アメリカで話題「静かな退職(Quiet Quitting)」と女性のワークライフバランスの関係

 アメリカで話題「静かな退職(Quiet Quitting)」と女性のワークライフバランスの関係
Getty Images

仕事に対する新しい考え方として話題になった「静かな退職(Quiet Quitting)」。仕事とプライベートの線引きをはっきりさせることは、人生の質を向上させるものかもしれません。

広告

静かな退職(Quiet Quitting)とは?

アメリカで話題になった新概念「静かな退職(Quiet Quitting)」は、コロナ禍の2022年夏ごろに生まれました。仕事を退職するのではなく、仕事とプライベートを明確に線引きして、仕事は与えられた量のみを淡々とこなす働き方をあらわしています。

これまでスタートアップがテレビドラマや映画の題材になったことで持て囃されてきた、がむしゃらに働く「ハッスル文化」が終焉を迎え、ワークライフバランスを重視する考え方です。
TikTokerが2022年7月に投稿した「静かな退職(Quiet Quitting)」についての動画が、Z世代中心のプラットフォームTikTokで多くの反響を呼びました。

 

@zaidleppelin On quiet quitting #workreform ♬ original sound - ruby

 

アメリカではコロナ禍で従業員の解雇(レイオフ)が相次ぎ、ロックダウンで人生について落ち着いて考える時期であったことも「静かな退職(Quiet Quitting)」が人々の共感を得た理由になっているのかもしれません。

世論調査を行うギャラップ社が2022年に発表したレポートでは、自称「静かな退職(Quiet Quitting)」を実践しているアメリカの労働者は50%を占めると発表しており、実態はおそらくそれ以上にのぼると述べています。
「静かな退職(Quiet Quitting)」に該当しない人は、積極的に業務に関与している人32%、はっきりと業務に関与しないという人18%だといいます。

この「静かな退職(Quiet Quitting)」の考えはグローバルに拡散され、日本でも新しい働き方への姿勢としてメディアでも取り上げられています。

女性のキャリアに立ちはだかる壁「マミートラック」

ワークライフバランスを意識して働き方を変えることは、自分で選択する場合と、不可抗力で変えざるを得ない場合があります。
女性が子どもを産み、育てることは自ら選択することではありますが、少子化日本は「出産・育児をしにくい」社会であるため、女性にとって多くの困難があります。

最近では、子育て中の女性が陥る「マミートラック」について語られることが増えました。
マミートラックの「トラック」は、競技用トラックからきています。出世コースを意味する「ファストトラック」と異なり、仕事と育児の両立が障害になって思うように進めないことを意味するのが「マミートラック」です。

育児の負担が女性に偏りがちで、女性がキャリアを諦めないといけない状況に陥り、責任ある立場を手放す傾向があります。また、一度育児などの理由でキャリアに空白期間が生じると、転職で不利になったりする日本の課題もあります。個人の努力ではなく、産休や育休を取りやすい企業文化や柔軟な評価体制など企業が変わらなければならないことです。 

転職サイト『女の転職type』の2021年の女性への調査で「管理職になりたくない派」が54.9%という結果が出ていました。なりたくない理由の1位は「責任が重くなる」68.6%、2位は「残業時間が増えそう」50.8%、3位は「自分にできる自信がない」50.3%という内訳でした。

課せられる責任が自分に見合わないという考え以外に、「自分に自信がない」というところは、女性が自分を過小評価してしまうインポスター症候群を思わせるものがあります。

形式だけの生理休暇

大塚製薬・働く女性の健康意識調査の「女性の健康推進プロジェクト」では、約5割の人がPMS症状の自覚があるものの、「人に相談したくない」「職場に迷惑はかけられない」と我慢しているという調査結果が出ています。

生理痛やPMSの症状があることを職場の人事や上司に伝えることは簡単なことではありません。

日本には戦後1947年から「生理休暇」が存在することで、海外で話題にされることがありますが、実際にこの制度を活用して休みを取る人が少ないこともよく語られています。国の最新の調査でも、1%を割り込んでいることがわかっています。1965年の厚生労働省調査では、女性の労働者の4人に1人以上が取得していましたが、1985年には9.2%に下がり、最新の2020年では0.9%まで落ち込んでいます。
出典:「生理休暇」取得率1%なぜ低い 国の最新調査 労組アンケ、職場の理解「ない」6割|総合|神戸新聞NEXT

更年期障害と仕事の両立

先ほどもあげた「女性の健康推進プロジェクト」では、更年期症状がある女性の4割以上が職場での昇進をためらったり、辞退しているという調査結果が出ています。

更年期は生理やPMS同様に、職場で相談しにくいことと、「エイジズム」と呼ばれる年齢差別へのおそれもあいまって、一層相談しにくいものになっています。個人の意識が変わっても周りの受け入れ体制が整っていなければ更年期障害で安心して仕事を続けることができません。

更年期障害を迎える年代の女性は仕事が熟練し、管理職としてふさわしい人材が揃っていますが、身体的課題でキャリアを諦めるのは大きな機会損失です。

2022年10月に、アイルランド銀行が従業員に有給の「更年期休暇」を提供することを発表しました。このような新しい取り組みによる明るい兆しは芽生えつつありますが、日本での意識変容には長い期間がかかるでしょう。

野心を捨てても守りたいもの

「静かな退職(Quiet Quitting)」のムーブメントから、仕事を自己実現の手段として投影しない選択肢の広がりと同時に、頑張りが報われない諦めと開き直りが伝わってきます。

ジェンダーにまつわる不理解が原因となるマミートラックや、身体的課題を無視した環境は改善されるべきことです。しかし、仕事が自己実現につながらないことに残念さ、悔しさを募らせるより、視点を変えて自分の身体を大切にしたり、家族との時間を確保できる人生も悪いものではありません。

「静かな退職(Quiet Quitting)」は、野心を持たないことが許されない「空気」が本当に人生で重要なことなのか疑問を投げかけます。

自分の「価値」が他者の評価で成り立っていると、「風邪を引いたら休む」「ケガをしたら動かない」「満腹になったら食べるのを止める」といった、当たり前のことの延長にある「疲れたら休む」ができなくなってしまうものです。

ライフステージの変化、バイオリズムで自分の心身がすり減らないようにするには、自分に向き合うことが大切で、他者の評価は役に立ちません。

限られた人生の優先順位を考えたとき、他者の評価に基づく役割から降りることを肯定する「静かな退職(Quiet Quitting)」は、日本の女性に新たな選択肢を提示するものかもしれません。

広告

AUTHOR

中間じゅん

中間じゅん

イベントプロデュースや映像制作を経て、ITベンチャーに。新規事業のコンセプト策定から担当。テクノロジーとクリエイティブをかけ合わせた多様なプロジェクトの設計に参画。社会課題やジェンダーの執筆活動を行う。



RELATED関連記事

Galleryこの記事の画像/動画一覧

アメリカで話題「静かな退職(Quiet Quitting)」と女性のワークライフバランスの関係