ヘルプマークの"炎上"から考える、他者との違いを知る場の必要性【連載 #"生きる"を綴る】

 ヘルプマークの"炎上"から考える、他者との違いを知る場の必要性【連載 #"生きる"を綴る】
宮井典子
宮井典子
宮井典子
2022-10-15

ピラティスインストラクターであり、ヘアターバンデザイナーの宮井典子さん。全身性エリテマトーデス(SLE)患者としてメディアで啓蒙発信しながら、心地よい暮らしと働き方を模索しています。そんな宮井さんによるエッセイ連載『"生きる"を綴る』、今回は第5回目です。

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このところ、とあるミュージシャンのニュースで話題になっているヘルプマークですが、みなさんはご存知でしょうか。

ヘルプマークが誕生して10年を迎えた2022年。

東京都がヘルプマークの認知度を調査したところによると、「意味を含めてヘルプマークを知ってる」と答えた人は64.9%で、「見たことや聞いたことはあるが詳しい意味は知らない」は23.0%。意味の理解はさておき、認知度だけで見ると8割超え。

正直、この結果に驚いてます。

ただ、現実は認知度があっても浸透しているかは別の話で、実際、必要じゃない人や、身近なところで見たことがない人にとっては、ヘルプマークの必要性って何だろう?という方もいるのではと思います。

決して悪い意味ではなく、身近なところで見たことがなければそれは当然だと思うからです。

先日、帰宅早々、小学生の娘が、「ママ〜、今日学校でヘルプマークについて話しをしたよ」と教えてくれました。

授業でヘルプマーク?

娘にどんな授業だったのか詳しく聞いてみると、SDGsや環境、災害、防災をテーマに話し合ったり、考えたりする生活・総合という授業で、この日のテーマが《自分以外で困っている人はどのような人?》だったようです。

自分が思う「困っている人」をグループで発表していくというものらしく、そこで娘が思い付いたのが「ヘルプマークをつけている人」。

「みんな知らなかったって言うから、どんなカードなのかを話したよ。電車にのるとき知ってたら困ってる人を助けられるもんね。友達には、教えてくれてありがとうと言われたよ」と嬉しそうに話してくれました。

これまでもマタニティマークをつけてる人に席を譲っていたり、シニアの方に「座りますか」と率先して声を掛けていたのは知っていましたが、娘にとってはどれも特別なことではなくて、ただただ困っている人の役に立ちたい、助けてあげたいという、子どもながらのシンプルな気持ちでのこと。マタニティマークもヘルプマークも、たまたま必要な人が身近にいただけのことなんだなと話を聞いて感じました。

"身近な"というのは、家族や友人といった近しい関係性というだけではありません。多種多様な人との触れ合いを通してだったり、日常とは違う環境に身を置くことだったり、みんな違うからこそ違いを知る場の必要性や大切さを改めて娘から学びました。

当たり前だけど、世の中にはいろんな人がいて、いろんな考えの人がいる。

だけど、自分の生活圏内では色んな人に会うことの方が少なかったりします。

特にコロナ以降、外出頻度は減ってコミュニティも限られてきて、新たに出会う人もそんなに多くないように思えます。

たとえば、自分の生活圏内で車椅子に乗ってる人を見たことはありますか?

ヘルプマーク、マタニティマークをつけてる人を見かけるでしょうか?

身近にいなければ、必要としなければ、目に留まることもないだろうし、気にすることもない。それが普通のことだと思います。

どんなことにも言えるけれど、サービスも支援も必要な立場にならないとその必要性はわからないものです。必要になってはじめて知ること、気付くことの方が圧倒的に多いんです。

今回のミュージシャンのグッズ騒動で話題となったヘルプマークは、義足や人工関節を使用している方、難病の方など援助や配慮が必要であることを知らせるためのもので、人や場合によっては《命を守る》大切なカード。類似品が出回ることで、正しく理解されず見過ごされてしまう可能性があると指摘されています。

なので、正しく認識し理解することが大切だとした上で、わたし個人として、ヘルプマークの存在だけに限って言うならば、このニュースをきっかけにヘルプマークという言葉と存在が知られるよい機会とも言えるだろうと考えています。

何よりここで大切なのは、ただの炎上、ただの騒動で終わらせるのではなく、なぜ今このグッズ騒動が炎上しているのか、その本質を知ること、そして考えることではないでしょうか。家族や友達をはじめとするコミュニティで、ミュージシャンの名前を皮切りにぜひ話をしてもらえたらと思います。

最後に、娘曰く、電車内でヘルプマークやマタニティマークを付けている人に声を掛けるのは、とても勇気がいるそう。断られると少し悲しいと言っていたので、もし子ども達に「どうぞ」と声を掛けられたら、断らずにぜひ座ってもらえると嬉しいです。

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宮井典子

宮井典子

SLE Activistとして活動。37歳のときに膠原病予備軍と診断される。38歳で結婚し、39歳で妊娠、出産。産後4カ月で仕事復帰し、ピラティスのインストラクターとして精力的に活動。46歳のときにSLE、シェーグレン症候群を発症。現在は、誰もが生きやすい社会を目指してSNSを中心に当事者の声を発信。



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