そのままの自分を「愛したい・けど・愛せない」の葛藤を生きて|チョーヒカルの#とびきり自分論

 そのままの自分を「愛したい・けど・愛せない」の葛藤を生きて|チョーヒカルの#とびきり自分論
Cho Hikaru/yoga journal online

誰かが決めた女性らしさとか、女の幸せとか、価値とか常識とか正解とか…そんな手垢にまみれたものより、もっともっと大事にすべきものはたくさんあるはず。人間の身体をキャンバスに描くリアルなペイントなどで知られる若手作家チョーヒカル(趙燁)さんが綴る、自分らしく生きていくための言葉。

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「見た目なんて重要じゃないよ」なんて言葉では救えない世界

TikTokを時々見るのだけれど、今日見た一つの動画が強烈に印象に残っている。美しい女の子が歌に合わせて口パクをする動画に返信するような形で、10代と思しき女の子が泣きながら喋っている。

「この人みたいに美しいって私は一生思ってもらえないんだって気づいてしまった。綺麗な人を恨んでいるわけじゃない。美しい外見を得るためにたくさんの努力が必要なことがあるのも知ってる。でも悲しくて仕方ない。顔の作りによって、私には一生得られないものがある。外見だけで人に好かれ、賞賛され、たくさんフォローされることは一生ない。私は面白役をやってどうにかみんなの仲間に入れてもらわないといけない。そうやって生きていくしかない。知りたい。美しいってどんな気持ちなんだろう」

聞いていて涙が出てくる。私もその場所を知っている。「あなたも美しいよ」とか「見た目なんて重要じゃないよ」なんて言葉では救えない世界に今彼女はいて、私も確かにそこにいた。

何年前だったか、その日私は美容整形外科の待合室にいた。インスタグラムでフォローした美しい顔の人と自分の顔を見比べ続け、ほとほと自分の鼻に嫌気がさしたからだった。そんなにひどいわけではないと思うけれど、どうしても理想と違うのだ。そんなこんなで掲示板や整形体験ブログを読み漁ってやりたい施術をリストアップし、金額と相談し、家から割と近いクリニックを見つけ、無料の初回カウンセリングに来た。

クリニックは小さく、全体的に白基調なのに受付カウンターの後ろの壁だけ大振りな花柄でなんだか胡散臭い。謎の巨大なテディベアも置いてある。そんなファンシーな受付のくせして、無料カウンセリングで来た旨を伝えた際の受付のお姉さんの対応はすこぶる悪かった。

しばらく待って診察室に入ると、50代くらいの白髪のおじさんが白衣を着て座っている。

「無料カウンセリングらしいけど、どんな施術考えてるの?」

ちょっと強い口調に怖気付く。

「えーっと…あの、鼻翼縮小と、プロテーゼとか…」

続けて、そんな大幅に変える必要はないと思うんですけど…と言おうとしたところで医師が突然私の小鼻を触る。小鼻から小鼻を親指と人差し指でキュッと摘んだり緩めたりしてながら

「あー!確かにね。ふむ、これはこのくらい小さくしたらいいですね」

と言い放ち、キュッと鼻を摘まれたまま鏡を見せられる。

自分のパーツが他人にコントロールされている。私の鼻が私のものではなくなったような奇妙な感覚。自ら美容整形クリニックに来たくせに「確かに変えた方がいい」と言われたら傷ついている自分もいた。

鏡の中の鼻をつままれた自分は、確かに鼻が小さくなっていて、いわゆる世間的な美人に近づいた顔だった、かもしれない。でも何故か「これは私ではない」と強く思った。あんなに嫌だと思った鼻なのに、いざとなったら愛着が湧いていて、その矛盾が自分でも気持ち悪い。私は結局怖気付いて、次の予約を入れずにそそくさとその場を後にし、クリニックの近くにあったちょっと有名なパティスリーのケーキを買って帰った。ケーキを食べながら少し泣いた。

「美しくなりたい」本当の理由

「美しくなりたい」と涙を流すとき、それはモテたいとか、褒められたいとか、そんな理由ではない。美しくないことから解放されたい。それだけなのだ。美しいことがプラスなのではなく。美しくないことがマイナスなのだ。大袈裟に聞こえるかもしれないがそんなことはない。自分をそのまま愛してあげたいなんてみんな思っているし、それができる世界だったらどんなにいいことだろう。だけど現実では、自分を愛したい気持ちと自分を嫌う気持ちの狭間で私たちはずっと戦わなければいけない。年を経るうちに確かに少しずつ鈍感になって、生きやすくなっていくけれど、今だって美しくなりたい。「外見なんてどうでもいい世界」はもうしばらく実現しないだろうから、私たちはそれを認めて戦に挑むほかないのだ。

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AUTHOR

チョーヒカル

チョーヒカル

1993年東京都生まれ。2016年に武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科を卒業。体や物にリアルなペイントをする作品で注目され、衣服やCDジャケットのデザイン、イラストレーション、立体、映像作品なども手がける。アムネスティ・インターナショナルや企業などとのコラボレーション多数。国内外で個展も開催。著書に『SUPER FLASH GIRLS 超閃光ガールズ』『ストレンジ・ファニー・ラブ』『絶滅生物図誌』『じゃない!』がある。



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