臨床心理士が音声SNS「Clubhouse」を使って考えた「自分を守るSNSとの付き合い方」

 臨床心理士が音声SNS「Clubhouse」を使って考えた「自分を守るSNSとの付き合い方」
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南 舞
南 舞
2021-02-15

「SNS疲れ」「SNS鬱」など、新しいSNSが登場するとそれに対するネガティブなワードをよく耳にしませんか?最近巷では音声配信SNS【Clubhouse】というSNSが登場し、話題になっていますね。筆者にも招待が回ってきたので、せっかくだからと色々と試してみました。その中で見えてきた想いや感想をお話しします。

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仲間同士の支え合いの場所になる

これまでのSNSは文章や写真、あるいは動画に対してコメントなどをすることでつながるものが多かった中で、Clubhouseのように音声でダイレクトに相手と繋がれるSNSというのは珍しいのかもしれません。実際にやってみると、普段はSNSのつながりのみで、直接お話ししたことがない人のリアルな声が聞けることで、人となりや雰囲気をより理解することができたり、他のSNSではつながることができなかった方と知り合えることで「こんな世界もあるんだ!」という自分の中に新たな世界が広がるというメリットを感じました。また、興味のある部屋に入ると、自分と似た価値観を持つ人や、同じ境遇、例えば、育児真っ最中のママやパパ、普段は1人で働くことが当たり前のフリーランスなど、自分の境遇と近しい人とつながることもできます。そういった場では、ある人が自分の持っている悩みを共有すると、それに対しての別の人が対処方法をアドバイスしてくれるなど、心理学やカウンセリングでは【ピア・サポート】と呼ばれる現象が起きていると感じました。ピア・サポートとは、専門家によるサポートではなく、同じような境遇にある人や仲間同士の支え合いにより、問題を解決していく姿勢のことを指します。これはClubhouseに限ったことではなく、他のSNSでも同じことが言えると思いますが、そういった意味合いで使われていけば「悩んでいるのは自分だけじゃないのかも」「また明日から頑張ろう」と思える、心の休憩所的な役割を果たしてくれるのかもしれません。

ダイレクトにつながれる一方で

良い面も多いClubhouseですが、一方で「しんどいかも」と感じる点もありました。

Clubhouse
ダイレクトにつながれる一方で、音声SNSがゆえのストレスも… photo by Adobe Stock

相手の表情が見えないことでの不安や疲労

Clubhouseは音声配信SNSなので、基本的には声のみに頼ったコミュニケーションとなります。そのため、間合いが分からずに相手と話すタイミングが被って気まずさを感じたり、しゃべることを止めようとしたら違う人が話し始めて「いつ終わればいいんだろう」と終わりの見えなさを感じたり。私たちのコミュニケーションは、言葉以外の目線やジェスチャー、見た目などによる視覚情報が50%以上で成り立っているので、それがない中でのコミュニケーションを求められるとなるといつも以上に疲れてしまうかもしれませんね。

話すことで余計に傷ついてしまう?

Clubhouseでよく見られるのが、専門家によるお悩み相談の部屋。有名な先生やカウンセラーが自分の話を聞いてくれるとなれば、それは話したくなりますよね。しかし、話の内容によっては、その場で解決しないこともありますし、自分の思った答えでないこともあるかもしれません。それがかえって「話したことで余計辛くなってしまった」「公共の場で自分の弱さを見せてしまった」などのダメージになることがあります。本来悩みの相談は、安心・安全な場所で行われることが望ましいと筆者は考えます。これもClubhouseに限らず、他のSNSにも当てはまることかもしれませんね。そういったデメリットがあることも覚えておくと良いでしょう。

 相手のことも自分のことのように感じてしまう?

相手の悩みが現在進行形で続いているものであったりすると、重い感情を伴います。それが聞いている側にも伝わると「苦しい」「しんどい」と感じてしまうことも。「人の悩みを聞くために聞いている」という目的があれば話は別ですが、多くの人はそうではないことの方が多いはずです。心の準備ができていない状態で話を聞くことで、思いがけず自分の中にある心の傷をえぐられるような体験をしてしまう可能性があります。また、ストレスや疲労などで心身ともに疲れていたり、もともと共感性が高い人であったりすると、SNS上での他人の悩みを聞くことで【自他境界(バウンダリー )】があいまいになってしまうことがあります。【自他境界(バウンダリー )】とは、『相手と自分は別のものである』という心の境界線のようなもの。これがあいまいな状態だと、相手の話も自分のことのように捉えてしまい、心の不安定さを引き起こすことがあります。これは悩み相談の場に限ったことでなく、「フォロワーを増やそう!」「フォロワー◯人超えた!」などの、 SNS特有の承認欲求が見え隠れするのを目の当たりにした時も同じかもしれませんね。自他境界があいまいな状態では「この人に比べて自分は…」など、他者と自分を比較して落ち込む。なんてことにもなりかねません。

SNS 疲れ
相手のことも自分のことのように感じて、疲れてしまうことも… photo by Adobe stock

自分を守りながらSNSと付き合っていくためには?

その場から離れる

相手の話を聞いていて「なんか重い感じがする…」「つらいかも…」と感じた時は、その場から離れるのもひとつ。SNSという場だからこそ、その情報に触れるか触れないかは自分で選ぶ権利がありますし、自分にとってつらい情報からはあえて離れるのも自分を守る上で大切なことです。実際に筆者も、お悩み相談のお部屋で話を聞いていたら、つらくなってきたので、すぐにその場から離れました。仕事の場なら別ですが、プライベートだったこともあり、そういった話を聞けるモードにはなれませんでしたし、普段から仕事とプライベートの境界を作るよう心掛けていたので、すぐにそういう対応ができました。

身近な人に胸の内を話してみる

また、SNSに触れていて抱いたモヤモヤやソワソワした気持ちを身近な人に話してみることも良いかもしれませんね。筆者もClubhouseや他のSNSで感じたことを、友人始め身近な人に話すことがありますが、意外と周囲も同じようなことを思っていて、共感してもらえることも多く、意外とスッキリしますよ。

そして、SNSに必要以上に反応してしまう時は、食事・睡眠などの日常生活がうまく回っていなかったり、心身ともに疲れていることもあったりするので、自分に対するケアの方に意識を持たせるようにしたり、今感じている自分の欲求が何なのかに耳を傾けるのも大切なことかもしれません。例えば、筆者はそういう時は他人や周囲から少しだけでもいいので離れる時間を作り、ヨガをしながら自分の呼吸や体、気持ちと対話するようにしています。そうすることで自分にとって本当に必要なモノ・コト・つながりを再確認することができるからです。SNSによって他人とつながることが簡単にできてしまうご時世だからこそ、【自分に意識を向ける】ことが求められているかもしれませんね。

ライター/南 舞

臨床心理士。岩手県出身。多感な思春期時代に臨床心理学の存在を知り、カウンセラーになることを決意。大学と大学院にて臨床心理学を専攻し、卒業後「臨床心理士」を取得。学生時代に趣味で始めたヨガだったが、周りと比べず自分と向き合っていくヨガの姿勢に、カウンセリングと近いものを感じ、ヨガ講師になることを決意。現在は臨床心理士としてカウンセリングをする傍ら、ヨガ講師としても活動している。

Instagram: @maiminami831

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