんな声をかけても、その返事として『本当ですか?ありがとうございます』を繰り返していたらしいんです。握手会だと話が噛み合わないことあるので、面白エピソードとして話題になったのですが、「褒められたらありがとう」は必ず噛み合いますから、安心です(笑)。」

ーーありがとうと言えるようになりたいなら、深く考えずに、まず「ありがとう!」をテンプレ返答にしてしまってもいいかもしれないですね。ユッケさんはどうですか?

ユッケ「私は嘘がつけないタイプだから、言われてうれしい相手にはありがとうって返すし、嫌な相手には、返し方を決めていても、死んだ顔で返してしまいそう(笑)。でもまぁそれでいいかと思っています。自分にストレスがかからないのが大事だから、かんにはテンプレが合ってるし、私には心のままに返すのが向いてる。だから、自分に合うパターンを探すといいと思う」

ーー自分の好きなことを人に言えないという声、どう思いますか?

ユッケ「正直、理解できます。やっぱり高校生の頃や大学生の時は周りに謎の見栄を張りたくて、最初はオタクを隠してましたから。でも、結局バレちゃうんですよ。今は世の中的にもだいぶ『私はオタクです』って言いやすい世の中になったし、それが集団の中で私のキャラクターになることもあるので、隠さないようになりました。今の方が楽ですね」

かん「私は子どもの頃からそんなに好きなものを隠した経験はなかったです。積極的にアピールするよりは聞かれたら答える、という感じでしたが。隠していないことと、周りに受け入れてもらえることと、周りに同じ趣味の仲間がいるということは全て違いますから、自分今いる環境に何を求めているのかははっきりさせた方が楽だと思います」

「好き」が私たちにくれるもの

ーーそんな時期を経て今は劇団雌猫を結成して、自分たちの「好き」を思いっきり追求しているおふたりですが、その原動力はどこにあるのでしょう?

ユッケ「好きなものに触れている時って、やっぱり楽しいんですよ。好きなアイドルのコンサートに行くと、日常生活では感じないくらい、異常なアドレナリンが出る(笑)。現実世界でつらい事があっても、その"好き"に触れると感情がジェットコースターのように揺れて、今を生きている感じがします」

かん「趣味がないと家と学校、家と会社の往復になってしまいますが、オタクなおかげで"もう一つの居場所"がある感覚ですよね。オタク仲間とは推しの話だけじゃなく、家のことや学校のことを相談できたりもする。ヨガ教室でもジムでも、なんでもいいと思うんですけど…そういうサードプレイスを持っていると日常を頑張れる気がしますね」

ユッケ「そう思うとオタクってコスパがいいよね(笑)。居場所もくれて、アドレナリンも出してくれる!」

自分を知って、自分を好きになる。自分で生み出す、自分だけの幸せ

ーー今回のインタビューを通して、劇団雌猫のお二人が「自分を好きになるためには、自分を知る必要がある」と言っていたのが印象的でした。おふたりは、自分のことはどう分析しているのですか?

ユッケ「私は、興味あることはなんでもやる人。実際に行動してみたら、向いてないと思っていたことができたりするし、逆にやりたかったことが意外とできなくてモヤモヤしたり。そうやって徐々に『私はこれが好きだし、得意』というものだけ選んで、やっている感じです。基本、人の意見は信じていないので、自分で確かめるタイプだと思います」

かん「意志が弱い。時間を守れない、朝起きれない。なんでも三日坊主。だから、ユッケさんみたいに、筋トレもやる前からすぐ飽きる未来が見えてるのでやらないです(笑)。自分のダメなところを知ってるから、ストレスになることはしない」

ユッケ「25歳くらいまで、私は"人生のモブ※"だと思ってたんです。主役は、応援しているアイドルたち。でも同じアイドルを応援している、好きなオタク友達に『自分の人生の主役は自分だから、私は選択を間違わない』と言われて、衝撃を受けて。そこから自分が人生の主役でいいんだって思えるようになりました」

ーー自分が、自分の人生の主役……確かにそうですね。

かん「とか言葉にすると、アッパーで華やかだと思うかもしれないけど、実際はダラダラと落ち込んだりしながら暮らしています。そうやって自分の中でモチベーション上げようと頑張ってるだけです」

ユッケ「だよね。LINEで愚痴を送りあったりもするし(笑)。いい感じに不真面目で、頑張らなくていいところは頑張らない!ストレスになることはしない、というだけの話です!難しく考えないで」

ーーどんな質問にも、おふたりは即答で的確な返事をしてくれますよね。それも「自分の好き」を追求してるからでしょうか?

ユッケ「オタクはいつも他人を自分の"沼"に引き摺り込みたいと思ってるので、推しの良さを魅力的に説明するために、語彙が増えているのかもしれないですね!」

かん「オタクは140文字(=Twitterの文字数)にまとめるのに慣れてるからね(笑)」

ユッケ「あとは推しにファンレターを書く時に、いかに批判せず、伝えたいことを伝えるか、とかいつも考えてるからかもしれないな(笑)」

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人間関係から自意識まで、時には答えにくい質問にも飄々と、的確な言葉で答える劇団雌猫のお二人。その姿は、おしゃれもオタクも趣味も仕事も全力で楽しむ、まさにハイブリッドな現代女子だ。彼女たちは今日も、家と仕事とは別の居場所とを行ったり来たりしながら、今日も幸せホルモンをドバドバと放出している。自分を幸せにするのは、他の誰でもない自分ーーハッピーは外からもらうものではなく、自ら生み出すものなのだ。

※モブとは、大衆、群衆、群れ、やじ馬などの意味。語源は英単語のmob

プロフィール

劇団雌猫
平成元年生まれのオタク女4人組(もぐもぐ、ひらりさ、かん、ユッケ)。2016年12月にさまざまなジャンルのオタクがお財布事情を告白する同人誌『悪友vol.1 浪費』を刊行し、ネットを中心に話題に。2017年8月には『浪費図鑑』(小学館)として書籍化。現在はイベントや連載などに活動を広げながら、それぞれの趣味に熱く浪費している。最新著書は『海外オタ女子事情』(KADOKAWA)。

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Text by Yuki Ikeda



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